【記事18240】原発「設計の余裕」とは 想定以上の中越沖地震でも”安全宣言”出たけれど 許容値は限界の「3分の2」 今回の解析、あくまで暫定(朝日新聞2007年9月28日)
 

※以下は上記本文中から重要と思われるヶ所を抜粋し、テキスト化したものである

 新潟県中越沖地震の際に東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)が見舞われた激しい揺れに、国内51の原子力施設は果たして耐えられるのか。東電を含む12事業者は20日、「重大事故には至らない」とする解析特異を公表した。原発1基を除く50施設で設計時に想定した揺れを上回ったが、設計の余裕分によって最低限の安全機能は保たれるという。「設計の余裕分」とは何なのか。今回の結果はどう考えればいいのだろうか。(服部尚、坪谷英紀)
 解析は2段階あった。まず、柏崎刈羽原発1、4号機の最下階で記録された地震波から、原子炉圧力容器や燃料集合体など主要な設備や機器がどのぐらい揺れるかを計算し、各施設の設計時に想定した揺れと比べた=図1。日本原子力発電の東海第二原発(茨城県)を除く全施設で、想定を超える部分が生じた。
 次に、想定を超えた部分では、各機器にかかる力を算出して分析した。
 機器や設備に力がかかるとひずみが生じるが、「弾性域」という範囲では力がなくなるとひずみが消えて元に戻る。弾性域を超えた力を受けると、力がなくなってもひずみが残る「塑性域」に入り」限界を超えると破壊に至る。
 原子炉圧力容器など鋼材でできた重要機器では、こうした限界(終局強度)の3分の2の力を許容値にしている=図2。
 今回の解析では、柏崎刈羽原発の揺れでも、おおむね許容値の半分程度以下の力となり、ほぼ弾性域に収まると評価された。プラスチックの定規を多少曲げても元に戻るのと同じだ。
 柏崎刈羽原発で想定を大幅に上回る揺れを受けながら、原子炉を安全に止め、放射性物質を閉じこめる基本機能が働いたのも、こうした設計余裕によるものと見られている。「想定した揺れを上回ると、すぐ壊れるような誤解が広まっている」と、心外な思いを訴える専門家は少なくない。
 原発の耐震設計では、地下300メートルぐらいまでの岩盤部を基盤にして、どれぐらい揺れるかを想定した基準地震動を設定する。原子力安全基盤機構などによると、設計余裕については、基準地震動の策定段階で活断層調査などに基づく揺れを大きく見積もって上乗せされ、基準地震動に基づく設備や機器の揺れの設定でも大きめの値を考える。詳細設計でも材料強度のばらつきを考慮し、最低値を前提にするなどして累積する。最終的には数倍の余裕が生じるという。
 中越沖地震は他の原子力施設にとっても大きな揺れだが、こうした余裕の範囲に収まると考えられていた。12事業者が自主解析をした背景には、一刻も早く「安心材料」を示そうという意図があった。
 だが、実際には今回の解析は「暫定的で簡易な評価に過ぎない。
 柏崎刈羽原発では、基準地震動を設定するのに必要な岩盤部の詳細な揺れの記録が地震計の不備のせいで残されていなかった。東電は岩盤部の揺れの再現を急いでいるが、今回の解析では土中で変質した最下階での記録を使わざるを得なかった。
 原子力安全基盤機構の蝦沢勝三・解析評価部長は「すぐ取り組める解析としては、これぐらいが限度。努力賞だと思う」という。
 さらに、今回の解析は物が壊れないかだけを見るものだった。対象も無数にある機器のうち、「止める」「冷やす」「閉じこめる」といった、地震を受けて原子炉が安全停止するうえで最も重要な8〜9の設備・機器だった。しかも簡単な計算で、破壊の恐れがある値を超えないかを大まかに確かめただけだ。詳細な評価をすれば、厳しい特果が出る恐れもあり得る。
 柏崎刈羽原発の運転再開を考えるには、まったく次元の異なる評価が求められる。運転を始めても、きちんと長期間、機能を維持できるかどうかや、機器の交換の必要がないかなどを判断するため、地震の影響が弾性域か塑性域に及んだか、細かい分析を迫られる。一度曲げた定規が次も同じような力、あるいはそれ以上の力に耐えられるかを評価するようなものだ。
 こうした作業は、国内でも経験のないことでもあり、経済産業省の委員会がようやく判断基準づくりを始めたところだ。
 基準地震動の再設定や、設計余裕をどう見積もるのかも、重大な課題だ。

 応答スペクトル
 設備や機器には、その高さや大きさ、材質などから、揺れやすい固有の周期がある。地震の揺れが、様々な固有周期を持つ設備や機器に対してどれだけの揺れ(応答)を生じさせるかを示したグラフが応答スペクトルだ。横軸に周期、縦軸に揺れの最大値(最大応答値)を置き、加速度などで表す。ガルは加速度の単位で、1ガルは1秒間に秒速1センチずつの加速。

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