[2013_03_01_02]変動地形研究者が果たすべき役割_原子力施設周辺の活断層評価_渡辺満久_2013年日本地理学会春季学術大会_発表要旨集(地理学評論2013年3月1日)
 
参照元
変動地形研究者が果たすべき役割_原子力施設周辺の活断層評価_渡辺満久_2013年日本地理学会春季学術大会_発表要旨集

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 T.はじめに

 現在、我々は、原子力施設周辺で多数の活断層が存在しているという事実、原子力施設の耐震安全性が不十分なまま放置されてきたこという事実に向き合っている。そのきっかけとなったのは、2006 年に島根原発周辺で実施された、中田 高・広島大学名誉教授らによる活断層調査結果であった。事業者も政府の審査委員会も、「絶対に活断層はない」としていた場所において、歴史時代にも活動している活断層が確認されたのである。その後、各地の原子力施設周辺において多くの活断層が認定されてきた。このような事態に陥ったことに関しては、地理学界にも大きな責任がある。

U.安全審査の問題と地理学界の責任

 活断層の認定や活動度の評価においては、高度な地形学的見識が必要とされる。しかし、島根原発近傍の鹿島断層の評価会合では、「水は高い所に向かっても流れる」と発言する「専門家」が、変動地形学の有効性を否定していた。下北半島などでは、旧汀線高度異常などに気付かない「専門家」が活断層の評価を担当してきた。
 また、電力との密接な関係をもつ「専門家」が評価を牛耳ってきた。耐震指針(2006 年)や安全審査の手引き(2010 年)には、「グレーはクロである」という精神が貫かれている。それにもかかわらず、これらの策定に関わった「専門家」は、「グレーをクロにしては原子力施設を稼働できないので、疑わしきは止めずという精神で審査してきた」と述べている。
 地形研究者は、上記した問題に対して具体的に提言することができたはずである。しかし、我々がこうした役割を果たしてきたとは到底いえない。問題に気づきつつも、「純粋な研究にこそ意義があり、社会的責任は負わない、負うべきではない」、「そんな議論は大人気ないことであり、相手にしないことだ」といった理由から沈黙を続けた研究者が多かった。原子力政策に係わることを避け、問題から目を反らしてきた研究者も多いと考えている。
 能登半島地震、中越沖地震に続き、東北地方太平洋沖地震によって大きな事故が発生した。福島の事故は、想定すべきことを想定しなかったために発生した人災である。これらの事故が発生した原因の一つは、耐震性安全審査において地形学の研究成果(地形学そのもの)が蔑にされてきたことにある。
 これらに対して地形学からの発言が無かったため、活断層の活動性は著しく過小評価され、あるいは活断層の存在自体が無視されてきた。理学は実学ではないとする主張は、一面では理解できる。しかしながら、多くの国民が関心を抱く原子力の問題に対して沈黙すると、学問の存在意義自体が問われかねない。

 V.過去との決別と積極的発言を

 2012 年には原子力規制委員会が発足し、原子力施設の敷地内断層に関する外部有識者として、多くの変動地形研究者が学会から推薦された。有識者会合では積極的に意見が交わされているが、それ以外の場においても変動地形研究者は自らの役割を果たす必要がある。原子力発電所に関わる議論をタブー視してきた過去とは決別すべきである。
 ところで、規制委員会での議論では敷地内の断層だけが重視され、問題が矮小化されている可能性が高い。本質的な問題は、どうしてそのような断層が存在しているのかということである。周辺の活断層の性状や敷地を含む空間に起こりうる現象を正確に把握してゆくことが最も重要である。
 また最近、日本列島全体を大きく変形させた東北地方太平洋沖地震と津波の発生様式について、地震学的見解とは異なる、海底活断層との関係を重視した変動地形学的新知見が得られている。地震学的に定着した見解に対しても、地形学から積極的に問題提起をしてゆく必要がある。

 【本発表の内容に関する文献】
中田,2009,科学 79. 中田,2011,朝日ジャーナル週刊朝日緊急増刊(6/5 発行). 鈴木,2011,地理,56. 鈴木ほか,2008,科学,78. 渡辺,2009,科学,79. 渡辺,2010,環境と公害,39. 渡辺,2013,日本の科学者,48-7. 渡辺・鈴木,2011,地理学評論,84A. 渡辺ほか,2009,科学,79. 渡辺ほか,2012,世界、2012.1. プロメテウスの罠−疑わしきは止めず−地底をねらえ 22,朝日新聞(2012 年 10 月 20 日)


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