[2011_09_02_01]3.11大震災 フクシマの教訓 第3部 津波に耐えた原発下東海第2 県試算受け防波壁高く 「事業者の危機感次第」(東奥日報2011年9月2日)
 「(県の津波想定がなければ防波壁を)6・1メートルまで上げたかどうかは分からなかった」。日本原子力発電・東海事務所統括・広報グループの神永浩一課長はこう話し、安堵(あんど)の表情を浮かべた。
 同社の東海第2原発(茨城県東海村)は、東北電力・女川原発と同様、津波から生き残った原発と評される。地震対策と並行する形で防波壁のかさ上げなどに、いち早く取り組んだことが奏功した。
 防波壁は、原子炉を冷却するための海水をくみ上げるほか、非常用ディーゼル発電機の冷却用にも使う重要機器「海水ポンプ」を囲う形で南北にそれぞれ設置した。厚さ25センチの鉄製で標高6・1メートル。
 当初、日本原電は東海第2原発に来襲する可能性のある津波の高さを土木学会の評価結果に基づいて4・86メートルと想定。1997年に標高4・9メートルの防波壁を設置した。

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 日本原電に津波対策の強化を促す結果となったのは、茨城県が2007年10月に独自に策定した「津波浸水想定区域図」。区域図では、東海第2原発の海水ポンプ付近へ押し寄せる津波の高さを土木学会の評価より約1メートル高い5・72とメートルと試算されていた。
 日本原電は県の試算に従い09年7月に防波壁のかさ上げ工事に着手する。従来より1・2メートル高い、標高6・1メートルの防波壁が完成したのは昨年9月だった。
 その半年後の今年3月11日、東海第2原発に津波が押し寄せた。津波の高さは茨城県の試算とほぼ同じ5〜5・4メートル。密水性工事が間に合わなかった防波壁以外の経路からの海水浸入はあったが、浸水被害は一部にとどまり、東京電力・福島第1原発のような原子炉冷却機能の喪失は免れた。
 茨城県原子力安全対策課の江幡一弘課長補佐は「(日本原電が)津波対策を講じていなかったら、福島第1原発のような事態を招いた可能性は否定できない」と話す。
 同県の津波浸水想定は、国の原発耐震指針改定とは無関係で、同県土木部が偶然、その時期に策定しただけだという。しかし、日本原電はこれに素早く対応し、大震災で難を逃れる結果となった。
 「県の津波想定は事業者への強制力ほ何一つないが、日本原電はこれを真撃(しんし)に受け入れ、対策を講じた。結局、事業者がしっかり危機感を持っているかどうかだ」と江幡課長補佐。

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 東電も津波試算をしなかったわけではない。08年春には、10メートルを超す津波が来襲する可能性があると評価。しかし、07年の新潟県中越沖地震で同社の柏崎刈羽原発が想定を上回る揺れに見舞われたことから耐震性強化を先行。津波対策を講じることはなかった。
 「原発の耐震指針改定(2006年)後、貞観地震(869年)の記録などから土木学会が従来の想定地震やそれに伴う津波の大きさを見直す動きがあり、提言している。東電関係者もこうした動きは承知していたと思うが、幹部の決断や優先順位で日本原電との差が出たのかもしれない」。東海第2原発の建設に関わった日立製作所名誉顧問の荒井利治氏(79)=日本原子力学会シニアネットワーク運営委員=はこう指摘している。 (安達一将)
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