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「巨大地震に弱い震度計の問題点」。連載コラム「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」その151

 一連の熊本地震では震度7が2回ということになっている。だが、この両方とも、いわくつきのものだった。
 震度7は、1949年に気象庁が新たに導入して以来熊本地震までに3回しか記録されたことはなかった。2011年に起きた東日本大震災以来、熊本地震までは5年間なかったものだ。
 熊本地震での最初の震度7は4月14日だった。益城(ましき)町の役場に置いてある震度計が7を記録した。
 4月14日の地震のマグニチュード(M)は6.5。大きな直下型地震で震源が浅かったから、震度7を記録したのだった。
 だが、震度7を記録したすぐ外側の震度は、次の震度である6強ではなくて、ひとつ飛んだ下の6弱だった。震度は震源から遠くに行くにつれて順に下がっていくものだから、かなり不自然なことだった。
 震度計は地震計の一種だ。このためちゃんとしたところに設置しないと正確なデータが取れない。ところが実際には、役場などの庁舎内に置いてあることも多い。
 2日後の4月16日にM7.3の地震が起きた。こちらの地震の方がずっと大きな地震で、地震のエネルギーとしては20倍近くも大きかった。政府やNHKが「家に帰れ」と指示したこともあり、犠牲者数もずっと多かった。
 しかし、気象庁から発表された震度は6強どまりで、震度7を記録した場所はなかった。このため、当初、この地震は震度6強の地震として発表された。
 震度7がなかったのは、前のM6.5の地震のときに震度7を記録した益城町の役場に置いてあった震度計が、停電のために動作していなかったためである。
 震度は震度計がある場所でしか観測できない。周囲の地震計から数値を求めるMとは違う。
 震度計は停電していたら動作しない。せめて電池によるバックアップの仕組みくらいは持つべきであろう。
 そもそも、一般の人にとっては地震のMよりは震度の方がずっと身近なものだ。
 その後、建築学者が益城町などの家屋の損壊状況を調べ、どう見ても震度7に相当する被害だったことを発表した。
 7より上の震度はない。つまり青天井の震度で、震度7があったかなかったは、大違いなのである。
 気象庁はあわてたに違いない。地元を管轄する福岡管区気象台だけではなく、首都圏にある傘下の研究所からも職員を派遣して震度を調べ直した。そして、このM7.3の地震の最大震度を震度7として発表しなおした。震度計のデータが送られなかった数値を後から発表することになったのは異例なことだ。
 気象庁の報道発表用の資料では「益城町および西原村の震度計のデータは送られてきませんでしたが、この2か所のデータを現地調査により収集し解析した結果、下記の震度が観測されていたことがわかりました」とある。何を、どう調べたかは書いていない。
 今回の熊本・大分の地震は震度計の弱点も明らかにしてしまったのである。

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