[2017_01_31_01]ウェスチングハウスと道連れ? 東芝解体の“暗夜行路”(毎日新聞2017年1月31日)
 
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ウェスチングハウスと道連れ? 東芝解体の“暗夜行路”


東芝解体の危機(2)

 東芝は1月27日に開いた取締役会で半導体事業の分社化を決め、同日午後4時半から綱川智社長、成毛康雄副社長が記者会見した。半導体分社化がテーマの会見だが、原子力事業への質問が記者から相次いだ。半導体事業を分社化して株式の一部を売却する方向だが、その原因になった原子力事業の損失額がいまだに明確でなく、損失が生じる理由もわからないことだらけだからだ。
 記者会見の冒頭、綱川社長が原子力事業の損失額について言及した。「当社業績への影響額確定の作業は継続していて、会計監査人の対応も続いている。大変ご心配をかけているが、2月14日の決算発表で影響額、原因、再発防止等について説明する」
 東芝は昨年12月27日に、損失額が「数千億円になる可能性がある」と公表した。その後1カ月間、それ以上の説明をしていない。「5000億円」「最大7000億円」という数字が広がり、直近では「6800億円」という詳細な額が出ているが、これはメディアが独自取材で報じたものだ。綱川社長は年末の会見からちょうど1カ月たったこの日の会見でも、記者の質問の多くに対して「2月14日に説明する」とオウム返しのように答えた。

海外原子力事業は「あり方を見直す」

 綱川社長は続けて、原子力事業を見直すと説明した。「原子力事業はエネルギー事業のなかで最注力事業としてきたが、この位置づけを変える。国内は再稼働、メンテナンス、廃炉を中心に社会的責任を果たしていく。一方、海外は今後のあり方について見直す」
 巨額損失が生じることになった東芝の子会社、米ウェスチングハウスについて、「あり方を見直す」というのだ。ところが、どう見直すのか、具体的な内容の説明はなかった。当然のことだが、記者の関心はそこに集中していく。
 テレビ局の記者が「東芝は原子力事業で2029年までに64基の受注目標を掲げてきた。これは撤回して事業規模は縮小する考えか」と質問した。綱川社長は次のように答えた。
 「基数よりも、受注の内容だ。建設事業を含めて受注するのか、機器、設備だけでやるのか。内容を含めて変えるつもりだ。基数は同じでも規模は下がる可能性がある。基数を含めて中期経営計画で見直している」「国内はとくに廃炉や補修とか。海外についてもウェスチングハウスは世界で約100基の据え付けベースがある。その燃料、サービスは続ける。新規受注は考え直す」

原発の新規建設からは撤退

 巨額の損失はウェスチングハウスが米国で進めている原発4基の建設の過程で出てきた。このため、原発の新規建設からは撤退するという説明だ。建設中の案件は継続するものの新規建設は受注せず、今後は、既存原発の維持、補修、燃料事業を中心とし、原子炉の設計、製造は続けていくという考え方のようだった。
 東芝は06年にウェスチングハウスを買収して以降、原子力事業を、半導体事業とともに経営の2本柱と位置づけてきた。11年の福島原発事故で世界の原発需要が大きく落ち込んでも、ひたすら「原子力事業は堅調」と言い続けた。
 事故から6年経って、ようやく姿勢を改めたのである。あまりにも遅い対応と言うしかない。「見直した」というより、「これまで通り続けられなくなった」という言い方のほうが正確だろう。
 だが、原発の新規建設から撤退、というのは最小限の見直しだ。ここまで経営の根幹を揺るがしている米ウェスチングハウスを切り離したり手放したりするという説明は一切なかった。経済誌の記者から「原発の建設事業はやらず、原子炉の据え付けは続けるということだが、それでも非常にリスクが見えない事業だと思う。この期に及んでそれを続けるのはなぜか」という質問が出た。

原子力事業は「社長直属」に

 東芝の会見にはアナリストが同席している。その一人からも「海外原子力事業はリスクを制御できない状況だが、撤退もできないように見える。今後のリスク管理はこれでできるのか。リスクに対してどういう対策を図るのか」との問いが投げかけられた。二つの問いに対して綱川社長は「海外事業は見直していく」「2月14日に説明する」と繰り返したのである。
 原子力事業のリスク管理については、綱川社長は会見の冒頭、一つの説明をしていた。リスク管理強化のため、原子力事業を社内カンパニーから独立させ、社長直属の組織にする、という内容だった。
 その説明に大きな疑問が湧いた。原子力事業の最高責任者だった志賀重範会長の位置づけはどうなるのか。経済プレミア編集部は、挙手をして綱川社長にこの点を質問した。すると、意外な答えが返ってきたのである。(つづく)

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