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島崎元原子力規制委員「あの悲劇が再現する」と大飯原発の地震動の見直しを要請_まさのあつこ記者

 「なぜ、そういう危機感をいだいたのか」という東京新聞記者の質問に対する回答(下記★に引用)がすべてを物語っていた。元原子力規制委員の島崎邦彦・東京大学名誉教授は、6月16日に田中俊一委員長に招聘され、石渡明委員と原子力規制庁の櫻田道夫・原子力規制部長、小林勝・耐震等規制総括官の4人と対面する形で、原子力規制委員会の記者会見室(5F)で面会を行った。
 結論から言えば、島崎元委員は、大飯原発の地震動を、過小評価にならない計算式で計算し直すべきだという提案を行った。
 ただし、「私(が現役の委員)だったらお節介に見える」だろうと本人が面会後の記者質問に答えたように、遠慮をしながらの提案であり、面会中は、4人の現役委員・職員からは腹を探るような緊張した質問が終始続いていた。

2014年国交省の報告書「問題がある」

 面会の発端は、島崎元委員による2015年の日本地球惑星科学連合での発表(*1)や、日本活断層学会の発表にある。たとえば後者では、日本海で「最大クラス」と想定されている地震津波が、入倉・三宅式(*2)によって過小評価されている可能性があり、それと比例すると考えられる「断層のずれ」も過小に推定されているとした(*3)。
 その後、これを知った弁護士らからコンタクトがあり、2016年6月8日に行われた「大飯原発3.4号機の差止請求裁判」控訴審(名古屋高裁金沢支部)で島崎元委員は陳述書を提出した。
 これが各紙で大きく報道されたことにより、田中委員長は、「その報道の中身が、本人が言っているとおりのことを言っているのかどうかが確認できないからまず本人にきちっと確認する必要がある」と面会の趣旨を6月15日の記者会見で語っていた。
 果たして面会の冒頭で、田中委員長に尋ねられて、島崎元委員は「そういった行動に出た次第」を次にように説明した。

島崎元委員(右)の話の間中、後任の石渡明委員(左)は終始うつむいていた。(6月16日筆者撮影)

 「日本海の『最大クラス』の津波を国交省の方で2014年9月に報告書(*4)を出されているが、それが問題があるということだ。不十分なものを『最大だ』としてしまうと、いわゆる『想定外』ということの災害が繰り返される」
 「おかしいところを改めて欲しいと思って、研究を通じて学会で発表を行ってきた」
 「たまたま大飯原発の地震動にかかわる断層と日本海の最大クラスの断層が同じだ。(略)片方が良くて片方が悪いというわけにはいかない。陳述書を出すに至ったのは熊本地震が起きて、(現地で)色々見た結果、やはり入倉・三宅式を垂直に近い断層に適用すると、震源の大きさが小さくなるということを確信したからだ」

震源の大きさも50%増しとなる可能性

この日、島崎元委員が持参した資料(*5)によれば、計算式が違うだけで、日本海の津波想定は、倍以上の差が出る。

計算式によって違ってくる日本海の津波想定
入倉・三宅式: 2.8m
武村式: 5.3m(ばらつきを加えると6.8m)(*6)
山中・島崎式:4.6m(ばらつきを加えると6.1m)(*7)

 同様に、「入倉・三宅式を使う限りは、震源の大きさも過小評価になる」とし、「ざっくりと計算すると50%増しとなる可能性がある。10%でも大きい」「原子力規制委員会として、過小評価にならないやり方でやってどのぐらいの地震動になるのかを」「前向きに検討してもらいたい」というのが、島崎元委員が面会で語った柱である。

「東電は計算しながら使わなかった」同じことが日本海で再現されつつある

島崎邦彦・元原子力規制委員(6月16日筆者撮影)

 面会後、記者らによる囲み取材で島崎元委員が述べた「危機感」についての更なる問いに対しては、同氏は次のようにその心情を明らかにした。

★「なぜそういう危機感をいだいたかと言うと、古い話になりますが、2002年7月の長期評価(*8)で、日本海溝沿いに津波地震がどこでも起こるんだと、そういう評価をしたにも関わらず、それが防災対策に取り入れられなかったし、東電もそれを計算はしながらそれを使わなかったわけですね。
 それで、僕の目には、同じことが日本海で再現されつつある、というふうに写るわけです。しかも各県でその対応をしている最中なわけで、今だったらまだ間に合うかもしれない。要するに津波対策ですから、ソフトなものはやり直しが利きますけれども、ハードでいったん作ったものをまた作るなんてことは、ありえないですよね。
 場所によっては3〜4メートルの津波が来るだろうというのは、日本海の統一モデルであったのに、武村式で計算をすると6〜10メートルになるはずだということが分かるわけで、それは放っておけないです。僕としては。またあの悲劇が再現するのか。それでまた『想定外』で。それはないですよ。」

面会後の記者質問(6月16日筆者撮影)

 また、別の記者質問に、計算にかかる日数は「専門家がやれば数日」であると島崎元委員は答えている。「規制委員会は、20日の会合で、大飯原発で想定される地震の揺れについて、念のため、別の式で計算することを決める見通し」とした報道もあるが(*9)、計算結果は、裁判にも影響を与える要素を含んでおり、目が離せない状況となっている。

【注】
(*1)「活断層の長さから推定する地震モーメント」島崎邦彦(東京大学)
(*2)入倉孝次郎と三宅弘恵による計算式のこと
(*3)「活断層の長さから推定される地震モーメント:日本海「最大」クラスの津波断層モデルについて」島崎邦彦(東京大学)
(*4)「日本海における大規模地震に関する調査検討会報告書」平成26年9月(日本海における大規模地震に関する調査検討会)
http://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/daikibojishinchousa/houkoku/Report.pdf
(*5)最大クラスではない 日本海「最大クラス」の津波(月刊『科学』7月掲載予定)
(*6)武村雅之による計算式
(*7)Yamanaka YとK Shimazaki による計算式
(*8)「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について」平成14年7月31日(地震調査研究推進本部 地震調査委員会)
http://www.jishin.go.jp/main/chousa/kaikou_pdf/sanriku_boso.pdf
(*9)原子力規制委・島崎元委員、地震の揺れの過小評価の可能性指摘(6月16日FNNニュース)
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00327860.html

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