【記事18126】「原発震災」 新指針の不備、見直し急げ 石橋克彦 神戸大都市安全研究センター教授(朝日新聞2007年7月26日)
 

※以下は上記本文中から重要と思われるヶ所を抜粋し、テキスト化したものである

 新潟県柏崎市付近は地震の危険性が高いことや、原発が地震に弱いことをかねて指摘してきたが、マグニチュード(M)6・8の新潟県中越沖地震と東京電力柏崎刈羽原発のトラブルが、それを実証してしまった。  日本が原子力利用を開始して多数の原発を建設した約40年間は、幸か不幸か列島の地震活動静穏期だったために、原発が地震に襲われることはなかった。この間に、地震を甘くみる体質が政府・業界・学者に染みついたようだ。しかし、95年の阪神・淡路大震災あたりから列島のほぼ全域が地震活動期に入っており、一昨年の宮城県女川、今年3月の石川県志賀、そして今回と、原発の近くで大地震が発生して、地震動(揺れ)が耐震設計の基準を超える事態が続くようになった。今回は、基準の加速度が450ガルだったが、最大680ガルを記録した。
 こういう状況こそが、地震列島で55基もの原発を運転していることの当然の成り行きだと知るべきである。つまり「想定外」の出来事ではないのだ。
 それにしても今回は運が良かった。もし震源域がもう少し南西寄りで、Mが64年新潟地震の7・5ほどで、原子炉が7基とも運転中だったら、私が警告する「原発震災」になっていたかもしれない。それは、通常の震災と放射能災幸とが増幅し合う破局的災害だ。
 地震活動期は今後40年以上続くだろうから、今、原発と地震に関する日本の実情を根本的に改革しなければ、本当に原発震災が起こりかねない。そのリスクが特に大きいのは、静岡県浜岡原発と福井県若狭湾岸の原発群で、首都圏・中京圏・京阪神を滅亡させる脅威をもつ。
 今回、既存原発の耐震設計に使われた古い耐震指針の致命的欠陥が明白になったが、昨年9月に28年ぶりに大改定された新しい指針にも、基準地震動の想定を甘くする重大な不備がある。私は、その点に抗議して、昨年8月の最終局面で指針検討の委員を辞任した。この不備を、今回の事態を踏まえて早急に改めなければいけない。
 東電が海底活断層を過小評価したことが問題になっているが、今後は新指針のもとで万全の調査をおこなうから大丈夫という論調が多い。しかし、完璧な調査で活断層が見付からなくてもM7・3程度までの直下地震が起こる場合があるから、全国どこでも、その程度の揺れを基準地震動の下限にすることが重要である。ところが、新指針による下限は450ガル程度にすぎないのだ。
 最低基準を引き上げたうえで、既存の全原発をそれに照らして精査し、補強が困難なものは閉鎖すべきだろう。 非常に深刻なのは、新指針に不備があるだけではなくて、それを連用する休制がボロボロの乱脈状態にあることだ。活断層の過小評価も、責任は電力会社だけではなくて、それを認めたずさんな審査にこそある。
 昨年9月16日付本欄に書いた島根原発の活断層の見逃しと安全蕃査のミスも、無責任に放置されたままだし、電力側に助言しつつ審査にも参加して活断層過小評価の元になった専門家も、いまだに原子力安全・保安院の委員会で要職にある。
 また、保安院の審議官が耐震指針の再見直しはないと述べていたが、指針は、行政庁から独立・中立の規制機関である原子力安全委員会の所掌事項だ。この越権行為的な発言は、安全委がいかに弱体かを如実に反映している。
 これらは薬害エイズや年金問題などに匹敵する失政といえよう。今回の原発事故とともに国会で徹底的に糾明し、原子力安全行政を抜本的に改革しなければ、日本の未来はない。

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