[2014_04_18_02]原発 避難計画の課題上 「東通」30キロ圏5市町村 圏外まで所要65時間 7万3000人、2国道に集中 膨大な車両数 渋滞は確実(東奥日報2014年4月18日)
 
 東北電力東通原発が立地する東通村白糠地区。4月15日、穏やかな陽光の下、近くの海岸で採ったフノリを家族と談笑しながら天日干ししていた西山悦明さん(81)が不意に表情を曇らせた。同原発で原子力災害事故が発生した場合、半径30キロ圏内の住民が圏外に避難するのに約65時間かかる−との県の試算結果が話題に上ったためだ。
 「そんなに時間がかかるのか、長すぎる…。やはり道路が渋滞してしまうせいだろうな。普段なら、ここから青森市までだって車で2時間かからないんだ」と西山さん。国道338号バイパス道路整備に際し、所有地を提供したこともあったが道路開通まで10年以上も待ったという。
 「下北半島縦貫道路が早くむつ市まで通ってくれればいいが、道路整備に時間がかかるのは身に染みて分かった。自分が生きている問は無理だろうな」 同地区のバス停留所では、60〜80代の女性5人が通院のためバスを待っていた。事故が起きたら、どう避難するのか。「車を持っていなかったり、1人暮らしの人は心配だね」と不安を口にした。近くの漁業木村智明さん(43)は「今のところ避難方法は陸路しか想定していないようだが、船も選択肢に加えるベきだ。そうなれば協力したい」と語った。

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 県が4月10日に公表した試算は、東通原発の半径30キロ圏内に住む、むつ市や東通村、六ヶ所村、横浜町、野辺地町の住民約7万3千人が圏外に避難するのにかかる時間を季節や時間帯、交通手段、避難ルートなど125通りで計算。最も代表的なシナリオでは約65時間かかり、冬期の日中に自家用車で一斉に避難するケースでは、最長の約71時間を要するとの結果が出た。ただ、渋滞緩和のため交通誘導などを実施すれば避難時問は半減できる一とも想定する。
 避難に3日近い時間がかかる要因は、30キロ圏の住民が南下して避難する場合、陸奥湾側の国道279号と、太平洋側の国道338号のほぼ2ルートしかないためだ。県試算を請け負った民間の構造計画研究所(東京都)も「現時点で利用可能な避難道路は国道279号、338号に限られ、膨大な避難車両台数により避難の長期化のリスクがあることは明らか」と指摘した。

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 特に国道279号は2012年2月、車400台以上が雪で立ち往生し、今年3月30日夜にも雪や倒木のため、横浜町や野辺地町で大渋滞が発生したばかり。避難に長時間かかるという試算結果は、下北地域の道路網のぜい弱さをあらためて浮き彫りにした。
 抜本的な対策はインフラ強化だ。県、関係市町村は国道279号バイパスとなる下北半島縦貫道路の整備を国に要望し続けてきた。しかし、全線開通時期の見通しは立たず、実現には予算も時間も要する。
 県は効率的な避難のため、広域避難の要領作成を今後検討する方針を示しているが、「関係先との調整はこれから。今後の検討課認」(県原子力安全対策課)とするにとどめている。
 半径30キロ圏のある自治体担当者は「広域避難の調整役となるはずの県に具体的な取り組みがまったく見えない。机上の県試算が、かえって住民の不安をあおる結果となってしまった」と苦言を呈した。

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 東通原発の半径30キロ囲にかかる、むつ市など5市町村の原子力災害避難計画が4月で出そろった。事故時の避難ルート、交通手段、避難先の生活物資備蓄など課題を探った。
   (阿部泰起)
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