[2011_05_07_01]浜岡原発 全面停止へ 首相、中部電に要請 地震・津波 対策不十分 保安院「おおむね2年」 中部電首脳「要請重い」 安全重視に立つ決断(東京新聞2011年5月7日)
 中部電力浜岡原発(静岡県御前崎市)は六日、地震、津波対策を強化するまでの間、すべての原子炉の運転を停止する見通しになった。菅直人首相は六日夜の記者会見で浜岡原発について今後、発生する可能性が高い地震、津波に対して十分な安全性が確保されていないことを理由に稼働中の4、5号機を含め「すべての原子炉を停止すべきだと判断した」と表明。首相の方針を受け、海江田万里経済産業相は中部電力に全面停止を要請した。中部電力は六日夜、要請内容を「迅速に検討」する考えを強調。要請を最終的には受け入れ、全面停止に踏み切る見通しだ。

 菅首相は六日夜の記者会見で浜岡原発の全面停止の理由について「国民の安全と安心を考えて決断した。浜岡原発で重大事故が発生した場合に日本社会全体に及ぶ影響も考慮した」と説明した。
 浜岡原発が東海地震の震源域に位置し、文部科学省の地震調査研究推進本部が今後30年以内にマグニチュード(M)8程度の地震が発生する可能性を87%と予測していることも指摘した。
 運転停止期間は防潮山堤建設や原子炉建屋の補強工事など中長期的な地震・津波対策が終わるまでとし経産省原子力安全・保安院は「おおむね二年」と説明。浜岡以外の原発には停止を求めない方針だ。
 一方、首相は浜岡原発全面停止による中部電力の電力供給について「多少の不足が生じる可能性があるが、この地域をはじめとする全国民の理解と協力があれば夏場の電力震要に十分に対応できる」と述べた。経産相は会見で「計画停電には至らない」と強調。電力不足は火力・水力発電で補うとともに、関西電力にも協力を要請したことを明らかにした。
 今回の政府の要請は法律に基づく措置ではなく、強制力はない。
 東日本大震災後、新たな大地震発生の可能性を踏まえ、政府が原発停止を求めたのは今回が初めて。
 浜岡原発に3号機が1987年、4号機が93年、5号機が2005年にそれぞれ運転を開始。供給電力は三基で計約360万キロワット。

 中部電首脳 「要請重い」

 中部電力は六日夜、浜岡原発の停止要請に対し、水野明久社長名で「要請内容について迅速に検討いたします」とのコメントを発表するにとどめ、明確な意思表示は避けた。しかし、両社首脳は同日夜、本紙の取材に対し「所管大臣が文書を発し、首相が会見までしたのだから要請は重い。断るのは相当な理由がない限り難しい」と述べ、停止した場合の電力需給バランスなどに見通しが立てば、要請を受けざるを得ないとの判断を示した。
 中部電力によると、停止要請は午後6時半ごろ、海江田経産相から水野社長に電話で伝えられた。水野社長は「回答は保留させてほしい」と答えたという。正式な要請書は、菅首相が会見する10分前の午後7時、原子力安全・保安院から中電東京支社の岡部一彦支社長に手渡された。

 浜岡原発 静岡県御前崎市にある中部電力の原発。東海地震の想定震源域の中にある。1〜4号機は沸騰水型、5号機は改良沸騰水型で1976〜2005年に順次運転を始めたが、1、2号機は09年に運転を終了した。運転段階の3基の総出力は約360万キロワット。3月11日の地震時に3号機は定期検査で停止中で、4、5号機は運転を続けてきた。4号機ではプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料を燃やすプルサーマル発電を計画している。地元住民らが1〜4号機の運転差し止めを求めた訴訟は、一審静岡地裁で07年に住民側が敗訴し、東京高裁で係争中。

 解説

 浜岡原発の全原子炉の運転停止を求めた政府要請は、現に危険がある以上はまず立ち止まろうという安全重視の考えに基づく。これまでの国の原子力政策にはなかった画期的な決断といえる。
 2002年に発覚した東京電力のトラブル隠しなど、国はこれまで、事故や不祥事が起きるたび、電力会社に運転停止を命じたり、自主的な運転停止を求めたりしてきた。
 だが、特に事故や不祥事を起こしていない稼働中の原発に対し、地震や津波への不安を理由に予防的に停止を求めたことはない。
 ただ、停止要請は津波を防ぐ高さ15メートルの防潮堤建設など中長期的な対策が完成するまでの間とされており、一時的なものだ。
 M9・0の巨大地震と、それに伴う津波による福島第一原発の事故が起き、地震学の常識は揺らいでいる。中電の想定する地震はM8・5で、今打ち出している対策だけで十分かどうかは、専門家の間でも議論がある。
 「国民の安全と安心のため」という停止要請の趣旨を現実のものにするには、どんな対策が必要なのか。大震災から得られる新しい知見を取り入れ、将来的な廃炉の可能性も含めて、真剣に考えるべきだ。(原発事故取材班)。
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