[2017_06_14_03]玄海原発、差し止め却下 「九電の説明うのみ」住民不安、司法に届かず(佐賀新聞2017年6月14日)
 
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玄海原発、差し止め却下 「九電の説明うのみ」住民不安、司法に届かず

 募らせた不安の声は司法に届かなかった。九州電力玄海原発3、4号機(東松浦郡玄海町)の再稼働を巡り、佐賀県の住民らによる差し止めの訴えを退けた13日の佐賀地裁決定。「九電の説明をうのみにした」。福島第1原発事故後の申し立てから6年、望みを託した司法の判断に、落胆と憤りが住民側に広がった。
 「フクシマを学ばず」「事故があっても再稼働か!」。午前10時過ぎ、地裁前で申し立て却下を知らせる垂れ幕が掲げられると、申立人ら約60人はため息をつき、しばらく押し黙った。
 冠木(かぶき)克彦弁護団長は「原発の耐震性を中心に安全の問題を指摘してきたが、裁判所はわれわれの主張を全く無視した。熊本地震についても考慮されておらず、認めるわけにいかない」と厳しく批判した。
 差し止めを申し立てたのは、福島事故から4カ月後の2011年7月。事故の検証ができていない状況での運転再開の動きに「待った」をかけた。直前に発覚した九電による「やらせメール」問題で原子力政策への不信感は一層強まり、社会全体に脱原発を模索する雰囲気があった。
 6年たった今、福島の事故が収束しない中、全国で原発再稼働の動きが続く。玄海原発も、地元の県と玄海町の同意手続きを終えた。
 福島市から佐賀市に避難している渡辺弘幸さん(55)は佐賀地裁前で決定を見届けた。「せめて地裁レベルでは住民の不安をきちんとくみ取ってほしかったのに、残念。今なお続く福島の人たちの厳しい生活や苦しみが、忘れ去られていくようだ」と話す。
 住民側は福岡高裁への抗告を決めた。佐賀地裁での本訴訟も続く。申立人代表の石丸初美さん(65)=佐賀市=は言葉に力を込めた。「命の問題だから諦めるわけにいかない。これからも全力で裁判を闘っていく」

原発差し止め訴訟司法判断

全国の差し止め訴訟・行政追従の判断も多く

 福島第1原発事故後、脱原発の住民団体が国や電力会社に原発の運転の差し止めを求めている訴訟は、原子力規制委員会が策定した新規制基準の合理性が最大の争点になっている。一部の裁判所が、再稼働した原発を止める判断をしたものの、行政に追従するような司法判断も多く、住民側の主張が認められるのが難しい状況が続く。
 関西電力高浜原発3、4号機(福井県)を巡り、大津地裁は2016年3月、運転を差し止める仮処分決定を出した。新規制基準に適合して再稼働した3号機が停止し、全国で初めて稼働中の原発が止まった。地裁は原発事故を踏まえた過酷事故対策や耐震基準の問題点を示し、新規制基準に疑問を投げ掛けた。
 ところが、大阪高裁は今年3月、「新規制基準は事故の教訓を踏まえ、最新の科学的、技術的知見に基づき、不合理とはいえない」と判断し、仮処分決定を取り消した。06年に全国初の原発差し止め判決が出て以降、上級審で差し止めが維持された事例はない。
 脱原発弁護団全国連絡会によると、継続している全国の原発訴訟は仮処分関係を含め37件。福島第1原発事故以降、運転差し止めを認めた司法判断は4件で、2人の裁判長が言い渡している。14年5月に3、4号機の再稼働を認めない一審福井地裁判決が出た大飯原発のケースは名古屋高裁金沢支部で審理中だが、高浜原発など残る3件は電力会社側の異議などで退けられている。
 九州電力管内では、川内原発1、2号機(鹿児島県)について鹿児島地裁が15年4月、再稼働差し止めの仮処分申し立てを却下した。新規制基準は「合理的」と評価しており、16年4月に福岡高裁宮崎支部も地裁決定を維持して抗告を棄却した。

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