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九州新幹線の脱線区間、防止ガード未設置

  熊本地震で九州新幹線の回送列車(6両編成)が脱線した。国土交通省によると、48の車輪全てが脱線していた。2004年10月の新潟県中越地震で、上越新幹線が脱線した事故を受け、JR各社はレールの内側などに脱線防止装置を備える対策を進めているが、今回の現場にはなかった。JR九州の兵藤公顕(きみあき)新幹線部長は15日、「強い揺れを想定していなかった」と語った。
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 新幹線の脱線事故は中越地震や東日本大震災などで過去3件あるが、全車輪脱線は初めて。国の運輸安全委員会は15日、鉄道事故調査官3人を派遣して調査を始めた。JR九州によると、現場は熊本駅の南約1.3キロの本線上で左に曲がる急カーブ。全車両がレール左側に脱線した。約200?300メートルにわたってレールに傷があり、安全委は脱線後も一定距離を走行したとみている。

 列車は地震の約1分前に熊本駅を出発し、車両基地「熊本総合車両所」へ向かう途中だった。乗客はおらず、1人で乗っていた運転士にもけがはなかった。運転士が時速約80キロで走行中に強い揺れを感じ、非常ブレーキを掛けたという。

 地震の初期微動を検知し、架線への送電を停止することで列車を止める「対震列車防護システム」は作動したが、震源が浅かったため初期微動からの時間が短く、すぐに揺れに襲われたとみられる。

 新幹線を運行するJR各社はこれまで、ハード面の整備や先進装置で脱線防止に取り組んできた。

 九州新幹線はレールの内側に「脱線防止ガード」の設置を進めている。レールとの間で車輪を挟み込み脱線を防止する仕組み。床下に突起状の「逸脱防止ストッパー」を取り付け、防止ガードに引っかかることで転覆などを防ぐ車両もあるが、今回はなかった。

 JR九州は九州新幹線(営業距離288.9キロ)で15年度末までに防止ガードを上下線で計約48キロ設置し、17年度までに約55キロに延ばす計画だった。活動する確実性が高いとされる活断層のある区間などが優先され、現場は計画の対象でなかった。関係者は「限られた予算と施工能力では、優先順位をつけざるを得ない」と打ち明ける。兵藤部長は「今後、運輸安全委員会の調査結果を踏まえ見直しを検討したい」と述べた。

 国交省とJR各社によると、JR東海は脱線防止ガードについて、東海道新幹線で15年度末までに上下線全線の約3分の1に当たる約360キロに設置済み。19年度末までに約596キロに拡大する計画という。JR北海道の北海道新幹線は車両側にL字形の脱線防止装置を取り付け、地上側には5メートル間隔で「レール転倒防止装置」を設置している。

 JR東日本では防止装置を08年度までに全新幹線車両に取り付けた。転倒防止装置も、同社管内の東北・上越・北陸新幹線の上下線計約2120キロのうち、14年度までに南関東と仙台エリアなど約360キロでの設置を終えた。同社は設置率を約6割に高める方針。

 JR西日本の山陽新幹線は防止設備を15年度末までに上下線計110キロで設置し、22年度までに同計110キロを設置する。
 脱線した車両はクレーンでつり上げていったん線路に戻し、撤去するとみられる。その後、破損したレールの部品などを修復し、点検する工程が必要になるため、作業は長期化する恐れもあるが、JR九州はゴールデンウイーク前までの復旧を目指すという。【内橋寿明、高橋昌紀、比嘉洋】

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