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「想定外に備え、川内原発は一時稼働停止を」 30キロ圏住民調査を行った広瀬弘忠氏に聞く


「原発事故が起きると安全に避難できない」。川内原発周辺の多くの住民がそう考えていることが、広瀬弘忠氏が代表取締役を務める「安全・安心研究センター」によるアンケート調査で判明している。余震が続くなど、「赤信号が点滅している状態だけに川内原発はすみやかに一時稼働停止を」と訴える。

――熊本地震では、九州電力・川内原子力発電所(鹿児島県薩摩川内市)をはじめとした西日本各地の原発の安全性が懸念されています。

九電は万一の場合を想定して、いったん川内原発の稼働を停止すべきだ。

 4月14日午後9時26分に熊本県内を震源域とするマグニチュード6.5、震度7の地震が起き、その28時間後の16日午前1時25分にはさらに大きいマグニチュード7.3、震度7が発生している。さらに19日午後5時52分には川内原発により近い八代市内を震源域にマグニチュード5.5、震度5強を観測している。その後も頻繁に余震が続いている。八代市から川内原発まで約80キロメートル。震源域がさらに近づけば危険性が増してくる。

――原子力規制委員会によれば、最初の地震で観測された川内原発での地震加速度の最大値は8.6ガル。これは原子炉自動停止の設定値である水平加速度160ガル、鉛直加速度80ガルをともに大幅に下回っているとのことです。こうしたことから規制委の田中俊一委員長は「安全上の問題はない」としています。

 大規模な地震が相次いでいることから、現在は赤信号が点滅している状態だ。火山の噴火が差し迫っていることが察知できた場合にはいち早く原子炉を止め、使用済み燃料をプールから取り出して安全な場所に移送する手はずになっている。それができるとは思えないが、似た状況が地震によって起きる可能性があるのだから、あえて止めない判断をする理由はない。
 今回、気象庁は最初の地震をいったん本震とみなしたものの、後にさらに大きな地震が発生したことからもわかるように、想定外はいつでも起こりうる。ステレオタイプな発想をしていると、想定外の事象に巻き込まれてしまう危険性がある。シナリオが外れた場合のリスクを考えたうえであらかじめ危険を取り除くべきだ。

――東日本大震災が2011年3月に起き、2011年5月に中部電力は当時の菅直人首相の要請を受け入れる形で浜岡原 発の稼働を停止しました。その際、住民や株主などさまざまなステークホルダーの利益に配慮したうえで判断したといいます。

今回、株主の利益に照らすと二つの考え方があるだろう。

 一つは事故が起きた時の影響の大きさを考えて止めるという考え方だ。東京電力・福島第一原発事故をきっかけに東電が事実上経営破綻して国有化されたように、原発事故による被害は計り知れない。
 もう一つは運転を一時的に停止した場合にどれだけの損失を被るかということだ。期間にもよるが、許容範囲ではないか。少なくとも電力不足に陥ることはないだろう。万一を考えて止めておくという判断は九電の社会的評価の向上にもつながると思う。

避難シミュレーションは机上の空論

――広瀬さんが代表取締役を務める「安全・安心研究センター」は、川内原発の再稼働を前にした2014年11月21日から12月14日に、原発が立地する薩摩川内市およびいちき串木野市など原発から30キロ圏内の5市町村で暮らす360人を対象にアンケート調査を実施しました(アンケート調査結果は岩波書店『科学15年3月号』に掲載)。それによれば、「おそらく安全に避難できない」と「安全に避難できない」を合わせた住民が、薩摩川内市で69.5%、それ以外の30キロ圏で61.7%にのぼっています。「安全に避難できる」と「おそらく安全に避難できる」の合計はそれぞれ30.0%、38.4%にとどまりました。

 逃げられないと思っている人が実際に多いことがわかった。鹿児島県は川内原発で重大事故が発生した際の避難計画を策定しているが、そのシミュレーション結果には現実味がない。
 重大事故が起きた場合に避難指示が出されてまず5キロ圏内の住民が避難を開始し、その9割が30キロメートル圏外に避難できたことを確認してから、5〜30キロ圏の住民が避難し始めるという「2段階避難」をシミュレーションの前提としている。
 30キロ圏内の住民のうち9割が避難を終えるまでに「国道270号線が通行できない場合」で22時間30分、「南九州西回り自動車道が通行できない場合」で28時間45分と試算されているが、20万人近い住民の避難がこの程度の時間で済むはずがない。
 まず第一に、2段階避難という想定が非現実的だ。多くの人は避難指示が出ていなくても、原子力災害対策特別措置法に基づく通報などで原発に異常事態が起きていると認識すれば、われ先にと避難を始めるだろう。そうすると渋滞が起こり、避難に必要な時間はさらに長くなる可能性がある。
 また、鹿児島県のシミュレーションでは、南九州自動車道が通行止めになった場合でも、代替避難経路としての国道3号線や270号線、県道42号線などにより避難できると想定されている。しかしそれらの道路が通行可能である保証はない。その意味でも「最悪シナリオ」は想定されていない。

伊方原発の事故でも避難困難

――緊急時には自動車での避難が前提とされています。支援が必要な高齢者や障害者については、バスによる避難が計画されています。

 バスによる避難が現実的に機能するのか疑問がある。高齢者はバスが来る場所までたどり着かなければならない。崖崩れで道が通れなかったり、放射線量が上昇しているときに被ばく覚悟でバスを運行できるのか。自然災害が原発事故と連動すると、避難もできずに孤立無援状態に陥る。
 前出の私どものアンケート結果を見ても、住民がそう認識していることがわかる。避難計画を作っても、いざというときには機能しないのが原発災害を伴う複合災害だ。

――四国電力の伊方原子力発電所(愛媛県伊方町)はどうでしょうか。伊方原発は佐田岬半島の付け根にあります。原発から西側は「予防避難エリア」とされ、そこに住む約4900人の住民は海路による避難が想定されています。

 私も佐田岬半島の先端部にある三崎港から対岸の大分県にフェリーで渡ったことがあるが、九州と四国を結ぶ豊予海峡は流れが速い。津波警報が出ていると避難自体が無理だ。港にたどり着くのも容易ではない。伊方町役場は原発から非常に近い距離にあるため、住民の避難誘導は困難だ。

――要するに、原発事故は起きてしまうと対応不能になるということですね。

 その通りだ。だからこそ赤信号が点滅している状態では、電力会社は想定外の事象を防ぐためにいったん立ち止まるべきだ。それが原発の一時稼働停止だ。もう一度重大事故が起きたら日本の原子力発電はおしまいになる。目先の利益にとらわれずに判断すべきだ。

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