[2015_04_07_01]遺跡からの警告 地震考古学 南海トラフ編 仁和地震5 火山が起こした巨大洪水 津波や山体崩壊も(東奥日報2015年4月7日)
 火山は噴火だけでなく、洪水や津波など思いがけない大災害を起こすことがある。
 新潟県の阿賀野川中流域には、謎の縄文遺跡がある。現在の河床から約40メートル上の高台にありながら、当時の大洪水で埋まったという。一体、何が起きたのか。
 片岡香子新潟大准教授(地質学)は「約5400年前、遺跡から川沿いに約90キロさかのぼった沼沢火山(福島県)が噴火したのが原因です。厚さ約200メートルの火砕流の堆積物が麓の只見川を埋め、巨大なせき止め湖が誕生。後に決壊し、大洪水を起こした」と話す。
 下流の新潟県側で、縄文人の季節的な利用跡とされる上野東遺跡(阿賀町)など6遺跡が発掘され、いずれも火山灰質の砂からなる厚さ約50センチの洪水堆積物に覆われていた。
 片岡准教授によると、せき止め湖の湛水量は推定で東京ドーム1370個分の17億立方メートル。決壊時は1秒間に最大5万立方メートルの水が只見川や下流の阿賀野川へ駆け下り、沼沢火山から約150キロ下流の日本海へも達した。福島県会津坂下町で、厚さ約30メートルの洪水堆積物を確認している。
 平安時代に信濃国(長野県)で大洪水を起こしたせき止め湖は推計で湛水量5・8億立方メートル。沼沢のせき止め湖はその約3倍に当たる。
 「火砕サージ(高温の暴風)の一部や大量の火山灰が火山から東側の会津盆地へ流れたが、新潟側には及ばなかった。阿賀野川流域の縄文人は噴火があったことも知らないまま、大洪水に襲われたのではないか。現在なら、行政区をはるかに越えた広域災害になる」と警告する。
 一方、静岡県では約2900年前、富士山の東斜面が大崩落。御殿場岩層なだれと呼ばれる大規模な山崩れ(山体崩壊)が起きた。地震か水蒸気爆発が原因とみられる。
 静岡大の小山真人教授(火山学)は「10億立方メートルの土砂が時速200キロ以上で滑り落ち、二手に分かれて相模湾と駿河湾に突っ込んだ。恐らく、津波が起きただろう」と話す。
 山体崩壊は普通の地滑りと遠い、地震や地下からのマグマの突き上げで山がえぐり取られるような現象。1792年の長崎・雲仙岳の噴火では、眉山が崩壊して有明海に突入。対岸の肥後を津波が襲って5千人以上が犠牲になり、「島原大変肥後迷惑」と言われた。
 日本で過去最大の山体崩壊は二十数万年前に八ヶ岳(長野、山梨県)で発生し、100億立方メートルもの土砂が崩れた。「信濃国の大洪水」の原因となった天狗岳(北八ヶ岳)の崩落も山体崩壊だ。
 東日本大震災から4日後、富士山の直下でマグニチュード6・4の地震が起きた。小山教授は「マグマだまりの天井にひびが入った状態で、今も余震活動は続いている。今後、何が起きてもおかしくない。登山者は火山ではさまざまな災害が起きうることを知り、十分な準備と覚悟を持って登ってほしい」と話した。
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