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【即時停止の衝撃(中)】 巨大な暗雲が覆いかぶさってきたようだ…プレッシャー高まる関電の焦燥

10日午前、福井県高浜町の関西電力高浜原子力発電所の事務所フロア。3、4号機の運転を差し止める大津地裁の仮処分決定を受け、関電の豊松秀己副社長が集まった約200人の所員の前に立った。「みなで励まし合いながら、この難局を乗り切っていきたい」

 所員はそれぞれの持ち場につき、3号機の停止操作に入った。中央制御室では、発電量や原子炉の状況を確認しながら、手順を声に出し機器類を操作。「起動と同じくらい緊張する」作業だという。

 午後5時過ぎ、送電網と発電機が切り離され、大阪市内の中央給電指令所に据えられた発送電量の表示メーターは「0」になった。「起動して40日余りで停止するなんて…」。関電社員の表情に徒労感がにじんだ。

 午後7時59分、原子炉が停止。関電関係者は「巨大な暗雲が頭上に覆いかぶさってきたようだ」と話した。

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 仮処分決定の前、原子力関係者の信頼性を損なう出来事が相次いでいた。

 東京電力は2月、福島第1原発事故の2カ月後に認めた炉心溶融(メルトダウン)について、当時のマニュアルに基づけば3日後に判断できていたと発表。関電も2月、高浜4号機で放射性物質を含む1次冷却水漏れを起こし、再稼働後には発送電作業中のトラブルで原子炉が緊急停止した。

 関電関係者は「裁判長の原発の安全性に対する疑念を増幅させてしまったのではないか」とみる。

 大津地裁は仮処分決定で、安全性に関する関電の説明が不十分だったとの不満を示し、「関電の判断に不合理な点があることが事実上推認される」と断じた。

 10日の東京株式市場で関電株は売り込まれ、終値は前日比181円安の1047円。一時は205円安の1023円をつけ、昨年来安値を更新した。

 ベテラン証券アナリストは「今後の展望が描きにくくなり、反転も見通せない」と話す。

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 東日本大震災前、関電の原発依存度は約5割と、全国平均の約3割を上回っていた。原発の代役を担わせた火力発電所の燃料費負担は相対的に重く、昨年春には家庭向けで平均8・36%、企業向けで同11・5%と、震災後2度目となる値上げを実施し、料金は全国で最高水準となった。

 高浜の2基が稼働すれば月100億円程度の収支改善効果が見込めることから、八木誠社長は「5月1日に値下げする」と宣言。4月からの電力小売りの全面自由化を控え、割安な料金をアピールする新電力への顧客流出に歯止めがかかるはずだった。

 しかし、2基の停止で値下げは極めて困難な情勢となった。関西エリアでは、2月下旬までで累計7万3千件の利用者が新電力への切り替えを決めているが、「様子見をしていた利用者も今後、一気に動く可能性がある」と新電力関係者は指摘する。

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 「原子力は欠かすことができない」「世界で最も厳しいレベルの基準に適合とすると(原子力規制委員会が)判断した原発のみ、地元理解を得ながら再稼働を進める」

 安倍晋三首相は10日夕の記者会見で、原子力政策について従来の方針は揺るがないと強調した。政府は、2030(平成42)年時点の電源構成比率について、原発を20〜22%とすることを決めている。達成するには現存する原発のほとんどを稼働しなければならない。

 安倍首相はこうも言う。「関電には、さらに安全性に関する説明を尽くしていくことを期待したい。政府としてもそのように指導していく」。関電へのプレッシャーは高まりそうだ。

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