[2011_12_19_04]3.11大震災 青森考 フクシマの教訓 第5部 県内施設安全性を問う4 複数電源確保に奔走 余震でも東通も発電機停止(東奥日報2011年12月19日)
 
 「これを使うのは万一の事態のときです」 東北電力東通原発1号機の原子炉建屋にある、どっしりとした非常用ディーゼル発電機を前に同社の担当者が報道陣に説明した。今年2月、長期サイクル運転に向けた保全計画確認のため、経済産業省原子力安全・保安院などの検査員が同発電所を訪れた時のことだ。
 それから約2カ月後、東日本大震災に続く4月7日夜の余震で大規模停電が発生。東通原発は再び外部電源を失う「万一の事態」に直面した。震災時と同様、非常用ディーゼル発電機1台が起動。他の2台は検査中で使えない状態だった。
 ところが翌日午後、起動したはずの唯一の発電機が油漏れを起こしてストップ。一時、配備された非常用発電機が全て使えない状態に陥った。定期検査のため原子炉が停止中で、ストップした時点で外部電源が復旧していたためことなきを得たものの、東京電力福島第1原発事故の直後だったこともあり、関係者に衝撃が走った。
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 原子力安全・保安院はこのトラブルを重く受け止め、運転停止中の原発でも複数の非常用発電機を稼働できるよう電力各社に指示した。東北電力と、六ヶ所再処理工場などを運営する日本原燃は、福島の事故を受けた安全対策として電源車、大容量発電機など非常用の代替電源確保に奔走した。
 北海道大学大学院の奈良林直教授(原子炉安全工学)は「電源車など複数の電源を確保することで確実性は増す」と事業者の電源確保策を評価しつつも、さらに、防水・浸水対策などの多重防護が必要ーと強調する。
 福島第1原発が過酷事故を引き起こしたのは、全交流電源喪失が要因だ。地震で外部電源が途絶え、起動した非常用ディーゼル発電機や電源盤が津波で冠水した。このため炉心冷却に必要な電力が絶たれ、炉心溶融、水素爆発へとつながった。同原発では非常用発電機、電源盤を主にタービン建屋の地下に設置していた。
 非常用ディーゼル発電機を原子炉建屋地下1階(海抜4・2メートル)、電源盤を同2階(海抜マイナス2・8メートル)に設置している東通原発は津波に備え、重要な建物の外扉にゴムシールを付けて防水対策を施した。2013年度中に水密扉に置き換えることも検討中だ。

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 原子炉建屋はタービン建屋より密閉性が高いとはいえ、非常用ディーゼル発電機は地下より地上階に設置した方が津波対策としてはより安全性が高いと言える。しかし、地上階に移すのは容易でないという。同原発の前田俊夫副所長は「(非常用ディーゼル発電機は)非常に重く、配管の引き回しの問題もあり大変な作業になる」と説明する。
 非常用電源を多様化するだけでは電源確保策として十分ではないとの意見もある。山本富士夫・福井大学名誉教授(流体力学・機械工学)は、震災後、福島第1原発構内で配管、電線の破損が多数見つかったことを問題視。「非常用発電機を高い所に設置し、発電機自体は健全でも、地震の揺れで電線や配管などが損傷すれば、絶対に問題なく発電機が機能できるとは言えない」と話す。
 非常用電源の多様化、浸水・防水対策、電線や配管の耐震性向上・・・。事業者はさまざまな手だてを講じて安全性を高めようと必死だ。だが、どこまで対策を重ねれば災害への備えは万全なのか。誰もはっきりとした答えは出せずにいる。
 (加藤景子)
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