[2017_11_03_01]文明を崩壊させかねないスーパーフレア(島村英紀2017年11月3日)
 
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文明を崩壊させかねないスーパーフレア

 太陽に黒点(こくてん)というものがある。太陽の温度は6000℃ほどだが、黒点は4000℃ほどとやや低いので、黒っぽく見える。大きいものは肉眼でも見える。
 黒点が丸ければなんのこともない。だが、不規則な形をした黒点が複数あるときには、それら黒点の間に強力な磁界が生まれて、「太陽フレア」というものが放出されることが多い。
 太陽フレアが出ると地球に影響する。まず、発生直後に強力なX線などが地球に届き、通信障害を引き起こす。
 続いて30分から2日後には太陽から吹き飛ばされた陽子などの粒子線や高温のガス、プラズマが地球に達する。このため地球を覆う地磁気のバリアが乱れて大規模な停電が起きたり電子機器が壊れる。人工衛星が壊れたり宇宙飛行士が強い放射線に被曝(ひばく)したりする。弱くても地球上空にある電離層が乱れて衛星放送が映りにくくなったり、GPSに誤差が生じたりする。
 さる9月に太陽フレアが地球を襲った。11年ぶりの大きさだったが、事前の警告よりも実際の影響が小さかったので、大したニュースにはならなかった。いままでの例でも、フレアの大きさと被害の規模は一致するとは限らない。
 過去には1989年にはカナダで600万世帯に及ぶ大規模な停電が起きたほか、2003年には日本の人工衛星が故障したこともあり、日本など、ふだんは見られないような低緯度地域でオーロラが観測されることもあった。
 最近、もっと怖い話が出てきた。それは桁が違う「スーパーフレア」というもので、太陽より若い恒星にだけ起きる現象だと思われていた。
 だが、最近の研究では、太陽にも起きることが分かった。宇宙望遠鏡のデータを調べたら、太陽に似た8万個以上の恒星のうち9カ月間に148個の恒星でスーパーフレアが365回起きていたのだ。
 そして、過去には太陽でも実際にスーパーフレアが起きた痕跡が見つかった、古い屋久杉の年輪にある炭素の同位体・炭素14を調べたら、奈良時代の775年に宇宙から大量の放射線が降り注いだことがわかったのだ。
 スーパーフレアではなく、太陽より大きな恒星が寿命が尽きたときに起きた超新星が爆発した可能性がなくもない。だが、それなら肉眼でも明るく見えて、古文書にも記録されているはずだ。しかしその種の記録はない。
 つまりスーパーフレアが太陽でも起きた可能性が強い。巨大なフレアの爆発のエネルギーは水素爆弾1億個分という途方もないものだ。
 黒点の観測など太陽の近代的な研究が始まってからまだ200年に満たない。研究は途上で、それゆえ予想できない影響が出る可能性がある。天井がない地球の表面に暮らしている私たちは防ぎようがない。
 地震に限らず、文明が発達することは災害に弱くなっていくことだ。
 奈良時代にはなんということもないスーパーフレアだった。だが、今後もし起きたら、多くの電子機器が破壊され、私たちの文明社会は崩壊してしまうかもしれない。電気もガスや水道も銀行も、多くの面で電子機器に頼っているからだ。


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