[2017_01_19_02]【社説】玄海原発 離島に橋も架けないで(東京新聞2017年1月19日)
 
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【社説】玄海原発 離島に橋も架けないで

 九州電力玄海原発が再稼働に向かう。重大事故に備えた避難計画をつくれといいながら、離島には逃げ場がない。橋を架ける前になぜ、原発を動かせるのか。人の命が何より大切だとするならば。
 玄海原発に併設されるPR館、玄海エネルギーパークの展望室からは、四基の原子炉建屋とともに、玄界灘の島々が見渡せる。
 馬渡島(まだらしま)、そして「島の宝百景」にも選ばれた加唐島(かからしま)、松島…、壱岐島もはっきり見えた。
 原発三十キロ圏内の自治体には、原発事故を想定した避難計画の策定が義務付けられている。暮らしや命が危険にさらされているということだ。
 玄海原発の三十キロ圏には二十の離島があり、二万六千二百人が暮らしている。このうち九州本土と結ぶ橋があるのは、長崎県側の三島だけ。四国電力伊方原発のある、日本一細長い佐田岬半島の先端部に住む人同様、ほとんどの島では海が荒れれば逃げ場がない。
 荒波で名高い玄界灘、海路による避難訓練が高波のため中止になったこともある。 それでも国の原子力防災会議(議長・安倍晋三首相)は先月、三十キロ圏内の広域避難計画を「合理的」とした。
 例えば、本土との間に橋のない長崎県の壱岐島は、南部が三十キロ圏内だ。計画の中に全島避難は含まれず、約一万五千人が、島の北部に移動することになっている。屋内退避施設は未整備のままで、風が北へ向いた場合の対策は定かでない。
 放射性物質は風に乗って遠方まで飛散する。福島第一原発事故が証明済みだ。これほど多くの人々の安全が保証されないまま、原発再稼働を許すのが、どこが「合理的」だと言えるのだろう。
 壱岐市の白川博一市長は「100%安全と言えない」、ほぼ全域が三十キロ圏内に含まれる佐賀県伊万里市の塚部芳和市長は「避難道路や防災無線の整備が不十分」として、再稼働には明確に反対の立場を取ってきた。
 理にかなうとは、こういうことだ。そもそも、避難計画が実行されるようなことが起きてからでは遅いのだ。
 政府が避難計画を了承しても、原子力規制委員会が新規制基準に適合すると書いても、それが「安全」を意味するものでないのは、すでに明らかだ。
 再稼働の“お墨付き”が出せるとすれば、そのことで危険にさらされる住民をおいてほかにない。

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