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今さら聞けない「構造計算書の読み方」_TEC_ROOTS_VOL04_地震力

※赤字部分は引用者(地震がよくわかる会)の加筆部分です。

一般事項
1.4 仮定荷重
1.4.5 地震力(前号のつづき)
P(地震力)=k(水平震度)× W(建物重量) ・・・地震力は建物重量に比例する!
水平震度は、今は「標準層せん断力係数 Co」と呼ばれている
       標準層せん断力係数 Co = 0.2
・耐震等級2は、Co × 1.25 倍
・耐震等級3は、Co × 1.50 倍
設計スタッフ:前回は、地震力はざっくり言うと、建物の総重量の2割の力がかかるという話でした。ということは、重い建物ほど大きな力がかかるということですよね。
顧問:そうじゃ。例えば人に置き換えてみると、体重50kgの人と100kgの人がいて地震が起こった場合、50kgの人に加わる地震力は10kg、100kgの人に加わる地震量は20kgということになるのじゃ。
設計スタッフ:太っている人にはちょっと恐い話ですね。でも、2割というのはどうして決まったのですか?
顧問:詳しく説明しよう。
 許容応力度計算の耐震設計は「静的震度法」というが基本になっていて(静的というのは、「その状態が変化せず続く」ということじゃ。ちなみに動的とは、状態の変化に応じて設計することなんだ)、これがそもそも「建物重量の何割かの重さが水平力(つまり地震力)として作用するという考え方なのだ。

P(地震力)=K × W(建物重量)

 この割合を水平震度(k)というのじゃが、発生した地震の最大加速度(a)の重力加速度(g)に対する比で表さ

k(水平震度)=a(最大加速度)/ g(重力加速度)

れ、関東大震災(1923年)の最大加速度が0.3gだったと言われている(実際の計測記録はなく、当時の偉い学者先生が決めたそうだ)ので、そうする

k = a/g = 0.3g/g = 0.3

とk=0.3ということになり、この極めて大きい地震に対して安全に設計しようということになった。
 しかし、関東大震災級の地震はめったに起こらないので、比較的頻繁に起こるであろう地震を関東大震災の3分の1と考えて、水平震度0.1として設計することにしたのじゃ。これは後に0.2に引き上げられることになり、現在では標準層せん断力係数と呼び、標準的には建物重量の2割の力が作用するということになったんだ。

Co(標準層せん断力係数)=0.2

 よく、耐震等級2や3の場合、構造計算書のどこを見れはよいのかという問合せがある。書き方にもよるが、
●耐震等級2の場合は、1.25倍 Co×1.25=0.2×1.25=0.25
●耐震等級3の場合は、1.50倍 Co×1.50=0.2×1.50=0.30
と標準層せん断力係数を割増している。確認しておこう。
 余談になるが、耐震等級2(1.25倍)というのは、地震等の災害時に避難場所となる学校の校舎の設計基準と同等で、耐震等級3(1.50 倍 )というのは、災害時に絶対壊れてはいけない消防署の設計基準と同じなんじゃ。
 後からできた品確法の耐震等級の係数をそれに合わせたということじゃね。

 実はな、「水平震度 0.1」と決められた時の材料安全率は 3 だった。その後 1950 年の建築基準法では「水平震度 0.2」「材料安全率 1.5」と設定されているから、これはある意味、同じということだ、と私は考えているのだ。

Q i(i 階の層せん断力) = C i (i 階の層せん断力係数) × Σ W i(i 階よりも上層の建物重量)

              C i = Z × Rt × A i × C o
                 Z :地震地域係数
                 Rt:震動と特性係数
                 Ai:地震層せん断分布係数
                 Co:標準層せん断力係数

設計スタッフ:地震力は、建物の重量に比例することは解りました。
 でも、構造計算書には、もっと複雑な式が書いていありますよね。あれはどういう計算なのですか?
顧問:お、なかなか突っ込んだ質問じゃな。では、少々難しくなるが、説明しよう。

層せん断力
 地震のエネルギーは基礎から建物の上部へ侵入して、建物を振動させようとする。この振動による慣性力が地震力となるわけだ。設計では、各層毎に生じる地震力(層せん断力(Qi)という)を求め、各層が安全であることを確認するのじゃ。
 この層せん断力(Qi)は、上式のように層せん断力係数(Ci)と建物の重量(ΣWi)の積で求められる。
 重量は、理解できると思うが、層せん断力係数(Ci)というのが曲者じゃな。式の内容を一つ一つ解説しよう。

■地震地域係数(Z)
 地域毎に想定される地震の大きさによって定められている低減率で、例えば東京・神奈川は1.0。地震の多い静岡県などでは、独自に1.2と定めているケースもある。

■振動特性係数(Rt)
 地盤の硬さと建物の固有周期(高さと構造形式等で決まる)に応じて定められている低減係数である。地盤は、硬質・普通・軟弱の3種類に分けられていて、同じ固有周期の建物ならば、柔らかい地盤ほど揺れが大きくなる(係数が大きくなる)。

■地震層せん断分布係数(Ai)
 通称Ai(エーアイ)分布と呼ばれていて、建物の高さ方向の地震力の違いを求める係数で、高い階ほど地震力が大きくなるので、係数も大きくなる。

標準せん断力係数(Co)
 前述した通り、地震の最大加速度(a)の重力加速度(g)に対する比で、建築基準法(施行令)で、0.2と定められている。これは、中地震(頻繁に起こる地震)に対して、建物に損傷が起こらないレベルなのじゃ。
 具体的に数値を入れてみると、
Z=1.0(東京)Rt=1.0(13m以下の木造)Ai=1.0(最下層の場合)Co=0.2となり、木造の場合、[Z×Rt×Ai]は、1.0に近くなり、地震力(Q)は、

Qi=0.2 ×Σ W

 すなわち、その階より上階の層重量の2割の地震力が作用するということになるのじゃ。地震の多い地域や、地盤の硬さ、構造樹別等々で、数値は変わってくるので、構造計算書をよくみて、確認することだ。
 どうかな。一見、難しそうな数式も、紐解いてみると、意外と簡単じゃろう。


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