[2003_06_20_01]日本海東縁部の地震活動の長期評価について(評価文はPDF形式_図表部はHTML形式)(地震調査研究推進本部_地震調査委員会2003年6月20日) |
地震調査研究推進本部は、「地震調査研究の推進について −地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策−」(平成11年4月23日)を決定し、この中において、「全国を概観した地震動予測地図」の作成を当面推進すべき地震調査研究の主要な課題とし、また「陸域の浅い地震、あるいは、海溝型地震の発生可能性の長期的な確率評価を行う」とした。
地震調査委員会では、この決定を踏まえつつ、これまでに、プレートの沈み込みに伴う大地震(海溝型地震)として、宮城県沖地震、南海トラフの地震、三陸沖から房総沖の地震活動、千島海溝沿いの地震活動について長期評価を行い、公表した。 今回、引き続き、日本海東縁部の地震活動について、北海道沖から新潟県沖にかけて発生する大地震について、現在までの研究成果及び関連資料を用いて地震の調査研究の立場から評価し、別添のとおりとりまとめた。 評価文 (PDF 35ページ 187KB) ※以下は上記の評価分のテキスト部1〜5ページを抜粋したものである。 平成15年6月20日 地震調査研究推進本部 地震調査委員会 日本海東縁部の地震活動の長期評価 北海道沖から新潟県沖にかけての日本海東縁部では、これまでいくつかの大地震が発生したことが知られている。本報告書は、日本海東縁部のうち、図1に示す北海道北西沖、北海道西方沖、北海道南西沖、青森県西方沖、秋田県沖、山形県沖、新潟県北部沖、および佐渡島北方沖の各領域における長期的な観点での地震発生の可能性、震源域の形態等について評価してとりまとめたものである。評価にあたっては、これらの領域に発生した地震について行われたこれまでの調査研究の成果を参考にした。 1 地震の発生領域及び震源域の形態 日本海東縁部で発生する地震は、主としてプレート相対運動に伴う東西方向からの圧縮力を受けて発生する。日本付近の太平洋沿岸では、海溝からプレートが沈み込むことによって明瞭なプレート境界が存在し、主にこのプレート境界で、圧縮力による歪を解消すると考えられるが、日本海東縁部では、プレート境界が南北方向に分布する何条かの断層・褶曲帯(以下、「歪み集中帯」と呼ぶ)より成り、幅をもった領域全体で圧縮力による歪を解消するものと考えられている。 本報告書では、北海道北西沖から新潟県北部沖にかけての日本海東縁部に沿って、M7.5以上の地震の発生したことが地震観測および歴史記録から知られている領域を評価対象とし、便宜上各々を、北海道西方沖、北海道南西沖、青森県西方沖、山形県沖、新潟県北部沖と呼ぶこととした(図1)。 また、地震観測および歴史記録からはM7.5以上の大地震の発生が確認されていない残りの海域(一般に「地震空白域」と呼ばれている)についても検討し、地震性堆積物・津波堆積物*1の記録および領域の大きさから、将来M7.5以上の大地震が発生する可能性があると判断した北海道北西沖、秋田県沖、佐渡島北方沖を評価対象とした(図1)。北海道西方沖・北海道南西沖・青森県西方沖の狭間にある空白域は、その大きさからM7.5以上の大地震は発生する可能性が低いと考え、評価対象とはしなかった。 本報告では、設定した各領域で東西方向から圧縮する力を受けて繰り返しM7.5以上の地震が発生するものと考え、それらの地震をそれぞれ「北海道北西沖の地震」・「北海道西方沖の地震」・「北海道南西沖の地震」・「青森県西方沖の地震」・「秋田県沖の地震」・「山形県沖の地震」・「新潟県北部沖の地震」・「佐渡島北方沖の地震」と呼ぶこととする。 1−1過去の震源域について 江戸時代以降現在までにM7.5以上の大地震の発生が知られている北海道西方沖、北海道南西沖、青森県西方沖、山形県沖、新潟県北部沖の地震を表1に、それらの代表的な断層モデルを図2に示す。 北海道北西沖、秋田県沖、佐渡島北方沖の地震については、地震観測および歴史記録からは過去にM7.5以上の大地震の発生が知られていないが、地震性堆積物・津波堆積物の記録、地殻短縮量の大きさ、および現在の地震活動の状況から過去の発生が推定される。 ------------------------------------------------------- *1 浅い水深に堆積した砂などの粗粒堆積物が、地震・津波・暴風等による震動や衝撃などによって、周りの流体と混合し流動化して発生する混濁流によってもたらされた堆積物をタービダイトと呼ぶ。本報告では、タービダイトを発生させた要因として地震動の可能性が高いと判断できる堆積物を地震性堆積物と呼んだ。 他方、津波によって直接運ばれ、あるいはその作用を受けて形成された堆積物を津波堆積物と呼ぶ。 ------------------------------------------------------- 1−2 将来の地震の発生位置及び震源域の形態について 地震観測および歴史記録からM7.5以上の大地震の発生が確認されている領域では、次に起こる地震の発生位置(領域)及び震源域の形態を、過去の地震を参考にして推定した。すなわち、北海道西方沖、北海道南西沖、青森県西方沖、山形県沖、新潟県北部沖の地震は、1940年、1993年、1983年、1833年、1964年の地震を各々の領域の代表例と考え、将来も同様な地震が発生するものと考えた。その想定震源域は、図2に示した1940年神威岬沖(積丹半島沖)の地震、1993年北海道南西沖地震、1983年日本海中部地震、1833年庄内沖の地震、1964年新潟地震の代表的な断層モデルに設定した。 北海道北西沖、秋田県沖、佐渡島北方沖では、地震観測や歴史記録からはM7.5以上の大地震の発生が知られていないが、海底断層・褶曲帯の分布、地殻短縮量の大きさの地質学的データ、現在の地震活動の状況、および周辺で発生した過去の大地震の規模にもとづく類推から、想定震源域を図2の様に設定した。なお、北海道北西沖と佐渡島北方沖は他の領域より広いが、これらの領域で起こる地震の規模は、地震観測および歴史記録から知られている日本海東縁部の最大規模を想定した。これら2領域に示した想定震源域の矩形の位置は一つの代表例であり、当該領域内のどこでも起こりうるものと考えた。 2 地震活動 地震計観測記録、歴史地震の記録、津波の記録、震度分布、及び地震性堆積物・津波堆積物の解析結果に基づく既存の調査研究の成果を吟味し、北海道北西沖から新潟県北部沖および佐渡島北方沖にかけての大地震を表2のように整理した。各領域で評価した地震(表2)及びそれを踏まえた次に起こる地震の評価結果は次のとおりである。 2−1 過去の地震について 北海道北西沖から新潟県北部沖および佐渡島北方沖にかけての日本海東縁部に発生した大地震については、850年の出羽地震まで遡って確認された研究成果がある。本評価では地震観測および歴史記録から地震の見落としの可能性がない時期は、北海道北西沖に関しては明治時代(19世紀半ば)以降、北海道西方沖から北海道南西沖にかけては18世紀以降、青森県西方沖以南に関しては江戸時代(17世紀)以降であると考えた。それ以前に関しては、地震性堆積物や津波堆積物の記録から大地震の履歴を推定した研究成果があるので、それらを用いて大地震の可能性のあるイベントを同定した。 北海道北西沖の地震 歴史記録からはM7.5以上の大地震は知られていないが、北海道礼文島西方の利尻トラフにおける海底堆積物の解析から、その付近で大地震が発生した痕跡を表す2枚の地震性堆積物が認められる。本報告ではその堆積年代の推定値を採用して、約2100年前、約6000年前に北海道北西沖の地震が発生した可能性があると判断した。北海道北西沖の地震の発生領域、震源域の形態、発生間隔等は表3−1にまとめた。 北海道西方沖の地震 過去の北海道西方沖で発生したM7.5以上の大地震については、地震観測および歴史記録からは1940年に神威岬沖(積丹半島沖)で発生したものが唯一知られているだけである。この地震の地震動による被害はほとんどなかったが、津波は日本各地を襲い、北海道においては死傷者を伴った(利尻で最大3m)。この地震の規模はM7.5(Mt7.7, Mw7.6)*2である。本報告ではこの地震を北海道西方沖の地震の典型例と考えた。北海道西方沖の地震の発生領域、震源域の形態、発生間隔等は表3−2にまとめた。 北海道南西沖の地震 過去の北海道南西沖で発生したM7.5以上の大地震については、地震観測および歴史記録からは1993年北海道南西沖地震が唯一知られているだけである。この地震により最大震度は5を観測、津波の高さは奥尻島で数m〜10数m(最大約30m)、渡島半島西岸でも7〜8mに達し、多くの死傷者を伴った。この地震の規模はM7.8(Mt8.1, Mw7.7)である。本報告ではこの地震を北海道南西沖の地震の典型例と考えた。 なお、奥尻島周辺の後志(しりべし)トラフにおける地震性堆積物の推定堆積年代から、過去約7000年間に1400年程度の平均間隔で、北海道南西沖の地震が繰り返し発生した可能性があると判断した。北海道南西沖の地震の発生領域、震源域の形態、発生間隔等は表3−3にまとめた。 青森県西方沖の地震 過去の青森県西方沖で発生したM7.5以上の大地震については、地震観測および歴史記録からは1983年日本海中部地震が唯一知られているだけである。この地震により最大震度は5を観測、津波の高さは秋田県峰浜村で最大約14m、秋田県八竜町(はちりゅうまち)で約7mに達し、多くの死傷者を伴った。この地震の規模はM7.7(Mt8.1, Mw7.7)である。本報告ではこの地震を青森県西方沖の地震の典型例と考えた。 なお、過去約1000年間における日本海中部地震震源域における地震性堆積物の記録、及び青森県沿岸部の津軽十三湖における津波堆積物の記録を比較検討した結果、1983年以前にも、14世紀、および10世紀(発生間隔は平均500年程度)に青森県西方沖の地震が繰り返し発生した可能性があると判断した。青森県西方沖の地震の発生領域、震源域の形態、発生間隔等は表3−4にまとめた。 秋田県沖の地震 歴史記録からはM7.5以上の大地震は知られていない。しかしながら、地殻短縮量が他領域と比較して相応な大きさをもつこと、および南方延長の歪み集中帯でM7.5以上の地震が2回(1833年庄内沖の地震、1964年新潟地震)発生していることから、当該領域でも同程度の規模の地震が過去に繰り返し発生した可能性が高いと判断した。秋田県沖の地震の発生領域、震源域の形態、発生間隔等は表3−5にまとめた。 山形県沖の地震 過去の山形県沖で発生したM7.5以上の大地震については、地震観測および歴史記録からは1833年に庄内沖で発生したものが唯一知られているだけである。この地震により最大震度5を記録し、庄内地方で多くの死傷者を伴った。また、山形県沿岸の湯野浜〜鼠ヶ関(ねずがせき)、佐渡の相川、能登半島の輪島を5〜8mの高さの津波が襲い、多くの溺死者が出た。この地震の規模はM7.7(Mt8.1)である。本報告ではこの地震を山形県沖の地震の典型例と考えた。山形県沖の地震の発生領域、震源域の形態、発生間隔等は表3−6にまとめた。 ------------------------------------------------------- *2 Mwは「モーメントマグニチュード」のことで、震源の物理的な規模を表す地震モーメントという量を使って算出するマグニチュードである。 マグニチュードの頭打ち(地震が大きくてもマグニチュードがその割に大きくならない現象)を回避でき、物理的な意味が明確な指標である。 Mtは「津波マグニチュード」のことであり、津波の高さの分布を使って算出する地震の大きさの指標である。 Mtを決める計算式の係数は、MtがMwと等しくなるように決められており(Abe,1981)、津波の遡上高をデータとして工夫して用いることで潮位観測データが無い歴史地震にも適用可能(Abe,1999)である。 従って歴史地震のMwを推定する上で信頼性が高い。 ------------------------------------------------------- 新潟県北部沖の地震 過去の新潟県北部沖で発生したM7.5以上の大地震については、地震観測および歴史記録からは1964年新潟地震が唯一知られているだけである。この地震により最大震度は5を観測、津波の高さは震源域付近の日本海沿岸・佐渡の両津湾で約3〜5mを記録し、多くの死傷者を伴った。この地震の規模はM7.5(Mt7.9, Mw7.6)である。本報告ではこの地震を新潟県北部沖の地震の典型例と考えた。新潟県北部沖の地震の発生領域、震源域の形態、発生間隔等は表3−7にまとめた。 佐渡島北方沖 歴史記録からはM7.5以上の大地震は知られていないが、佐渡海嶺北部から南部にかけての複数の地点で採取された地震性堆積物の履歴、および分布する地殻短縮量の大きさより、過去に500〜1000年程度の平均間隔で、佐渡島北方沖の地震が繰り返し発生した可能性があると判断した。佐渡島北方沖の地震の発生領域、震源域の形態、発生間隔等は表3−8にまとめた。 過去の地震の履歴から推定される平均活動間隔の推定 上記のように、地震観測および歴史記録からは、その発生が知られている地震は各領域とも高々1回である。そこで各領域における評価対象地震の平均活動間隔は、当該領域および隣接領域における地震性堆積物・津波堆積物の記録や、プレート運動の知見等を参考にして推定することとした。 その結果、北海道北西沖における平均活動間隔を3900年程度、北海道西方沖における平均活動間隔を1400〜3900年程度、北海道南西沖、青森県西方沖における平均活動間隔を500年〜1400年程度、秋田県沖、山形県沖、新潟県北部沖における平均活動間隔を1000年程度以上、佐渡島北方沖における平均活動間隔を500〜1000年程度であると推定した。 評価対象としなかった地震 本報告では各領域におけるM7.5以上の地震を評価対象とし、地震観測記録および歴史記録からM7.5に達していないとされる地震は、ひとまわり小さい地震とみなして評価対象から外した。 また、規模が大きいとされる地震に関しても、地震観測記録および歴史記録の信憑性に疑問があって規模や発生時期、場所が著しく不明瞭であるものや、被害記録はあっても地震以外の原因である可能性が大きいものは評価対象から外した。*3 2−2将来の地震について 将来発生する地震の発生確率は、地震調査委員会(2001)*4に基き、過去の平均活動間隔と最新活動からの経過時間をBPT分布モデルにあてはめることで推定する。但し、秋田県沖、佐渡島北方沖に関しては最新活動時期を特定するだけの十分な資料がないため、ポアソン過程を用いて推定した。また、想定規模は当該領域や周辺における過去の地震規模から推定した。その結果は以下のとおり(図3参照)。 ------------------------------------------------------- *3 評価対象から外したのは、地震観測記録や歴史記録の信憑性に問題があった850年(出羽国)、1341年(青森県西方沖?)、1614年(新潟県沖?)、1741年(渡島付近)、1897年(秋田県沖?)のイベントと、地震観測記録や歴史記録からはM7.5に達しないと思われる1704年(岩館付近)、1762年(佐渡近海)、1792年(北海道西方沖)、1793年(鰺ヶ沢付近)、1802年(佐渡付近)、1804(象潟付近)、1810年(男鹿半島沿岸)、1834年(石狩湾付近)、1939年(男鹿半島沿岸)、1947年(北海道西方沖)、1964年5月(男鹿半島沖)、1971年(サハリン南西沖)、1993年2月(能登半島沖)の地震である。 *4 ある事象に関して、過去の時系列データから将来の発生確率を予測する統計的な手法において、事象が発生する毎に状況が更新される(振り出しに戻る)ものを更新過程と呼ぶ。 そのうち事象が偶発的に起こる(即ち事象の単位時間あたりの発生回数が最新事象からの経過時間によらず一定な)モデルをポアソン過程と呼ぶ。 一方、過去の時系列データのうち最新発生時期が分かっている場合には、事象の性質に応じて将来の予測をするモデルがいくつか提唱されており、地震による応力解放とプレート運動による応力蓄積の物理的過程と調和的なBPT分布モデルがある。 地震調査委員会(2001)では、最新の活動時期が分かっており、当該地域で繰り返し発生する可能性があると評価した地震の系列に対してはBPT分布モデルを採用し、それ以外の場合はポアソン過程を採用することとしている。 ------------------------------------------------------- 次の北海道北西沖の地震の今後30年以内の発生確率は0.006〜0.1%程度、今後50年以内の発生確率は0.01〜0.2%程度、規模はM7.8程度と推定される(表4−1)。次の北海道西方沖の地震の今後30年以内、今後50年以内の発生確率はともにほぼ0%、規模はM7.5前後と推定される(表4−2)。次の北海道南西沖の地震の今後30年以内、今後50年以内の発生確率はともにほぼ0%、規模はM7.8前後と推定される(表4−3)。次の青森県西方沖の地震の今後30年以内、今後50年以内の発生確率はともにほぼ0%、規模はM7.7前後と推定される(表4−4)。次の秋田県沖の地震の今後30年以内の発生確率は3%程度以下、今後50年以内の発生確率は5%程度以下、規模はM7.5程度と推定される(表4−5)。次の山形県沖の地震の今後30年以内、今後50年以内の発生確率はともにほぼ0%、規模はM7.7前後と推定される(表4−6)。次の新潟県北部沖の地震の今後30年以内、今後50年以内の発生確率はともにほぼ0%、規模はM7.5前後と推定される(表4−7)。次の佐渡島北方沖の地震の今後30年以内の発生確率は3〜6%程度、今後50年以内の発生確率は5〜10%程度、規模はM7.8程度と推定される(表4−8)。 3 今後に向けて ・日本海東縁部ではM7.5以上の地震は、地震観測や歴史記録からは各領域で高々1回しか知られていないために、大地震の繰り返しの記録は、地震性堆積物や津波堆積物の地質学的データから推定する方法が有効である。しかし、地震性堆積物などの調査研究は進展途上にあり、今後新しい知見が得られる可能性が高い。今後の新しい知見によっては、評価の再検討も必要である。 ・太平洋の沈み込み帯におけるプレート境界の役割を、日本海東縁部では何条かに分かれて、南北方向に分布する歪集中帯が一体として担うものと考えられている。 今後、各歪集中帯の地殻短縮量や、プレート相対速度が精度よく求まれば、プレート相対運動から各歪み集中帯における大地震の活動間隔がある程度推定できる可能性があり、更なる調査研究が期待される。 |
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