[2017_10_30_02]原子力産業の崩壊は続く「安全確保」どころか部品の検査もしない 何が起きてもおかしくない 山崎久隆(たんぽぽ舎)(たんぽぽ舎2017年10月30日)
 
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原子力産業の崩壊は続く「安全確保」どころか部品の検査もしない 何が起きてもおかしくない 山崎久隆(たんぽぽ舎)

 日本のメーカーが次々に大事件を引き起こしている。
 トヨタ、日産自動車、三菱自動車、スバル、タカタ、日本鋳鍛鋼、神戸製鋼所、東芝、三菱重工業、挙げていくと日本の主要なメーカーが目白押しである。
 その中に並ぶ原発メーカー。原子力産業も崩壊過程にあるのか。

○日本鋳鍛鋼

 日本鋳鍛鋼(株)とは、原発の圧力容器や蒸気発生器などの主要部品を製造する大型容器の会社である。
 原発の圧力容器などは、鋼鉄製の材料を圧延し、溶接して組み上げる工法を取る。
 圧力容器の場合、上蓋と下鏡部と胴体とに分かれて製造される。厚い鋼板を曲げて円筒形に溶接で組み立て、下鏡と溶接し、焼鈍工程を経て製品化される。その後原発内部に据え付けた後に上蓋を取り付ける。
 蒸気発生器も高い圧力を支える大きな圧力容器である。同じように組み立てて製造される。加圧水型軽水炉で使用されるが内圧約70kgの運転圧力が掛かる。
 この容器には厳しい条件が課せられている。それは、含有炭素量を極力抑えることである。
 フランスの基準は圧力容器で0.22%である。日本でも基準は同程度だ。
 フランス原子力安全局(ASN)は9月、フランスで建設中のフラマンビル原発3号機において、鋼材の炭素濃度が基準を超えていたことを明らかにした。
 主な経過は、2014年にアレバ社がフランスで建設中のフラマンビル原発3号機の圧力容器上蓋付近に炭素が偏析していることをと報告したことに始まる。
 2015年にASNがフランス電力会社EDFに調査を指示し、2016年6月にEDFが報告書を提出、10月にASNが疑惑のある原発の運転を停止することを命令し検査が開始される。12月にASNが原発に日本鋳鍛鋼社製の部品を使用している原子炉について運転承認のための条件をつけ、2017年1月30日には9機の原発の再稼働を容認した。例えばトリカスタン1、3号機は炭素濃度0.39%(規格は0.22%)などである。(経過はグリーンピースの資料より)
 炭素含有率が規定を超えた理由は材料の生産法にあった。
 金属材料を高温で熱し、鋳型に流し込んで鉄材のブロックを作り、材料を切り出して圧延する。含まれる炭素は上部に溜まりやすいのでその部分を切り捨てて板を作る。この分布が少ないと原材料部分に炭素が高い濃度で存在することがある。これを炭素偏析という。
 炭素含有率が高くなると、材料は脆くなる。例えば圧力容器の場合は、中性子を浴びて脆化が進む際に、炭素の割合が高いと脆化が早く進行する。また、急冷などの熱衝撃に弱くなり、設計上は問題がないはずの条件でも脆性破壊を引き起こす可能性が高くなる。
 圧力容器や蒸気発生器は原子炉冷却材を保持する決定的に重要な装置類であり、これが破断すれば直ちに炉心損傷につながる。このような装置で規定を超えているものは欠陥原発だ。
 日本鋳鍛鋼は1995年から2006年頃に出荷した部材には欠陥品が含まれることを認めている。
 フランスはこの欠陥について、運転を許可したもののフラマンビル原発3号機については上蓋が制限を逸脱しているため、2024年までに交換することを合わせて指示している。
 フランス以外にも日本鋳鍛鋼の製品は輸出されていたが、当然国内でも使われていた。
 沸騰水型軽水炉の圧力容器、加圧水型軽水炉の圧力容器と蒸気発生器の部品などである。いずれも破壊が起きれば炉心損傷に直結するものだが、原子力規制委員会は書類上のチェックをしただけで問題なしとしてしまった。
 これは明らかに安全上の大きな後退である。

○神戸製鋼所

 日本有数の総合素材メーカーである神戸製鋼所は、これまでに明らかになっただけで約500社に対して供給した部品や材料のデータを偽装または検査の省略を行っていた。原子力への材料供給でも同様の問題を引き起こしていた。
 これまでに明らかになったのは、福島第二原発に出荷されていた二次系配管の一部について、長さのチェックを省略していたことや、ウラン濃縮プラント用遠心分離器材料の検査データ捏造が明らかになっている。
 神戸製鋼所はこれまで数多くの原子力用材料を生産、供給してきた。例えば原子炉圧力容器、格納容器、蒸気発生器、燃料集合体用部品、各種配管類、使用済燃料貯蔵容器や輸送容器、再処理工場、核燃料サイクル施設への資材供給などだ。
 そのうち、使用済燃料輸送容器に関連して過去には、ほとんど同じような事件を引き起こしている。
 円柱状の使用済燃料輸送容器は強度部材は鋼鉄製だが、中の使用済燃料から出る中性子を遮蔽する材料としてレジンを使っている。高分子化合物であるレジンは大量の水素原子を含むため、中性子を効率よく遮蔽できるのである。
 1998年、神戸製鋼所はレジンを含む遮蔽材を、検査データを改ざんして取り付け、出荷していたことが発覚し、大問題となった。
 その後、2003年6月に神戸製鋼所高砂機器工場において、大規模なピュアレビューが実施され、8月には報告書が出されている。それにはレジンの事件に関連して次のように記述されている。
「過去に生じたレジンデータ改ざん問題の反省点の一つとして、以前から特殊工程などでは作業日程が無理にならないよう製造のために必要な期間を確保することとしているが、最近のある機種では客先の指導もあり、レジン充てん工事にて検査のためにもう1日のゆとりを確保し、検査員の負担を軽減している。」(ニュークリアセーフティネットワーク発行 2003年8月7日)
 現在、神戸製鋼所の事件に関連し、その原因らしきこととして「納期が間に合わない」「顧客の要求が厳しすぎる」などが理由として上げられているようだが、既に2003年当時から問題点として把握され対策されているのだから、もはや理由になどならない。
 今回の事件が10年以上も前から組織的かつ継続的に、長期にわたり実行されてきたと報道されている。ピュアレビューが発表されても、ずっと継続して不正行為が行なわれてきたと考えられるのである。
 これは「体質」などという生やさしい事態ではあるまい。不正を常としていた、不正行為が業務の一部にさえなっていたとしか思えないし、その結果があまりに重大であるため、世界中の事業者から材料の健全性評価を求められるのは当然である。氷山の一角、それがこの事件に思う感想だ。
 事態は日本国内のJIS法にも違反していたことが明らかになっている。これで自動的に、原子力の現場において経産省告示501号の原子力設備の規格を満たしていないか、または偽装していたものを使っていた事態でもある。
 神戸製鋼所の供給部品を使っていない原発はおそらく日本には一つもない。それが安全上重大な機器類、つまり第一種容器や弁、圧力バウンダリを構成する機器類に含まれるものであるならば、再検査を行わねばならない事態だ。
 規制委は今動いている5機の原発を含め、全ての原発の検査報告を直ちに出させるべきであろう。
 新規制基準でも、このようなケースについて、どんな審査を行うかの規定がない。
 もともと性善説で作られている規定だから、検査偽装やデータ改ざん、まして検査しないで出荷したなどには運転停止などの明確な規定がない。しかし原発が原子炉等規制法の定める検査をせず(検査合格証を得ず)に動かした場合は直ちに運転の停止を命ずる規定があるから、メーカーが製品出荷検査を偽装したり行わなかったりしたら、その段階で直ちに運転の停止をすることと、メーカーに全賠償責任を負わせるようにすべきである。
 巨大メーカーは全て「護送船団」として守られている。国が国策として保護をしているのだから、不祥事がなくなるわけがない。東電も他電力も、原発を動かす限り万全の保護体制化にある。批判も内部告発も安全性向上には機能しないだろう。これでは次の事故を準備しているに過ぎない。

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