【記事10277】「新潟地震」が教えるもの 各界の権威者に聞く 森本良平(東大地震研究所教授) 竹山謙三郎(鹿島建設技術研究所所長) 高山英華(東大教授) 多治見宏(日大教授) 軟弱地帯の規制を 所かまわず埋め立てるのは危険 工場を分散 共同溝など作れ 総合的な防災都市へ すわり込んだ巨象 世界建築史上の珍事 無残な県営アパート ムリな建築やめよう 耐震研究は進んでいるが(毎日新聞1964年6月18日)
 
 

※以下は上記本文中から重要と思われるヶ所を抜粋し、テキスト化したものである

座談会出席者
東大地震研究所教授(地質・岩石) 森本良平氏
鹿島建設技術研究所長(耐震建築) 竹山謙三郎氏
東大教授(都市工学) 高山英華氏
日大教授(耐震建築) 多治見宏氏
本社側 稲野治兵衛社会部長、市川五郎科学部長

ー石油タンクが爆発し、手のつけようがない状態だ。石油コンビナートなど、工場施設は地震には無防備なのか。
竹山 建築についての耐震性はかなり高度の技術までいっているがが、ダクトやタンクの付属している機械施設などは、いままであまり耐震ということを考えていなかったようだ。最新になってようやく耐震研究が始まったところだ。
ー石油コンビナートのつくられている場所の地盤はどうなんだろう。
森本 新潟や川崎はとくに地盤が悪いが、比較的新しくできたところは綿密な地盤調査をして建てられている。
高山 世界的に大きな天災がふえている傾向がみられるが、それは人口が天災の起こりやすい地域に集中したうえ、石油などの危険物を大規模に集積するようになったためだ。社会的、経済的にそうした危険物の集積はますます大きくなり、それとともに災害の規模もますます大きくなるだろう。
ーそれを防ぐ方法は?
森本 避けろといっても、だんだん条件のよい所に集まってくる。そこでどうしても人為的に分散させる対策が必要になる。
竹山 東京のゼロメートル地帯でも千葉、木更津などの京葉地帯は地盤が比較的よい。しかし江戸川の河口から横浜にかけては悪い。そんな所でも浅ければよい、といった考えでどんどん埋め立てが行われ、工業用地などに使われる。たとえば川崎などやわらかい地層が60メートルもあって地盤は非常によくない。
ー所かまわず埋めて、さあ工場用地だというわけですね
竹山 そうです。結局安いから買う。そして、工場を建てるさいの防災については、建築屋か技術者におっかぶせる。まず災害を頭において地盤を考えなさい、といいたい。地盤が地下30メートル以上もある軟弱な地帯では、一定の標準を定めて建設を規制せよというのが私の持論ですが、最近ようやく建設省の指導で考えられるようになった。しかし一般にはまだまだです。東京の夢の島など、地盤が深く50メートルもあるので埋めても使えない。わかっていても政治家には理解してもらえない。
ー最近の地盤の研究はどうなっているのか。
森本 地質学では最近世界的に沖積層の研究が盛んになってきている。しかし、土木、建築関係では昔から地盤調査を重視しない傾向があった。そのうえ地質学者のこの方面での発言力は非常に弱かった。地質学者は地下資源を探すことに力を注ぎ、岩石がどうしてできるかなどの研究は進んでいるが、それが泥になってどういう状態にあるかなどの研究はあまりやらなかった。
竹山 しかし、最近はかなりよくなってきて、土木、建築関係者もその土地の地質関係者と相談するようになっている。
ーこんどの地震では建造物の被害とともにガス管、水道管、電灯線などの被害が多かった。これらの被害を最小限に食い止めるにはどうしたらいいか。
高山 それらをはじめから計画せずに、必要に迫られてつぎつぎと延ばしていったことに問題がある。共同溝にして埋設するのが一番いいのだが、日本では地下に必要なものを埋設してから、その上に家を建てるということをしてこなかった。ツギハギ的なやり方だ。これは日本の都市の最大の弱点で、本当の都市というものは、それらに金をかけ、公園などもつくり、そのうえで家を建て始める。ユーゴ地震を視察した武藤清東大教授(当時)の話によると地上の建物がこわれた割には水道管、電話線など地下埋設物の被害が少なかったという。このため災害後の復旧は非常に速かった。
ー日本の住宅は木造が多く、柱を中心にしたものだったが、近ごろプレハブ住宅など”面”で組み立てたようなものがふえている。構造的に耐震性はどう違ってくるだろうか。
多治見 アラスカ地震を調査にいってみたのだが、コンクリートのプレハブ工場が全部メチャクチャになってつぶれていた。材料のツナギ目が全然弱い印象だった。

総合的な防災都市へ
ー建築基準法には欠陥はないか。
竹山 法そのものは間違ってはいない。建築物が地面の上に建っている以上、地盤ということがもっと重視されていいと思うのだが、建物だけが対象になっている感じだ。
高山 建築にしても都市計画にしても災害について総合的に考えるべきだ。地震だけでなく、台風、津波、集中豪雨など全部一括し、町全体として能率のいい災害対策を考えるべきだ。たとえば東京のゼロメートル地帯に津波を防ぐための外郭堤防をつくったが、豪雨のときにはこれがかえってジャマになって排水で苦労しなくてはならない。排水ポンプが停電で動かなかったら、どういうことになるのか。ゼロメートル地帯のところどころに人口土地を作り避難場所にする方がむしろ実際的ではないか。いろいろの災害を考え合わせ、総合的な防災都市計画を考えることが必要だ。いま八郎潟のゼロメートルの干拓地に農家の人たちの住む町を計画的につくっているが、地質、土質の先生に調査してもらって家は一番安全な地盤に集中して建て、堅い地盤までクイのとどかない所には人が住まないようにするとか、計画的に町の位置などを決める作業をやっている。そういうことがこれからの町づくりには是非必要だ。
ー新潟では道路の地割れで消防車が走れなかったが、割れない道路はできないか
森本 鉄筋でもたくさん入れコンクリートで固めれば別だが。
高山 鉄板を敷いた方が早い。
ー経済的に成り立たないわけですね。
森本 防潮堤にしても、どこかがいったん破れると、ふだんからポンプで水をかい出しているのだからたまらない。東京もこんどの新潟と同じことになるだろう。こんどの教訓といっては被災者に申しわけないが、学ぶことがきわめて多い。
ー東京、大阪などの大都市には、今後20階、30階建の高層建築が出現するだろうが建物は耐震上心配ないだろうか。
多治見 きちんとした耐震設計の上に建てるわけで、とくに心配する必要はないと思う。しかし、地面から下の問題はわからない要素もあり、大地震に伴う地盤沈下や陥没によってどんな被害が生じるかもしれない。だから地面から上の建物については地震があるが、全体として絶対安全とはいえないわけだ。
ーどこでもこんどのような被害になるのか
竹山 倒れぐあいからみて地震そのものの力はそれほど大きくなかったようだ。あそこは地盤が悪く、深い砂の層がある。その砂がゆさぶられたため、その上に乗っていた建物がやられた。
森本 どこでも同じということはない。数千年前からの地誌によって非常にまちまちだ。新潟地震の地盤はやわらかい沖積世の地質が厚く積もっている。これは信濃川から送りもまれる土砂が堆積して地殻をたわませるという”像盆地運動”が原因で、地震に対して非常にもろい。似たようなことが東京湾、大阪湾、伊勢湾などでも起こっている。
ー最新式の昭和大橋が落ちて、古くからあった万代橋は無事だった。オリンピックを目ざして東京でも新しい高速道路があちこちに建設中だが、新しいからといって安心していられるだろうか。
高山 これは土木工学の専門で、くわしいことはわからないが、一般論からいえば、いまの技術なり学問なりをちゃんと使っていれば大丈夫だ。地質の先生にも頼んで調べてもらいちゃんとした技術を使い、施工もあわてないでやっていれば、つまり「普通」にやっていれば、日本の技術なら安心していいと思う。それをちゃんとさせないものがある。大きくいえば政治、経済の問題だがー。
竹山 技術屋の反省としていえば安くつくれということがある。もともと技術的には十分な安全度をとっているが、これを削って安上りにせぜるをえない。ゆとりがなくてギリギリでつくるから地震のようなムリがくるとモロい。それと率直にいえば技術屋自身も目先をかえるため新味を追うあまりムリを生ずることもある。
高山 土木でも建築でもムリをしないで自然にやれば絶対に危険はない。
ー鉄筋4階建てのアパートが横倒れになっている写真があるが、一般の人はあれを見て、近代的な鉄筋建物もあんなにもろいものかと驚いたこと思う。もし新潟地震級のものが東京に起きたら、林立するビル街はどうなるだろうか。
竹山 東京にも地盤の固い所とやわらかい所があるが、高層ビルはだいたい堅いところに立っているので心配はいらないと思う。京橋、日本橋あたりも上層の土はやわらかいが、すぐ下に堅い層がある。問題は隅田川の向こうのゼロメートル地帯だ。堅い層は地表から30-50メートル下にあり、大きいビルならその深さまでクイを打ってたてるだろうが4階建てぐらいのアパートなどは経費の関係からどうしてもやわらかい砂の上にのせることになる。そうなると新潟の二の舞になるわけだ。砂層の下の粘土層にしても安心とはいえない。絶対傾くことはないとはいいきれない。”どんな地震がきても大丈夫”という建物をつくろうと思えばたいへん高くつく。
ー日本の耐震建築はどの程度まで進捗しているのですか。
竹山 地震の経験が多いので世界の水準を抜いている。超高層ビルをつくるようになってからはその方の研究を猛烈にやり、いまでは欧米の技術に追いつき、追い越している。小さな木造住宅などでは建築基準法で建てても、年が経つにつれて木材が腐ってきて、耐震効果が弱まることがある。家にも自動車のように定期的に検査があればいいとも思う。戦後住宅金融公庫ができ、金を貸すために家をチェックするようになったので、大工さんも耐震ということを勉強し、一般家庭の耐震構造のレベルが上がった。
多治見 耐震建築の会をやるとたくさんの人が聞きにくる。日本ほど耐震についての研究者が多いところは世界にないだろう。

すわりこんだ巨像?
世界建築史上の珍事
無残な県営アパート

【新潟】新潟市川岸町3丁目の県営住宅では、4階建の鉄筋コンクリート住宅一むねが”砂の上に置いたマッチ箱のように”真横に倒れたが、17日同所を訪れた久田俊彦建設省建築研究所第3研究部長は「世界の建築史上でも珍しい」と驚いていた。地震のあった16日は、アパートの人たちはほとんどが外出中で、けが人はなかったが、4階の部屋にいた新潟大学教授夫人、佐藤静子(46)の表現を借りると「この”歴史的な瞬間”は巨象がゆっくりとすわりこむような感じだった」そうだ。
「地震と同時に屋上にかけ上がりました。すると地面がこちらに向かって盛り上がってくるような感じでアパートがゆっくり倒れました。テレビのアンテナにしがみついていましたが、なんだか映画をみているようでした。倒れるまで5分くらいかかったでしょうか。アパートがこんなになってしまったのだから、新潟市は全滅したと思いました」と同婦人は恐怖を語っていた。
新潟県当局は傾いた7むねとともに8むね全部をとりこわす方針で、地震以来住むことを禁止している。このため300世帯800人は明訓高校体育館に避難している。
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