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東電と官僚が画策する「廃炉費用20兆円国民負担計画」の真相 もういい加減にしませんか?_町田 徹

現代ビジネス 11/29(火) 11:01配信

伝言ゲームで2時間もかかる

 またしても、東京電力の「原子力事業者」としての資質に疑問を抱かせる“事件”が起きた。
 先週火曜日(11月22日)の早朝、福島県沖を震源とするマグニチュード7.4の地震が発生し、沿岸に高さ1m前後の津波が押し寄せつつある最中のこと。福島第二原発3号機の使用済み核燃料貯蔵プールで冷却ポンプが停止したにもかかわらず、避難の周知に必要な報道機関への連絡に東電がほぼ2時間を要したのだ。
 冷却機能の喪失が響いて、人類史上最悪の原子力事故となった福島第一原発の大事故から5年以上が過ぎた今年6月。事故当時の清水正孝社長の指示で、メルトダウン(炉心溶融)を炉心損傷と矮小化する「メルトダウン隠し」の事実を認めて、各方面に行った謝罪は何だったのか。
 相変わらず迅速な情報開示が行われず、安全に無頓着な企業文化を露呈した。
 そんな企業文化にもかかわらず、東電をめぐって2つの乱暴なプランが動いている。

 第1は、東電自身が、福島第一原発事故の後始末の資金確保のためだという“大義名分”を掲げて、柏崎刈羽原発の再稼働を押し通そうとしていることだ。世界に例のない、巨大な原子炉を7つも持つこの原発の運転に従事する「資質」を、東電が身に付けたとはとても思えない。

 第2は、政府・経済産業省が福島第一原発の核燃料デブリの取り出しで廃炉費用が膨らむことなどを理由に、国民負担の拡大を前提にした新たな東電支援策を作ろうとしている問題だ。総支援額を現在のほぼ2倍の20兆円前後に増やして、追加分は電気料金(託送料金)に上乗せ、幅広く国民から徴収する案が有力という。

 まず、冷却ポンプ停止問題を整理しよう。福島県沖を震源とするマグニチュード7.4の地震が発生したのは、11月22日午前5時59分のことだ。報道によると、福島第二原発3号機の使用済み核燃料貯蔵プールは水温が29.3度に保たれ、2544体の燃料が保管されていた。
 そして、津波到達の20分前に当たる6時10分ごろ、燃料ポンプが突然自動停止した。地震の揺れに伴い、水位が瞬間的に低下してセンサーが反応したとみられている。
 筆者の取材に対して、東電の広報は、「報道機関向けに配信している一斉メールの発信が8時8分、ホームページに『地震情報』を掲載したのが8時15分で、2時間前後を要した」と公表に手間取った事実を認めた。
 実は、報道機関向け一斉メールの発信の21分前の7時47分に、日本経済新聞がインターネットで「菅義偉官房長官が記者会見し、福島第二原発3号機において、使用済燃料プール冷却装置が停止していることを明らかにした」と報じている。
 この情報は、原子力規制庁を経由して官邸に伝えられたものとみられるが、政府高官が記者会見をして、それを聞いた記者が記事を書くにはそれなりの時間が必要だったはずだ。
 そんな中、記事には長官のコメントとして「状況を確認中だ。ただちに放射能漏れや燃料の温度が上がるものではないと報告を受けている」と必要なポイントが盛り込まれている。筆者は見ていないが、NHKもこの官房長官会見を中継したと聞く。
 一方、河北新報によると、東電は、自治体へのファックス連絡をポンプ停止の55分後(7時5分過ぎ)に行っている。

あまりに遅すぎる情報開示

 こう見てくると、規制庁や地方自治体への連絡に比べて、東電の報道機関向けの情報開示の遅さは歴然としている。
 その点について、前述の広報担当者は、「地震や津波で(福島の)現場に混乱があったことが原因だ」「専門用語を報道機関向けの言葉に変えるなど、広報サイドの対応にも時間がかかった」と釈明する。
 幸い、今回のケースは冷却水や放射能が漏れ出すような事故には至らなかった。しかし、原子炉や使用済み格燃料貯蔵プールの冷却機能の停止は、大規模な原子力事故のリスクと隣り合わせだ。国民に異変を知らせる役割を担う報道機関への連絡の遅れは、周辺住民の避難の遅れを招きかねない。
 今回、東電が迅速な情報開示をできなかったことは、福島第一原発事故のように深刻で猶予のならない事態が起きた時、適切な対応ができるか疑問を生じさせる。
 体質の改善が一向に見られないまま、東電が再び原発を動かすことは許されない。
 この問題は、原子力規制庁が原子炉や周辺設備の耐震基準を強化して、東電がその審査に適合したとしても、絶対に解決しないものだ。企業風土やそこで働く社員の意識の問題だからである。
 それにもかかわらず、原子力規制庁が東電を特別扱いして、早期の柏崎刈羽原発の再稼働にお墨付きを与えようとしている問題は、8月13日付の本コラム『「東電」という名の“ゾンビ”はどこまで国民の懐をむさぼり続けるのか』に書いたので、そちらを参照してほしい(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49571)。

20兆円、どこから用意するんですか?

 ここで論じたいのは、10月25日付の本コラム『もう東電を切り捨てるしかない!? 新潟県知事選「想定外の大差」の意味』(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50049)で触れた経済産業省の「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」(貫徹委員会)と、「東京電力改革・1F問題委員会」(東電委員会)のその後の動きだ。
 2つの会議の中で最も気掛かりなのは、年間800億円程度(2013年から2015年までの3年間の平均)だった福島第一原発の廃炉費用が、「デブリ(溶解した核燃料が原子炉の構造物と混ざって凝固した燃料)取り出し作業により増加し、年数千億円規模の資金確保が必要になる可能性がある」としていることだ。
 同じく年間1200億円程度だった賠償費用も増大する可能性があるという。
 政府・経済産業省はこれまで、福島第一原発事故の後始末に必要な費用を総額11兆円(内訳は賠償5.4兆円、除染、中間貯蔵3.6兆円、廃炉2兆円)と見積もり、2012年7月の国有化の際の公的資金注入(注入額1兆円)や、その他の東電への資金支援(支援額9兆円。内訳は原子力事業者の負担5.4兆円、将来の政府保有東電株の売却益2.5兆円、電源立地対策税1.1兆円)で資金繰りを支えてきた。
 経済産業省は、今後必要になる費用を年内に固めるとして明らかにしていないが、新聞が先取り。今回の見直しの結果、11月18日付の朝日新聞は「追加で8.3兆円」が必要になり総額19.3兆円に、同27日付の日経は「総額20兆円超に上振れ」すると報じている。2011年段階の試算(総額6兆円)と比べると、実に3倍以上に膨らむ計算だ。
 厳しい合理化や東電グループの解体、法的な破綻処理を強いられることを恐れているのだろう。当の東電は、合理化などの経営努力で必要な資金を捻出したい考えだ。自民党は、廃炉費用を損金扱いにする税制支援で東電を支える方向という。
 だが、経済産業省はそうした施策では不十分だとして、他社を巻き込んだ事業再編によって収益力を高めるよう求めている。火力発電部門の統合や、送配電会社のアライアンス構築などがその柱だ。
 さらに、中部電力と合弁で設立した化石燃料などの輸入会社JERA(ジェラ)にも東電支援を迫っているという。
 そうした努力が実現しても、資金の大幅な不足は確実とされる。そこで、東電管内か否かで差は付けるものの、電力の託送料金に廃炉費用などを上乗せして、幅広く国民に負担を求めるという。

詭弁に次ぐ詭弁

 しかし、経済産業省のこうした方針には、首を傾げたくなる。
 そもそも、試算の根拠が薄弱なのだ。これは福島第一原発事故が起きた2011年からずっと続いている問題である。
 深刻な実態を明かすことは世論の原発への不信を煽る結果になりかねないとみて、過少見積りを公表してお茶を濁してきたのではないかと疑う関係者も少なくない。
 今回もまだ過少見積りで、託送料金に上乗せする仕組みができた途端、上乗せ額を増やす腹積もりではないかと懸念する向きもいる。
 さらに言えば、巨額の国民負担に繋がる話なのに資金の流れの透明性の確保の重要性の議論や、またしても国策支援を乞うことになった経営陣や監督官庁、株主、貸し手などの責任論に関する議論がそろって抜け落ちていることも、新たな負担を強いられる国民として理解に苦しむところだ。
 振り返れば、あの福島第一原発の事故以来、エネルギー政策は大きな間違いを繰り返してきた。最初は、東電存続を約して、大手金融機関に2011年3月末の期越え資金を融通させたことだ。
 巨額の賠償責任を背負い込み、実質的に債務超過に陥ったとみられていた東電を国策支援で生き永らえさせてきた論理も支離滅裂だ。
 刑法の世界でさえ無期懲役刑の受刑者は死亡した時点でそれ以降の刑の執行を免れるのに、東電には「原子力損害賠償法上の無限責任があり、同社が破綻して免責されると賠償主体が無くなってしまい、賠償ができなくなる」と、賠償主体に代わって責任を果たすべき国の存在と役割を端から否定する詭弁に過ぎないからだ。
 そのうえで、資本主義のルールを逸脱して、ゾンビ企業を潰さないという本末転倒の大失策を重ねてきたのである。
 さらに、長年にわたって煮え湯を飲まされてきた東電の政治力の低下に目を付けて、エネルギー官僚が悲願の電力自由化に舵を切ったことは、後先をまったく考えない権力者の“意趣返し”だった。
 結果として、業界最大の東電が国有国営企業で、公的資金で資本注入ばかりか、巨額の資金融通(債務超過を避けるため「借り入れ」とは呼ばない)を受けている段階で、一般の民間企業と競争を繰り広げる自由化が始まってしまった。とても公正競争の環境が整っているとは言えない。
 しかも、東電には経済産業省の現役官僚が二代にわたって取締役として入り込み、筆頭株主の利益代弁者の立場で権勢をほしいままにしているという。
 いずれ政府保有株を再放出して、その売却益を資金繰り支援に充てるという奇策を打ち出したため、相変わらず原発事業者としての資質の欠如を露呈する東電に、近い将来、柏崎刈羽原発の再稼働を認めるという暴挙を断行しかねない。

官僚の暴走を止められるか

 そろそろ軌道修正をしないと国民のエネルギー行政不信は募るばかりだろう。
 そこで、筆者は世耕弘成経済産業大臣のリーダーシップに期待したい。
 エネルギー行政は、世耕大臣の得意とする電気通信と同じ公益事業が対象だ。NTTの若手エリート広報マンとして、当時の郵政官僚の横暴を何度も目の当たりにして、最前線で闘った経験がある大臣に、今こそ、その経験を活かして東電問題にあたっていただきたい。
 今なお、東電には、連結ベースで2兆2100億円を超す純資産と1兆9000億円強の長期借入金、そして4900億円あまりの短期借入金がある(2016年3月末段階)。法的整理をして株主責任と貸し手責任を明確にすれば、約4兆6000億円の資金を捻出できるはずだ。
 そして柏崎刈羽原発と同型(BWR型)の原発を持つ電力会社(中部、東北、中国、北陸の各電力や日本原子力発電、電源開発)と国で受け皿会社を作るべきだ。
 これらの電力会社から経営陣と管理職を招聘する一方で、破綻処理する東電の原子力部門の社員を再雇用して、柏崎刈羽原発を再稼働することにすれば、体質改善に役立つだけでなく、福島第一原発の事故処理費用の一部を賄うことができる。
 加えて、東電が再稼働するより、格段に地元の理解も得やすいのではないだろうか。官僚の暴走を止めるのは大臣の職責でもある。

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