[2017_03_25_05]柏崎刈羽原発 免震重要棟問題 東電、継続使用に固執 「誤解させる説明」2年押し通し /新潟(毎日新聞2017年3月25日)
 
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柏崎刈羽原発 免震重要棟問題 東電、継続使用に固執 「誤解させる説明」2年押し通し /新潟

 東京電力柏崎刈羽原発の「免震重要棟」問題が波紋を呼んでいる。同棟は事故対策拠点のはずだったが、東電は先月、事故時には原則として使わない方針を打ち出した。強い揺れ(基準地震動)に耐えられないことは、東電内で3年以上も前から分かっていたという。米山隆一知事は2月の県議会本会議で「安全の確立を第一に取り組んでいるのか疑問だ」と東電の姿勢を批判し、検証する考えを示した。なぜこのような事態に陥ったのか。東電への取材などから報告する。【高木昭午】

 同原発は2007年7月の中越沖地震で地震対策の不備を露呈。その改善策の一つとして打ち出されたのが免震重要棟だった。建物は09年12月に完成し、東電は「中越沖地震を上回る震度7にも耐える」新しい事故対策拠点だと宣伝していた。
 11年3月に起きた福島第1原発事故に伴い、原発再稼働には原子力規制委員会による安全審査が必要となったことを受け、東電は13年7月、同棟が「基準地震動」に耐えられるかの試算を始めた。
 基準地震動とは、東電が想定する強い地震の揺れのことだ。同原発6、7号機は13年9月に規制委に安全審査を申請。合格には各重要設備が「基準地震動に遭っても無事」と示す必要があった。さまざまな地震に対応して7種類(現在は8種類)の地震動があるが、いずれも同棟の設計段階では未想定。耐震性を調べ直すしかなかった。
 だが、試算によって同年12月に出た結果は「7種類中、5種類の揺れに耐えられない」。同棟の地下には建物の揺れを抑えるゴムがあり、強い地震が起きてもゴムの変形が75センチ以下なら建物は耐えられる。それぞれの揺れで変形の大きさを試算すると、2種類の揺れでは51センチと61センチで耐えられる範囲だったが、残り5種類では94〜144センチで「アウト」だった。
 地下の地盤補強などで「セーフ」にできないか。こう考えた東電は14年4月から、地盤の影響も考慮した新たな試算を行った。だが結果はさらに厳しく、変形は93〜453センチ。7種類全てでアウトの「ハシにも棒にもかからない」(東電)結果で、補強してもアウトだと分かった。
 ところが、翌15年2月に開かれた規制委の安全審査会合で東電はこう言った。「(同棟は)一部の基準地震動に対し、通常の免震設計のクライテリア(基準)を満足しない場合がある」
 さらに、そうした場合に備えて別の事故対策拠点を作るとしながらも、事故対策の主役はあくまで免震重要棟だと主張。過去2回の試算は示さなかった。規制委は、同棟が基準地震動の「一部」には耐えられないが、残る大半には耐えられると受け止めた。
 東電は、この「誤解させる説明」を2年間押し通した。さらにこの説明が東電社内も誤解させたという。
 社内で今回の経緯を調べた稲垣武之・東電設備計画グループマネジャーは「社内で耐震性検討と安全審査対応をした十数人のグループは13年から、免震重要棟は、どの基準地震動にも耐えられないと考えていた」と話す。

 一方、グループ以外の社内の技術者らは先月まで14年の試算を知らず、「2種類の基準地震動には耐えられる」と認識していたのだという。この認識に基づき、東電は先月まで、同棟で事故対策訓練を続けてきた。
 だが審査が終盤に入るにつれ、この説明は東電自身に不都合な「目の上のこぶ」(稲垣氏)になったという。
 規制委は安全審査の終了後に「工事認可(工認)」という手続きで細かい数字を確認する。東電は、規制委が「大半の基準地震動に耐える根拠を数字で示せ」と要求すると予想した。だが、示すことはできない。
 そこで東電は先月14日の審査会合で説明を修正。同棟がどの基準地震動にも耐えられないことを明確にした。同21日には、事故対応は原則、同原発5号機に新設する事故対策拠点で行い、免震重要棟は使わないと宣言した。
 田中俊一規制委員長は「相当に重症だ」と糾弾。東電の広瀬直己社長を呼び出し、申請書の「出し直し」を指示した。
 だが、実はこの糾弾は審査の進行にはあまり影響がないとみられる。再稼働を目指す各原発でも、審査の終了間際には、電力会社が審査の申請書を修正して出し直す。これは「補正」と呼ばれる手続きだ。
 今回の「出し直し」の指示は、補正の前倒しと大差ない。さらに原子力規制庁は「行政処分などのペナルティーはない」「問題の解明は審査とはちょっと違う」と今後の追及に消極的。出し直す申請書に新たな問題がなければ、審査は滞らないとみられる。

 東電はなぜ、誤解させる説明をしたのか。

 東電はこれまで「14年の試算は信頼性が低いとみて規制委に出さなかった」と釈明してきた。だが稲垣氏は「13年と14年の検討を両方、15年の審査会合に出して議論すべきだった」と認める。その上で「当時の担当者に事実を隠すつもりはなかったと思うが、『免震重要棟を使うとの論を少しでも後押しする』という下心が見える。工認で追及されるとは思わなかったようだ」と話す。背景には、福島第1原発事故で役立った免震重要棟を何とか使いたいとの考えがあったという。
 東電の安全審査申請書は約4000ページ、関連資料は数万ページに上るという。技術的説明をゆがめ、社内でさえも押し通す東電の原発の審査に、規制委は責任を持てるのだろうか。

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