[2017_11_24_01]原子力産業の崩壊 「安全確保」どころか部品の検査もしない 規制委は実機の非破壊検査一つ指示していない(日本鋳鍛鋼) 規制委は全ての原発の再検査報告を直ちに出させるべきである 山崎久隆(たんぽぽ舎)(たんぽぽ舎2017年11月24日)
 
参照元
原子力産業の崩壊 「安全確保」どころか部品の検査もしない 規制委は実機の非破壊検査一つ指示していない(日本鋳鍛鋼) 規制委は全ての原発の再検査報告を直ちに出させるべきである 山崎久隆(たんぽぽ舎)

 日本の大手メーカーが次々に大事件を起こしている。
 三菱自動車、トヨタ、日産自動車、スバル、タカタ、旭化成建材、東洋ゴム、日本鋳鍛鋼、神戸製鋼所、東芝、三菱重工業、挙げていくと日本の主要なメーカーが目白押しである。一体何のつもりで製品を作っているのか。経営陣の責任を直接問わなければ事態は収まらない。
 東芝の「破綻」は経営が原子力にのめり込んだ結果である。現在進行形のメーカー不祥事では、その原発関係会社も並ぶ。原子力産業も内側から崩壊過程にある。
 最近の原発メーカーが絡んで引き起こされている事件から、日本鋳鍛鋼と神戸製鋼所を取り上げる。

1.日本鋳鍛鋼

◎ 日本鋳鍛鋼とは、原発の圧力容器や蒸気発生器などの主要部品を製造する鉄鋼製品などの材料製造会社である。
 圧力容器の場合、上蓋と下鏡部と胴体とに分かれて製造される。厚い鋼板を曲げて円筒形に溶接で組み立て、下鏡と溶接し、焼鈍工程を経て製品化され、その後原発内部に据え付けた後に上蓋が取り付けられる。
 蒸気発生器も高圧を支える圧力容器である。同じように組み立てて製造され、加圧水型軽水炉で使用される。最大150気圧の運転圧力が掛かる。
 この容器には厳しい条件が課せられている。それは含有炭素量を極力抑えることである。

◎ フランスの基準は圧力容器で0.22%以下、一方日本の基準(JIS規格)は0.29%以下と甘い。
 フランス原子力安全局(ASN)は9月、フランスで建設中のフラマンビル原発3号機において、鋼材の炭素濃度が基準を満たしていないことを明らかにした。
 発端は2014年にフランスのアレバ社が建設中の3号機圧力容器上蓋の上部に炭素が偏析していると報告したことに始まる。
 その後の経過は、2015年にASNがフランス電力会社EDFに調査を指示し、2016年6月にEDFが報告書を提出、10月にASNが疑惑のある原発の運転停止を命令し検査が開始される。12月にASNが日本鋳鍛鋼社製の部品を使用している原子炉について運転承認のための条件をつけ、2017年1月30日には9機の原発の再稼働を容認した。
 問題が発見された18機のうち12機が日本鋳鍛鋼の部品を使っており最も炭素濃度が高いのはトリカスタン1、3号機で0.39%であった。(経過はグリーンピースの資料より)

◎ 炭素含有率が規定を超えた理由は材料の生産方法にあると思われる。
 まず金属材料を高温で熱し、鋳型に流し込んでブロックを作り、材料を切り出して圧延する。含まれる炭素は上部に溜まりやすいので、その部分を切り捨てて板を作るが、量が少ないと製品部分に炭素濃度の高い所が残る。炭素偏析という。
 炭素含有率が高いと材料は脆くなる。
 例えば圧力容器は中性子を浴びて徐々に脆くなる(脆化という)が、炭素の割合が高いと脆化が早く進行する。
 また、急冷などの熱衝撃にも弱くなり、設計上は問題がない条件でも、瞬時に破壊される「脆性破壊」の可能性が高まる。
 圧力容器や蒸気発生器は原子炉冷却材を保持するため決定的に重要であり、破断すれば炉心損傷につながる。炭素濃度が規定を超えているものは欠陥原発だ。

◎ 日本鋳鍛鋼は1995年から2006年頃に出荷した部材に欠陥品が含まれることを認めている。ASNはフラマンビル原発3号機の上蓋が制限を逸脱しているため、運転を許可したものの2024年までに交換することを合わせて求めている。ただし10年以上も不良品を出し続けた原因は解明されていない。
 日本鋳鍛鋼の製品は国内でも使われていたが、原子力規制委員会は製造時の書類上のチェックをしただけで問題なしとしてしまった。実機の非破壊検査一つ指示していない。
 これは明らかに安全上の大きな後退である。

2.神戸製鋼所

 日本有数の総合素材メーカーである神戸製鋼所は、これまでに明らかになっただけで約500社余に対して供給した部品や材料のデータを偽装または検査せずに出荷していた。
 原子力への材料供給でも同様の問題を引き起こしていた。発表されたのは福島第二原発に出荷されていた配管の一部について、検査しなかったことと、ウラン濃縮プラント用遠心分離器材料の検査データ捏造だ。
 神戸製鋼所では、これまで数多くの原子力用材料を生産、供給してきた。原子炉圧力容器、格納容器、蒸気発生器、燃料集合体用部品、各種配管類、使用済燃料貯蔵容器や輸送容器、再処理工場、核燃料サイクル施設への資材供給などだ。
 そのうち、使用済燃料輸送容器について過去に似た事件を起こしている。
 円柱状の使用済燃料輸送容器は強度部材は鋼鉄製だが、使用済燃料から出る中性子を遮蔽する材料として、高分子化合物であるレジンを使っている。レジンは大量の水素原子を含むため、中性子を効率よく遮蔽する。
 1998年、神戸製鋼所はレジンを含む中性子遮蔽材を、検査データを改ざんして取り付け、出荷していたことが発覚し大問題となった。
 2003年6月、問題解決の目的で神戸製鋼所高砂機器工場において大規模なピュアレビュー(相互評価)が実施され、8月には報告書が出されている。
 そこには「レジン事件」に関連して次のように記述されている。
 「過去に生じたレジンデータ改ざん問題の反省点の一つとして、以前から特殊工程などでは作業日程が無理にならないよう製造のために必要な期間を確保することとしているが、最近のある機種では客先の指導もあり、レジン充てん工事にて検査のためにもう1日のゆとりを確保し、検査員の負担を軽減している。」(ニュークリアセーフティネットワーク発行 2003年8月7日)
 現在、今回の事件の原因らしきこととして「納期が間に合わない」「顧客の要求が厳しすぎる」などが挙げられているようだが、既に2003年当時から問題点として認識し対策していたのだから、もはや理由になどならない。
 今回の事件が10年以上も前から組織的かつ継続的に、長期にわたり実行されてきたと報道されている。ピュアレビューが発表されても、ずっと継続して不正行為が行なわれてきたのである。
 これは「体質」などでは済まされない。不正が常体化しており業務の一部になっていたとも考えられる。社内調査への妨害まで発生している。コストカットのためには何でもする。万一不良品が出たらリコールすれば良い。それでもほとんど問題にならないと考えている。
 JIS規格(日本工業規格)を満たさない商品も出荷していた。原子力においては経産省告示501号の規格が守られなければ認可はされない。この規格を満たしていないか、または偽装していたものを使っていたのではないかとの疑いは依然晴れない。
 結果があまりに重大であるため、世界中の事業者から材料の健全性評価を求められている。
 神戸製鋼所の供給部品を使っていない原発はおそらく日本には一つもない。それが安全上重大な機器類であるならば、再検査を行わねばならない。
 規制委は今動いている原発を含め、全ての原発の再検査報告を直ちに出させるべきであろう。それに合格しない限り運転認可は凍結すべきだ。

3.構造的問題

 新規制基準でも、このようなケースの審査規定はない。
 規制が企業性善説で作られているから、想定外の検査偽装やデータ改ざん、まして検査しないで出荷したなどには運転停止などの明確な罰則規定はない。しかし原発が原子炉等規制法の定める検査をせず(検査合格証を得ず)に稼働したら直ちに運転停止を命ずる規定はあるから、メーカーが製品出荷検査を偽装したり行わなかったりしたら、その段階で直ちに製品の使用禁止命令と運転の停止をすることと、事業者と共にメーカーにも責任を負わせるようにすべきである。
 巨大メーカーは全て「護送船団方式」で守られている。ただし国が国策として行う事業においては。
 国が無責任企業を保護をしているのだから、不祥事がなくなるわけがない。東電も他電力も、原発を動かす限り、万全の保護体制下にある。これでは批判も内部告発も安全性向上には機能しない。次の事件、事故を準備しているに等しい行為だ。
 思い出して欲しい。1991年から92年にかけて少なくても2回、福島第一原発1号機で電気事業法や原子炉等規制法に違反して、格納容器漏えい率検査に合格できない状態にあった原発を、圧縮空気を注入するなどして検査結果を偽造し、検査官を騙して合格させていた。格納容器が破壊された3.11と偽装行為には、おそらく何らかの関係があると思われる。
 2002年には数十件に上る検査偽装など一連の「事故隠し」「情報隠し」などの不正行為が明らかになり、当時の社長以下東電幹部が引責辞任することになる「東電不祥事」事件が起きる。
 全17原発が止まり、金食い虫のうえ動かせない原発を抱えて経営破綻の危機に直面する。
 神戸製鋼所も日本鋳鍛鋼も東芝も三菱重工業も皆関係者だ。目の前で東電が破綻寸前の危機に陥ったのを見て、その後始末に何か業務を委託されたはずだ。それが教訓になっていたら、この事件は起きるはずがない。
 もはやメーカーも大規模な不正行為でもしなければ、利益を出せなくなったから、背に腹は替えられないとばかりに確信犯として偽造を行っている。
 そんな会社が原発を作り動かしている。 (了)

※「脱原発東電株主運動ニュース」No269(2017.11.5)より了承を得て転載

KEY_WORD:FUKU2_:FUKU1_: