[2016_09_28_06]原発廃炉費 新電力、負担に反発…経産省が議論着手(毎日新聞2016年9月28日)
 
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原発廃炉費 新電力、負担に反発…経産省が議論着手

 経済産業省は27日、原発の廃炉費用の一部を新電力にも負担させる議論に着手した。電力自由化の進展などに伴い、原発事業者(大手電力9社と日本原子力発電)だけでは費用を賄えなくなる心配があるためだ。政府は年末までに結論を出す方針だが、原発優遇との反発も予想される。【宮川裕章、工藤昭久、宇都宮裕一】
 経産省は27日、電力自由化の課題などを議論する「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」の初会合を招集。新電力が送電線を使う際の利用料に廃炉費用を上乗せし、大手が回収する案を提示した。新電力が上乗せ分を電気料金に転嫁すれば、負担は利用者に回る。東京電力福島第1原発の廃炉対策もあわせて議論する。
 原発の廃炉費用は火力より1桁多い。原発事業者は、あらかじめ電気料金をもとに廃炉費用を積み立てて備えるが、自由化が進めば、新電力に利用者が流出したり、料金に値下げ圧力がかかったりして、積み立て不足のリスクが高まる。
 原発の運転が不安定になっていることも、大手の足元を揺るがしている。従来は「設備利用率76%、運転期間40年」を前提に発電実績に応じてお金を積み立てれば、廃炉費用がたまる仕組みだった。しかし、運転停止が長期化したり、想定より早く廃炉に追い込まれたりして、積み立て不足に拍車がかかる。
 このため電力大手などは「新電力の利用者も、かつては原発で発電した大手の電力を使っていた。廃炉でも相応の負担をお願いしたい」と主張、政府・自民党などに非公式に対応を要請してきた。政府も、自由化や安全規制の強化といった原発事故後の「政策変更コスト」に直面する大手に配慮。経産省の審議会の作業部会が昨年3月、「送配電部門の料金の仕組みを利用し、(廃炉)費用回収が可能な制度」と検討を求め、伏線を張っていた。
 しかし、「原発を持たない新電力が原発の費用を肩代わりするのはおかしい」(関西の新電力幹部)との声は強い。27日の委員会では、新電力「エネット」の武田勉社長が「廃炉にどの程度費用がかかるのか説明してもらわないと、顧客に説明できない」とけん制。首都圏の新電力幹部は「原発事故後に新電力に切り替えた利用者の納得を得るのは難しい」と訴える。
 このため経産省は、電気を取引する市場を新設し、大手電力に原発や石炭など運転コストの安い電気を供給させることも議論する。新電力が取引所から割安な電気を調達できるようにし、理解を求める考えだ
 大手が電力供給を独占する従来制度では、建設や廃炉の費用を電気料金から確実に回収でき、燃料費が安い原発のメリットを生かせた。しかし、自由化でそうした前提は崩壊し、原発は優位性を失った。政府は原発の新増設を進めるかどうかの議論を先送りしているが、今回の案の仕組み次第では、原発を優遇して新増設を後押しする政策効果も持ちかねない。自由化時代の原発の位置付けも含めた議論を求められる。

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