[2020_04_04_02]「できるだけ住民を逃がさない」方針への転換− 原発政策の大問題 上岡直見著「原発避難はできるか」本の紹介 柳田真(たんぽぽ舎)(たんぽぽ舎2020年4月4日)
 
参照元
「できるだけ住民を逃がさない」方針への転換− 原発政策の大問題 上岡直見著「原発避難はできるか」本の紹介 柳田真(たんぽぽ舎)

◎本書は、2020年3月刊で218頁、5章から成り立っている
 第1章 再稼働と「新安全神話」
 第2章 避難と被ばく
 第3章 避難政策の転換と問題
 第4章 避難の困難性
 第5章 避難したあとどうなるのか

 以下に紹介する文は、第3章「避難政策の転換と問題」の冒頭で述べられている文だ。(本書82から83頁)
 原発事故のとき、「できるだけ住民を逃がさない」方針へ国が転換したことをズバリの題で書いているので一瞬、ビックリするが中味を読むとそのイミがわかる。

◎以下本文の紹介

 前章で述べたように「30km」は安全とは結びついていないが、制定以来本書執筆時点まで14回の改訂が行われた過程で「指針」の方針が大きく変質している。

1.制定時には、各原発について、福島原発事故に相当する放射性物質の放出(各原発の出力に比例した放出量)が起こりうるとの前提で試算していたが、2014年5月の改訂では、PAZ(5km圏)の事前避難(放射性物質の放出前)は従来どおりであるが、UPZ(5から30km圏)については「リスクに応じた合理的な準備や対応を行うため」として屋内退避を原則とする方向に転換された。
 その資料として屋内退避を妥当とする試算が提出されているが、前述のようにその試算にあたり放射性物質の放出量を福島原発事故の100分の1とするなど桁違いに低く変更した前提に基づいている。
 これは何ら実証的な確認はされておらず「それに収まるように新規制基準を決めたからそれを前提とする」とした机上の前提に過ぎない。

2.さらに2017年7月5日の「指針」第八回改訂では、原子力緊急事態の第一段階である「警戒事態の要件の一つである地震と津波に関する基準」が緩和された。
 改訂以前は、原発が立地する都道府県において震度6弱以上の地震の発生や大津警報の発表(予報区)が対象であったが、その範囲が市町村に縮小された。
 たとえば強い地震が発生した場合でも、原発が立地する市町村で震度6弱未満であれば、その近隣の市町村でより大きな震度が観測されていても警戒事態には該当しないことになった。
 茨城県についてみれば、1923年以降、ほぼすべての市町村で震度6弱以上の地震の記録があるが、たまたま東海村で震度6未満であれば警戒事態には該当しないということである。これも「できるだけ住民を逃がさない」ための変更とみられる。

3.こうした変遷の真の背景は公開されていないが、まず2012年に30kmの数字を決めた後に、各原発について避難時間シュミレーションの結果が順次提示されたところで、30km圏の住民の迅速な避難は不可能という結果が露呈したため、UPZは屋内退避を原則とせざるをえなくなったものと推定される。

4.加えて、いずれにしてもこの手順による避難は国の判断に基づいて自治体の指示による避難となるが、避難期間の長短はいずれにせよ補償の対象となる。
 その対象をできるだけ少なく限定する思惑が背景にあるものと考えられる。なお前提条件の変遷を巻末付属資料2に、「指針」の変遷や関連事項を同資料3に示す。

出典:『原発避難はできるか』
   「できるだけ住民を逃がさない」避難計画とは?
   住民視点で検証する!     上岡直見著
         緑風出版 A5判 218頁 定価2000円+税
・たんぽぽ舎でも扱います。1冊の送料170円
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