[2010_12_17_01]津波高さが防波堤と同じなら、1.5倍の高さで防波堤を乗り越える(岩波新書2010年12月17日)
 高波や高潮とは違う
 わが国では、津波と高波と高潮の違いを知る機会ははとんどない。ところが台風が接近してくると、高波警報や高潮警報がいきなり発令される。津波の場合も、同じようにいきなり警報が発令されるのである。
 テレビでもこれらの現象の違いをわかりやすく解説する番組はばとんどない。

 図2−4は、これらの違いを模式的に示したものである。
 ここで 「深い海」とは水深200メートル程度以上であり、「浅い海」は水深10メートル程度の海を指す。
 まず、風によって発達する高波は、深い海では水粒子の運動は円軌道になって閉じる。したがって、実質的に彼の進行方向への海水の流動はない。このときの波長(隣り合う彼の峰同士の距離)は、波の周期の二乗の値に1・56倍した長さである。たとえば、周期10秒の波では波長は156メートルである。この約半分より深いところでは海水は動いていない。したがって、台風が接近して海が大荒れのときでも、魚は深いところで泳いでおり、荒波の影響を受けない。
 ところが、浅い海域に高波が入ってくると、水粒子の円軌道は精円形になり、かつ閉じずに海水の進行方向への流動が起こる(実際は波形が尖るようになり、この楕円形の軸が傾き進行方向に非対称形となる)。これを質量輸送と呼び、これが原因となって海岸線付近で海面が上昇する。その結果、海底近くでは沖方向への戻り流れが発生している。
 一方、高潮はどうか。台風の強風が吹くと、吹送流が海面のごく近くで発生し、膨大な海水が風下方向に運ばれる。これが海岸付近に溜まって海面が上昇する。そのため、遠浅な海岸では高潮が極めて大きくなる。メキシコ湾を北上した2005年ハリケーン・カトリーナの場合、高潮によってアメリカ合衆国・ニューオーリンズ付近の海面が8・5メートルも上昇した。また、図のように防波堤や海岸護岸のところにやってくると、吹送流がせき止められる形となり、そこで海面が盛り上がり、海底近くでは戻り流れが発生する。ただし、この流れは小さく、高潮の場合は、水面が単に上昇していると考えてよい。だから、高さ5メートルの高潮は5メートルの海岸護岸で防御できるのである(実際には、高潮発生時には強風が吹いているので、高波の影響を考慮しなければならない)。
 さて、M8.4の南海地震に伴う津波を考えてみよう。水深約200メートルでは、水粒子は約250メートル程度、前後に往復運動する。このときの津波の高さは1メートル前後である。これが水深約10メートルの海域に来ると、水粒子は約800メートル前後、往復運動する。このときの津波の高さは1メートル前後である。これが水深約10メートルの海域に来ると、水粒子は約800メートル前後、往復運動する。そこに防波堤があると、海底から海面までほぼ水平に運動している水粒子が前に進めなくなり、前述のように、これが位置エネルギーに変換され、津波の高さが約1.5倍高くなる。したがって、高さ5メートルの津波は5メートルの海岸護岸に衝突すると、7・5メートル近い高さに盛り上がり、海岸護岸を容易に乗り越えるのである。
KEY_WORD:TSUNAMI_: