[2011_10_19_02]東電、津波確率算出も対策講じず 安全より稼働率重視 ゆがんだ企業文化が背景(東奥日報2011年10月19日)
 東京電力が福島第1原発について、想定を超える津波が来る確率を50年間に最大10%と算出した2006年の社内研究の成果。東電は「試行の域を出ていない」として対策を取らなかったことを正当化しているが、東電内部からも「放置すべきではなかった」との声が出始めた。社内や政府内の専門家などの取材から、定期検査を乗り切って原発の稼働率を上げるために、本質的な「安全」より「保守・点検」のテクニックを重視するゆがんだ企業文化が浮かび上がった。
 「深刻な数字だ。リスク解析の手法は革命的で『試算』とはいえ、相当進んでいた」。事情に詳しい東電の専門家は、06年の津波確率算出の特徴をこう解説した。
 「革命的」とする理由は「確率論的安全評価(PSA)」と呼ばれる新しい手法を用いているからだ。地震対策では既に一般的となっているPSAは、津波発生源となる断層の設定や海底地形の誤差など各種の「不確定性」も考慮しながら、リスク計算を行う。
 計算で導き出されるのが、津波の高さを横軸に、その超過確率を縦軸に取り、発生を予測する「津波ハザード曲線」。東電は福島第1原発を対象に、被害を防ぐため想定した最大5・7bを超える津波が、50年間に発生する確率を最大10%と見積もった。

 「想定外と言えない」

 この成果は、英語の論文にまとめられ、06年7月に米フロリダ州で開かれた学会の会合で発表された。論文は次の書き出しで始まる。
 「設計基準を超える現象を評価することば、津波評価にとって有意義だ」
 ある政府内の原子力専門家は「原子力の世界ではかなりの確率。これでは、とても『想定外』とは言えない」と話す。
 日本原子力研究開発機構の鈴木篤之理事長も「新しい科学的知見を的確に、できるだけ遅延なく取り入れるのを怠った」と語った。

 献金で政治家操る

 「独占で電気を供給する電力事業者は『公僕』。社会への責任がある。こんな数値が出てくれば、組織を挙げて検討し、対策を講じるべきだ。非常用電源や電源盤への浸水を防ぐ応急対策は、半年もあれば取れた」、
 取材に応じた東電内の専門家はこう強調した上で「従来より高い確率で津波が来る兆候を無視したことが(今回の事態を招いた)大きな原因。なぜ無視したのか。その背景には東電の組織文化がある」と続けた。
 政府内の別の原子力専門家も「事故の遠因」として「原発の安全やリスク解消」より保守・点検を重く考え「品質管理」にエネルギーを傾注する企業文化があると話す。
 想定外の津波の危険性を示す重要な成果を放置し、安全にかかわる大事な問題に集中できない企業文化のゆがみ。その源流が、「財」を蓄えて政治献金で政治家を操りながら、官僚機構ににらみを利かせる近年の東電の経営体質にあるとの関係者の声もある。
 20日召集の臨時国会では、事故検証を独自に進める調査委員会が設置される予定。政界では津波の評価を放置し続けた経緯を問題視する声が上がり、与野党とも手ぐすね引いている。
 東芝出身で原発に詳しい民主党の空本誠喜衆院議員は、06年津波評価について「桁外れに高い数字だ」と指摘。調査委設立を推進した自民党の石破茂衆院議員も「ひどい話。国会での検証が大事だ」と真相究明に意欲を示した。

 福島第1原発の津波対策

1966〜72年 福島第1原発設置許可、想定津波はチリ地震(60年)の水位3.1メートル
2002年2月 土木学会が「原発の津波評価技術」をまとめる
2002年3月 土木学会評価技術により福島第1の津波水位は最大5.7メートルと評価され、国へ報告。ポンプ電動機かさ上げ、建屋の浸水防止の対策を実施。5.7メートルの想定はその後も変更せず
06年7月 米フロリダ州の原子力工学国際会議で東京電力が福島第1の確率論的津波評価を発表
07年7月 新潟県中越沖地震で柏崎刈羽原発に被害、地震対策見見直しへ
08年4〜5月 東電が明治三陸沖地震の津波の波源を福島沖と仮定して試算。福島第1の津波水位は最大10.2メートル浸水高15.7メートル
08年12月 産業技術総合研究所の貞観津波シミュレーションにより、東電が社内試算。福島第1の津波水位は最大8.9メートル
09年〜10年の冬 東電が福島県沿岸で貞観津波の堆積物調査
11年3月7日 津波試算結果を保安院に説明。貞観地震試算の津波水位は満潮を考慮して最大9.2メートルに変更
3月11日 東日本大震災、福島第1で事故発生
(東電内部資料などにより作成)
KEY_WORD:FUKU1_:SOEDA_:TSUNAMI_:JOUGAN_:MEIJISANRIKU_:CHUETSUOKI_: