[2011_11_15_02]伊方原発3号機 「津波14.2メートルまで安全」 四国電力が安全評価提出 事故検証抜きの評価作成に異論 専門家会合 見えない地元同意 再稼働有力視の伊方3号機(東京新聞2011年11月15日)
 四国電力は14日、定期検査で停止中の伊方原発3号機(愛媛県伊方町、89万キロワット)の再稼働に必要な「安全評価」(一次評価)の結果を経済産業省原子力安全・保安院に提出した。地震や津波が想定を超えても、安全性は十分余裕があるとの内容だった。一次評価結果の提出は、関西電力大飯原発3号機(福井県おおい町)に次いで二番目。
 四電による評価では、地震の揺れの強さは想定(570ガル=ガルは加速度の単位)の1・9倍、津波は想定(3・5メートル)の4・1倍の14.2メートルまで安全性を確認。全交流電源が喪失しても、10日間は炉心を冷却できるとした。
 保安院は今後、専門家の意見を聴きながら結果を評価。原子力安全委員会に確認を求めるほか、国際原子力機関(IAEA)からも助言を得る。
 その後、首相と関係閣僚が再稼働の可否を判断し、地元の自治体の合意が得られれば運転再開となる。ただ、保安院による評価方法は明確になっておらず、再稼働の道筋は見通せない状況だ。
 国の耐震指針改定(2006年)に基づき耐震性や津波対策を確認する耐震安全性評価(バックチェック)が、今回の安全評価の基礎となる。

 事故検証抜きの評価作成に異論
 専門家会合

 14日に経済産業省原子力安全・保安院が開いた原発の安全評価に関する専門家への意見聴取会では、十分に判断基準を定めないまま見切り発車した制度の矛盾が表面化した。
 偶然にもこの日は、愛媛県の伊方原発3号機で、四国電力が安全評価の報告書を保安院に提出した。
 意見聴取会では、井野博満東大名誉教授が「国の安全基準をどうするかの議論を先にすべきだ」と指摘。このほか「評価の判断基準が明確でない」「福島第1原発事故の検証や原因究明がされていないまま安全評価をするのか」などの意見が相次いだ。
 再稼働への動きが進む中、専門家から、国そのものがその是非を判断する基準を持ち合わせていないのに、評価を進められるのか、と根本的な問いを突きつけられた形だ。
 実際、保安院の動きも矛盾を抱えている。一方で再稼働への動きを進めながら、11日には、関西電力には、古文書に福井県の若狭湾沿岸部を襲った津波の記載が出てくることから、掘削調査などで事実を確かめるよう指示している。
 調査で新たなデータが出てくれば、これまで津波の危険性は低いと考えられてきた日本海側の原発への考え方も変わってくる。このほか地震や津彼の評価手法の見直しの議論も進んでいる。
 保安院は必要に応じて安全評価に反映するというが、再稼働を認めた後でも必要ならストップさせるのか、不明な部分が多い。

 見えない地元同意
 再稼働有力視の伊方3号機

 四国電力が14日、安全評価(一次評価)を提出した伊方原発3号機(愛媛県伊方町)は、地元に再稼働への柔軟姿勢も見られる。このため、政府関係者が定期検査で停止中の原発の「再稼働第一号」として有力視するが、課題も多い。
 伊方原発が再稼働第一号として期待される背景には、全国54基の原発のうち現在稼働中の十一基も今後、定期点検入りして順次停止。再稼働がなければ来年春にも全面停止になり、来夏の電力不足がさらに深刻化するという危機感がある。
 加えて、原発への依存度が高く、四国電力以外に再稼働を模索している関西、九州両電力に対し、地元などの風当たりが強く、再稼働のめどが立っていないことも大きい。
 関西電力は先月28日、大飯原発3号機(福井県おおい町)の一次評価を東京電力福島第一原発事故後、全国で初めて提出したが、福井県側は「再稼働の条件として不十分」と慎重な姿勢。九州電力についても、枝野幸男経済産業相がやらせメールをめぐる首脳陣の対応を「(玄海原発再稼働に向け)周辺住民をはじめ、国民の皆さんの理解が得られにくい大きな要素」と批判している。
 一方、四国電力の伊方原発については、中村時広愛媛県知事が「白紙から一歩も出ていない」と慎重ながらも、再稼働の要請には経産相ら責任者の来県などが前提になると、柔軟な姿勢も見せる。このため、政府関係者は「伊方が第一号になり得るのではないか」と淡い期待を寄せる。
 ただ、広範囲に被害をもたらした東京電力福島第一原発事故を受け、原発稼働に当たって同意を得るペき地元自治体の範囲が拡大する可能性が出ている。何をもって「地元の同意」と見なすかもはっきりしない。
 今後は原子力安全・保安院による審査に移り、早くても数カ月かかる見込み。その後、原子力安全委員会が確認。この間、国際原子力機関(IAEA)の評価も受ける。最終的な再稼働の可否は、地元自治体の同意を得た上で、首相や関係閣僚らが政治判断する。
    (木村留美)
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