[2011_10_18_02]遺跡からの警告 地震考古学 第3部 1 北海道襲った巨大津波 痕跡から連動型想定(東奥日報2011年10月18日)
 「とんでもないものを見つけてしまった」−。1998年、北海道・十勝平野の太平洋岸で、切り立った海岸段丘のてっぺんに立った北海道大の平川一臣特任教授(地形学)がつぶやいた。
 高さ15メートルの段丘上に、海底を転がって丸くなった石や海砂が広がる。この高さをやすやすと越えられたのは、高さ20メートル級の巨大津波しかない。
 「とてつもない規模。どんな地震か想像を絶する」
 海側プレートが陸の下に潜り込む千島海溝周辺では引き込まれた陸側プレートが跳ね上がるたびに地震を起こしてきた。
 だが、北海道で詳細な文献が残るのは19世紀以降。記録の空白を埋めたのは、研究者が地道に探した津波の痕跡だった。
 98年以降、こうした津波堆積物は北海道各地で確認され、過去6500年に十数回、300〜500年ごとに大津波が襲来したと判明。高さ約20メートルの巨大津波は17世紀初頭と最も新しく、過去最大級だった。
 堆積物の分布や地震で隆起した海岸段丘の調査などから、十勝沖、根室沖で発生した連動型地震が想定され、国の中央防災会議は「500年間隔地震」という名称で被害想定の対象とした。
 しかし、北方領土の色丹島で17世紀初頭の津波堆積物が見つかり、震源域はさらに東へ広がる可能性も。
 「津波の規模や浸水域は毎回異なっている。地震も単独発生や連動型などさまざまなバリエーションがあり、十勝沖から根室沖、さらに色丹島沖、択捉島沖と連動した時もあったのでは」
 北海道は東日本大震災後、想定地震を見直すワーキンググループを設置。津波による浸水予測図の改定を始めている。
 東大地震研究所の古村孝志教授は「連動型地震が怖いのばプレートがずれ動く範囲だけでなく、ずれ動く量(断層が食い違う量)も大きくなり、大規模な海底変動が生じて津波が高くなること。加えて十数分の時間差で地震が連動すると、それぞれの地震で生まれた津波が重なり、高さがさらに1・5〜2倍になることもある」と言う。
 老中田沼意次の命で北方へ向かった探検家最上徳内は1786年、択捉島東方のウルップ島(得撫島)に日本人で初めて上陸。津波で丘に打ちあげられたロシアの大型船を見た、と書き残した。
 平川特任教授は「自然は正直に記録を残している。地球の歴史に学び、将来を考えなければならない」と警告した。

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 東日本大震災後、震源域の周辺では余震や誘発地震が続いている。日本列島で今、何が起きているのか。遺跡や文献に残る災害の痕跡と最新の研究成果から、未来を守る手掛かりを探った。
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