[2017_10_11_01]国の指針 もはや「崩壊」 原発事故訴訟 賠償命令3地裁連続 額の格差 被災者を分断 各地裁の判断の違い 福島判決(10月10日) 千葉判決(9月22日) 前橋判決(3月17日) 福島地裁 判決要旨(東奥日報2017年10月11日)
 東京電力福島第1原発事故の被災者訴訟で国と東電に賠償を命じた10日の福島地裁判決は、賠償基準を定めた国の指針では被害が十分に救済されていない実態を改めて浮き彫りにした。賠償命令は前橋、干葉に続く3地裁連続で、専門家からは「指針は崩壊している」との指摘も。福島では地域による賠償の格差が住民の分断を生み、復興に暗い影を落としている。
 東京電力福島第1原発事故の被災者訴訟で国と東電に賠償を命じた10日の福島地裁判決は、賠償基準を定めた国の指針では被害が十分に救済されていない実態を改めて浮き彫りにした。賠償命令は前橋、千葉に続く3地裁連続で、専門家からは「指針は崩壊している」との指摘も。福島では地域による賠償の格差が住民の分断を生み、復興に暗い影を落としている。
【本記1面】

 「悪名貫き中間指針を超えた」。判決後、福島市で開かれた原告団の集会。原告側弁護士が指針の見直しを訴えると、拍手が湧いた。
 中間指針は、東電が支払う賠償金の基準を、国の原子力損害賠償紛争審査会が定めたもの。多くの被害者への賠償を裁判を経ずに速やかに実現するのが狙いだ。原告側は、東電がこの指針を賠償額の「最高基準」としてかたくなに守っていると強く非難している。
 このため、指針の範囲を超える賠償を認めるかどうかが、全国の原発集団訴訟の大きな争点の一つとなっている。
 3月の前橋判決は「指針の賠償額に拘束されることはなく、個々の事情に応じて、損害額を決めるのが相当だ」と強調。事故によって、放射線を気にせずに平穏で安全に暮らす権利がどの程度侵害されたか、原告1人ずつ検討し、慰謝料をはじき出した。
 専門家は9月の千葉地裁判決が指針を「『最低限の基準』と位置付けた」と評価。強制避難が長引き、事故前の生活を壊されたことへの精神的損害賠償を認め「ふるさと喪失慰謝料」の支払いを命じた。
 今回は避難区域外の福島県の原告に賠償を上積みし、県外の原告も対象とするなど幅広く認定した。判決を受け、政府関係者は「賠償の在り方に批判がある中でも、何とか理解を求めてきたのだが」と不満を示した。東電関係者は「新たな訴訟の動きが広がるのかが気掛かりだ」と漏らす。
 原発賠損に詳しい大阪市立大の除本理史教授(環境政策論)は「司法から不十分だと駄目出しをされており、指針は客観的に崩壊している」と指摘。指針を基に作った東電の賠償制度は被害実態とずれており、賠償の格差を生んだと強調した。
 格差は被害者を分断し、地域コミュニティーにも深刻な影響を与えている。
 避難指示が昨年7月に大部分で解除された福島県南相馬市。避難区域の境界が第1原発から半径20`で引かれたため、市内は「区域内」と「区域外」に分けられた。
 同市原町区の無職館内宗助さん(82)の自宅は境界から数十bだけ外側にある。しかし区域内と比べ、精神的損害への慰謝料は5分の1程度しか支払われていない。放射線量に違いはないにもかかわらずだ。館内さんは「被害は同じなのに、賠償額が不平等なのは納得できない」と憤る。
 慰謝料の違いが、住民の開に溝をつくった。事故前は農作業の合間に皆で昼食を取ったが、次第にお互いがよそよそしくなり、今では散歩中に顔を合わせてもあいさつもしない。館内さんは「集落を二分する国のひどい線引きがそのままお金の線引きになり、人間関係を壊してしまった」と唇をかむ。原発事故は放射線だけではなく、賠償でも地域を破壊した。

福井地裁 判決要旨

 東京電力福島第1原発事故被災者の訴訟で、10日の福島地裁判決の要旨は次の通り。

 【原状回復請求】
 空間放射線量率を事故前の毎時0・04マイクロシーベルト以下にという原告の請求は、国と東電に求める作為の内容が特定されていないため、不適法。

 【予見可能性】
 文部科学省地震調査研究推進本部地震調査委員会が2002年7月に作成した「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価」は、規制権限の行使を義務付ける程度に客観的かつ合理的根拠を有する知見。専門的研究者の間で正当な見解と是認され、信頼性を疑うベき事情はない。
 国は長期評価に基づきシミュレーションを実施していれば、08年に東電が試算した通り、最大15・7bの高さの津波を予見可能だった。

 【結果回避可能性】
 1〜4号機の非常用電源設備はこの高さの津波に対する安全性を欠き、政府の技術基準に適合しない状態だった。経済産業相はシミュレーションに必要な合理的期間が経過後の02年末までに規制権限を行使し、津波対策を東電に命じていれば、東電はタービン建屋等や重要機韓室の水密化措置を取っただろう。事故は回避可能だった。

 【国・東電の責任】
 規制権限の不行使は許容限度を逸脱し、著しく合理性を欠いた。国は賠償賓任を負う。東電は予見可能な津波対策を怠った結果、事故に至った。過失はあるが、故意や重過失は認められない。
 原子炉施設の安全性確保の責任は第一次的に原子力事業者にあり、国の責任は監督する第二次的なもの。国の賠償責任の範囲は東電の2分の1。

 【損害】
 生活の本拠で生まれ育ち、なりわいを営み、家族、生活環境、地域コミュニティーとの関わりで人格を形成し、幸福を追求していくという平穏生活権を人は有する。放射性物質による汚染が権利の侵害となるかどうかは、侵害の程度やその後の経過、被害防止措置などを総合考慮する。
 帰還困難区域の旧居住者が受けた損害は「中間指針等(国の中間指針と東電の自主賠償基準)による賠償額」を20万円超えると認められる。双葉町の避難指示解除準備区域でも同様。
 居住制限区域、避難指示解除準備区域、旧特定避難勧奨地点、旧緊急時避難準備区域は、中間指針等による賠償額を超える損害は認められない。
 旧一時避難要請区域は、中間指針等による賠償額を超える損害は3万円を認める。子ども、妊婦には8万円を追加する。
 自主的避難等対象区域では、一定の空間線量率が計測され、被ばくや今後の事故に対する不安から、避難もやむを得ない選択の一つだった。選択自体も困難を強いられることであり、避難しないことも容易ではなかった。中間指針等による賠償を超える損害は16万円。福島県南地域では10万円、賠償対象区域外である茨城県の水戸市、日立市、東海村では1万円を認める。
 ふるさと喪失の損害については、帰還困難区域で、中間指針等による賠償額の1千万円を超える損害は認められない。
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