【記事65530】草津白根山噴火/備えと対応の再点検を(山陰中央新報2018年1月27日)
 
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草津白根山噴火/備えと対応の再点検を

 群馬県の草津白根山が噴火し多数の死傷者が出た。スキー場のゲレンデに降り注ぐ噴石や黒い火山灰の映像に衝撃を受けた人も多いだろう。今回の事態を検証し、火山への備えや噴火時の対応を早急に再点検しなければならない。
 草津白根山は、常時観測火山として気象庁が地震計などの観測データを24時間監視し、東京工業大も火山観測所を置く、手厚く監視されている火山だ。それだけに噴火を予測できなかったショックは大きい。火山学者でつくる火山噴火予知連絡会が観測体制見直しを始めたのは当然だ。
 予想できなかったのは、今回噴火した本白根山鏡池付近は想定しておらず、別の場所にある湯釜火口周辺を主に監視していたからだ。さらに事前に火山性地震の増加や火山性微動の発生などの予兆も観測されなかったという。
 気象庁による監視カメラや地震計などの観測網に問題がなかったのか。予算の制約があるのは分かるが、効果的な観測体制づくりに知恵を絞ってほしい。
 噴火直後に登山者らに警戒をメールなどで呼び掛ける「噴火速報」を気象庁が発表できなかったことも課題だ。噴火警戒レベルの引き上げも発生から約1時間後で、後手に回った感は否めない。
 噴火速報は2014年の御嶽山噴火を教訓に導入されており、避難を促し被害拡大を抑える方法だ。気象庁は監視カメラが近くになく、事実関係の確認に手間取ったと原因を説明している。
 御嶽山噴火と同様に、気象庁や火山学者が噴火の第1発見者ではない状況はどこでも起こりうる。登山者やスキー客らから情報を素早く入手し、不確定な段階でも安全確保を第一に考え、噴火の可能性を伝えるべきだ。
 次に、発生からどれぐらいたってから、火口の位置、噴火の種類や規模、熱水が噴火口から出ていないかなどの情報を把握し、火砕流の発生などの有無を判断したかも検証してほしい。
 気象庁は火山のプロである。地元の協力を得て噴火のすぐ後にできるだけ情報を収集し、被害を最小限に抑える役割がある。素早い対応ができる仕組みづくりにも力を入れるべきだ。
 被害を受ける可能性がある地域を地図で示す火山防災マップの作成方法も見直しが迫られる。草津白根山で想定していた噴火口は湯釜火口周辺の1カ所しかなく、現在の防災マップは今回の噴火には役に立たなかった。
 火山は調査すればするほど噴火口の跡が見つかるといわれる。マップを作る際には、噴火口になりそうな地点を地形からできるだけ多く想定し、被害が及ぶ可能性がある地域を広く示すべきだ。
 その範囲に建物などがあれば、安全対策も求められるが、火口ごとに噴火の可能性を考慮しながら対策に優先順位を付けることもできる。最も重要なことは、近くで噴火が起きる可能性があるかどうかを認識することだ。そうすれば、スキー場の立地など土地利用も長期的な視点で見直すことにつながる。
 火山は温泉や美しい風景をもたらす観光資源でもある。正しく恐れるためにも、観測網の充実と、突然の噴火にも対応できる準備をしておく必要がある。

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