戻る <<前 【記事43822】東洋ゴム、「免震データ改ざん」の深刻度_2007年の不正の教訓は生かされなかった(東洋経済オンライン2015年3月18日) 次>> 戻る
KEY_WORD:_
 
参照元
東洋ゴム、「免震データ改ざん」の深刻度_2007年の不正の教訓は生かされなかった

 「(皆さまとの信頼を)自ら崩壊させるような事態に直面し、痛恨の思いを抱いております」――。

 3月13日。大阪市で開かれた、東洋ゴム工業の記者会見。山本卓司社長は苦渋の表情で語った。だが、過去の教訓は、生かされていなかった。
 東洋ゴムの子会社、東洋ゴム化工品が2004年7月から2015年2月に製造・出荷した免震ゴム(高減衰ゴム)について、計55棟・2052基が、国土交通省の認定する性能評価基準を満たしていない”不適合な製品”だったことが判明した。取得した大臣認定のうち3製品は、技術的根拠がないのに認定を取得するため、”データを改ざん”した書類を国交省に提出していたという悪質さだ。後者については、自主的に認定の取り下げを申請し、国交省から取り消された。
 免震ゴムは建築物の基礎部分として使われ、地震の揺れを吸収するために使われる。該当する東洋ゴム化工品製の免震ゴムを採用した建築物は、建築基準法第37条に違反した「違法建築物」の扱いになる。本来なら基準値に対して10%の誤差しか許されないが、今回不適合となった中には、最大で50%も異なる製品があった。

一人の担当者に10年も任せ切り

 波紋は大きかった。東洋ゴムは当初、子会社製の免震ゴムが採用された建物について、「所有者の承認がない」ことを理由に、個別名を一切明かしていなかった。が、マスメディアによる報道が先行、長野市第一庁舎や舞鶴医療センター(京都府)などで、実際に使われていることが明らかになった。
 消防庁舎に不適合品18基が設置された静岡県御前崎市によると、会見のあった13日夜に初めて知り、自主的に東洋ゴムに連絡したという。16日には東洋ゴム側の関係者が来たが、「具体的な対策を示してほしかったが、あまり内容のあるものではなかった」(御前崎市)。
 業を煮やしたのか、3月17日には国交省が55棟のうち、「公共性が高い」と判断した15棟について、名称と所在地を公表した。
 なぜこうした不正が起こったのか。浮き彫りになってくるのは、組織としての品質管理体制のずさんさだ。免震ゴムの評価については、10年間以上もたった1人の担当者(製品開発部課長)が担っていたとする。会社側は、専門性の高い仕事のため、担当できる人間が1人しかいなかったと説明。担当者の上司は複数交代したが、内容が専門的で、「この製品を知っている上司ではなく、担当者が恣意的に改ざんしても、非常にわかりづらい体制だった」(山本社長)。
 しかも、この問題が発覚したのは、その担当者が交代した2014年2月。新担当者が業務を引き継ぎ、「何かがおかしい」と感じ取った。が、それから2015年2月まで、丸1年間も不適合な製品が納入されていたのだ。これに対して会社側は「過去のデータを追跡したりして、何が問題かを突きとめるのに、1年かかった」と弁明している。
 東洋ゴムだけではなく、認定した行政などの責任も重い。
 免震ゴムのように建築物に使われる部材は、国交省の大臣認定を受ける必要がある。メーカーが認定を受けるには、国交省の決めた指定性能評価機関による、性能評価書を発行してもらわなければならない。今回で言えば、日本免震構造協会である。評価した評価機関、認定した国交省も、無罪放免とは言えまい。
 日本免震構造協会の幹部は「基本的には技術者の倫理観があるという前提。書類全体でうまく整合性をとり、偽装されると、見抜くのは難しい」と打ち明ける。また国交省の住宅局建築指導課は「うちはきちんとやっている。ただ免震ゴムに関しては、サンプル調査までしたことはない」と説明する。

安全性に懸念ある場合のみ、交換する

 今回の場合、大臣認定を受けた後でも、製品出荷前の検査の段階で、本来であれば不適合で基準値から外れていたバラつきの値をデータ上で修正し、出荷にこぎ着けたという。認定取得のための意図的なデータ改ざんについても、「推定だが、担当者は、予定通り出荷することを優先させたのではないか」(山本社長)と、納期の遅れを恐れたことからくる行動だった可能性が高い。

耐震・免震構造に詳しい、北村春幸・東京理科大教授は次のように指摘する。

 「免震ゴムは加硫部分(圧力・温度・時間)のコントロールが非常に難しい。どうしても製造でバラつきは出てしまうようだ。問題なのは、不良品を出荷しないという品質管理を、メーカーが怠っていたこと」
 現状で東洋ゴムとしては「対象物件の損害、事故が発生したという事実は、把握していない」という。今後の対応については、安全性を確認すべく、建設会社や設計会社に構造計算を依頼。確認できれば認定を取り直す。そして「万が一」、安全性に懸念が生じた場合、「他社製代替品も含め、交換などの対応を可及的速やかに進める」としている。
ちなみに免震ゴムは、小さいものでも1基100万円以上。ジャッキアップして取り替えるため、建物自体を取り壊す必要はないが、それでも数トンの重さがあるため、相応の時間と費用、労力がかかる。

2007年にも耐火性能を”偽装”

 振り返ると、東洋ゴムは2007年、学校などで使う断熱パネルでも、耐火性能を”偽装”し、大臣認定を不正取得。基準よりも総発熱量が約3倍だったことが発覚した。この時には当時の片岡善雄社長が辞任する事態にまで発展している。
 今回、経営責任について山本社長は、「今はすべての物件に対してお詫びし、ご説明することを最優先に進めていくことが責任」と、述べるにとどめた。自身や担当者の社内処分についても公表していない。
 一方、国交省は3月17日午後、東洋ゴム化工品の明石工場(兵庫県)に立ち入り調査。会社から任意での残存データ提供を受けている。太田昭宏国交相は「日本の免震技術に対する信頼を失わせるもので許しがたい」と厳しく非難した。
 東日本大震災以降、建築物の安全・安心について、消費者の見る目は格段に厳しくなった。当然ながら、現在居住し利用している被害者に与える、心理的影響も大きい。東洋ゴムはいったいどんな形で責任を取るのか。信用回復への道は、とてつもなく険しい。

戻る <<前 【記事43822】東洋ゴム、「免震データ改ざん」の深刻度_2007年の不正の教訓は生かされなかった(東洋経済オンライン2015年3月18日) 次>> 戻る