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川内原発・免震重要棟なしの運転は危険 再度、福島第一原発事故の教訓をかみしめよ 山崎久隆(たんぽぽ舎)


 2016年末に行われたパブコメ。「川内原発の原子炉設置変更許可変更申請に関する」パブコメが12月30日締め切りで行われた。以下に、私が送信した意見を掲載する。

 大きな論点は「免震重要棟」建設を取りやめ、耐震構造の緊急時対策所を設置するというものである。
 建物を地震に耐える構造にするのに、耐震、制震、免震がある。そのうち免震は、福島第一原発事故の際に700名あまりの職員や作業員を守った、
震災のわずか8ヶ月前に完成した免震重要棟で一躍脚光を浴びることになった。
 前新潟県知事、泉田裕彦氏の強い申し入れがなかったら作られていなかったこの施設。地震と、その後に放出された大量の放射性物質を押して収束作業が出来たのは奇跡といって良い。
 川内原発は、当初免震設備を有する緊急時対策所を整備するとしていた。ところがこれを取りやめ、190億円掛けて耐震で建屋を作るとしている。
 これが今回のパブコメの主要な論点である。
 耐震は建屋や設備を基準地震動の揺れに耐えられるよう「強固に」作ることだが、免震や制振は揺れそのものを特殊な機構で小さくする。
 東電が作った柏崎刈羽原発や福島第一の免震棟は地震の揺れを3分の1から4分の1に低減するとされた。
 実際に福島第一原発事故では、事務棟は耐震で作られていたが、内部は天井が落ち、備品が散乱し、惨憺たるものだった。しかし免震重要棟はほとんど被害はなかった。
 事故収束作業継続が可能だったのは、免震重要棟があったからと言うのは共通認識だったはずだが、ここにきて電力各社は免震棟を回避し始めている。(既に建てていた四国電力は除く)
 九州電力の無謀な行動は、各電力にも広がり続けている。
その責任は重い。
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1 設計基準対象施設並びに重大事故等対処施設及び重大事故等対処に  係る技術的能力(5頁)

 この施設は、前提として、「重大事故等対処施設の地盤」(9頁)「地震による損傷の防止」(12頁)などでは設置されている建屋が地震の影響を最小化できる性能を有していなければならないが、残念ながら基準地震動の設定や地震動の評価が過小なため、記述の通り信頼性を確保できる保障が無い。
 基準地震動については「川内原子力発電所の発電用原子炉設置変更許可申請書」(2015年12月27日)で記述の通り、620ガルを想定している。
 しかしながら熊本地震において生じた揺れの大きさは、それを遙かに超える。地上に比べ地下の揺れは小さいとの主張があるようだが、地上の地震は地質の影響を受け、今回の施設は地上にある施設である。地震の影響を考えるならば地上の地震動を評価対象とするべきだ。益城町の強震計で観測された地震動を評価対象とすべきである。
 なお、九州電力が日奈久断層で想定している地震は敷地から離れており、実際にマグニチュード8.1の地震が発生しても揺れの大きさは100ガル程度としている規制委員会の見解(2016年4月28日付け)は何を意味しているのか分からない。
 そもそも地震が何処で発生するかを「想定できない」場合に使う「震源を特定せず策定する地震動」で620ガルとしているのに、特定されている日奈久断層系の地震をもってきて「揺れは小さい」とは、筋違いも甚だしい。
 加えて基準地震動の揺れは水平620ガルに対し鉛直はわずか324ガルと、2分の1程度としている。
 ところが地震調査研究推進本部の「平成28年(2016年)熊本地震の評価」によれば、熊本地震の右横ずれ断層で生じた地震動は、益城町で水平825ガルに対し上下668ガル、宇城市にあっては水平573ガルに対し上下724ガルとなっており、水平と鉛直が同程度ないし超える場合もある。宇城市役所庁舎の破壊状況も、上下の揺れが大きく躯体を破壊したことが見て取れるのである。
 川内原発に影響を与える内陸地殻内地震も右横ずれ断層である確率は高いと思われるが、川内原発は過小評価の地震動評価であり、あらためて耐震性評価を見直すべきである。

2 「受電系統の変更」について(21頁)

 申請者は、川内原子力発電所1号炉及び2号炉の外部電源の信頼性を向上させるため、ルート数及び回線数を増やし、特高開閉所の場所を移転するなど、受電系統を変更するとしている。(以下略)
 外部電源系統を複数路線設置することは当然のことであるが、これら3系統6回線が全て空中架線方式であるならば、「ルート数及び回線数を増やし」たとしても共通要因による電力の供給が全停止することは避けられない。
 23頁の「(3)電線路の物理的分離」に記述された内容では、一見して物理的に分離したことで避けられるかのように見えるが、ここには「火山要因」が記述されていない。脆弱性の回避が出来なかったため、故意に記述しなかったと言われても仕方がないだろう。
 電源設備が火砕流はもとより、火山降下物(火山灰)の影響で地絡し、あるいは断線し、送電不能となることはよく知られたことである。これを回避するには地中ケーブル等、影響を回避する抜本的対策を取るほかはない。そのような対策を取っていない本件は、信頼性が向上したとは言えない。

3 緊急時対策書は免震構造で作る必要がある(24頁)

 「緊急時対策所の変更」は認められない。
 福島第一原発事故の教訓の一つは、緊急事態に際して、安全に対処活動が出来る拠点を整備することである。当時の東電清水社長が「今回の私どもの一つの教訓だと思いますが、免震重要棟、発電所の緊急対策室、…、あれがなかったらと思いますと、ゾッとする…」と国会で証言している事実は重い。
 免震技術は確かに信頼性において問題を抱えていることは事実だが、それは想定地震動が小さすぎた場合、免震装置の破壊や揺れに伴い側壁への衝突が懸念されるからだ。これらは技術開発で起こりえる想定と現実の乖離の問題として考えられるから、想定を大きくし、躯体を十分側壁から話すなどで解決は可能であり、事業者もそれを認めている。したがって、「新たな免震装置の設置には長期間を要する」などを理由として認めるべきではない。
 緊急事態への対処は、電力会社職員だけが当たるわけではない。とりわけ原子炉を冷却するために必要な補機冷却系統や防災に重要な自衛消防組織は多くが下請け企業により動かされており、稼働中の原発では下請けの従業員が多数勤務している。これら大人数の人々を安全に防護できる設備が現在の原発には存在しない。緊急時対策要員の人数に大きな疑義がある。
 緊急時対策所は原発が運転を開始した段階で必須の施設であるべきなので、いまさら出来ないのであれば運転認可を差し止めるべきである。

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