[2013_09_01_01]原子力発電所の新規制基準の策定経緯と課題_環境委員会調査室_大嶋健志(立法と調査2013年9月1日)
 
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原子力発電所の新規制基準の策定経緯と課題_環境委員会調査室_大嶋健志

1.はじめに
 これまで我が国の原子力規制行政は、原子力施設の設置、建設、運転の各段階において、原子力施設の種類に応じて各規制行政庁が担当し、その判断の妥当性について、内閣府の原子力安全委員会が二次的に監視・監査する体制がとられ、いわゆるダブルチェックが実施されてきた。原子力発電所に係る規制行政庁は、経済産業省に属する原子力安全・保安院(以下「保安院」という。)であった。2011 年3月 11 日の東京電力福島第一原子力発電所事故発生以降、原子力行政の推進と規制が同じ経済産業省内の組織により実施されていたことが、事業者に対する規制を不十分なものとした背景であるとの指摘がなされた。
 その反省に立って、原子力規制組織及び原子力規制制度の改革が実施されることとなり、2012 年9月 19 日、原子力規制行政の一元化を目指して原子力規制委員会が発足し、2013年7月8日には、原子力発電所における原子炉の炉心損傷等の重大事故に係る対策(以下「シビアアクシデント対策」という。)の義務化等を内容とする改正原子炉等規制法が施行された。改正された同法では、原子力発電所の設置許可等に関する新規制基準を原子力規制委員会規則により定めることとされている。
 以下では、原子力発電所に係る新規制基準の策定に至るまでの経緯について整理するとともに、新規制基準に関連する若干の課題について触れたい。

2.原子力規制委員会設置法の制定
(1)原子力規制の見直しと法制定の経緯
 政府は、福島第一原発事故から約3か月を経た 2011 年6月7日、「原子力安全に関するIAEA閣僚会議に対する日本国政府の報告書」(以下「IAEA報告」という。)を取りまとめ、初めて事故に対する評価を行い、事故を教訓として原子力規制の見直しを進めることを表明した。その後、同年8月 15 日には、規制と利用の分離や規制の一元化の観点から経済産業省原子力安全・保安院と原子力安全委員会を統合し、環境省の外局として「原子力安全庁(仮称)」を設置することや、設置時期は 2012 年4月を目途とすること等の方針が閣議決定された。
 その後の検討を経て、政府は、第 180 回国会の 2012 年1月 31 日、「原子力の安全の確保に関する組織及び制度を改革するための環境省設置法等の一部を改正する法律案」(閣法第11号)、「原子力安全調査委員会設置法案」(閣法第 12 号)(以下両法案を「政府案」という。)等を国会に提出した。政府案は原子力規制行政を一元化し環境省の外局として「原子力規制庁」(原子力安全庁を改称)を設置し、原子力規制の強化のため、原子炉等規制法等の改正を行おうとするものである。
 一方、自民党は、政府案では、組織の独立性担保や規制の一元化が不十分であるとして対案を取りまとめ、新規制組織については、政府案の「原子力規制庁」という形ではなく、独立行政委員会、いわゆる三条委員会の「原子力規制委員会」を環境省の外局として設置することとし、その委員長及び委員は国会同意の対象とした。なお、「原子力規制庁」は、原子力規制委員会の事務局として名称を残すこととした。また、一元化の対象事務として、核不拡散のための保障措置や、放射性同位元素の障害防止等を追加している。自民党による対案は、公明党との調整を経て、2012 年4月 20 日に「原子力規制委員会設置法案」(衆第 10 号、以下「自公案」という。)として、国会に提出された。
 その後、政府案及び自公案は、民主、自民、公明の三党協議により一本化することとされ、政府案及び自公案が撤回され、2012 年6月 15 日、衆議院環境委員長から「原子力規制委員会設置法案」(衆第 19 号)が提出された。その内容は、新規制機関については自公案が軸となり、原子炉等規制法の改正については政府案をほぼ踏襲するもの(改正内容は(2)を参照)で、6月 20 日の参議院本会議で可決、成立した。

(2)事故原因の分析と原子炉等規制法の改正
 福島第一原発事故の直接的原因については、高線量の放射線のため損傷した機器自体を調査することができない状況の中、確定的な分析はなされていないが、国会事故調からは重要な機器が地震により損傷した可能性があるとの指摘もある。しかし、事故の大きな要因が、地震・津波を起因として電源を喪失し、原子炉を冷却する機能が失われたことにあることは、大方一致している。一方、制度的な背景として、地震や津波に対する知見の反映が不十分であったこと、シビアアクシデント対策が事業者の自主的な取組に位置付けられるなど規制が十分でなかったことなども一致して指摘される点である。これらの事故原因に対する概括的な認識は、上記のIAEA報告で政府が示した分析以降、大きく変化していない。
 このような認識の下に、(1)の原子力規制委員会設置法の附則において、原子炉等規制法が改正され、@シビアアクシデント対策を原子炉等規制法において義務化し、A最新の知見を新基準として取り入れた際に、既設の施設に対しても適合を義務付け(バックフィット制度の導入)、B電気事業法の規制下にあった運転段階等における規制を原子炉等規制法に移行し、C40 年運転制限制の導入等がなされた。

【図表1 福島第一原発事故後の新規制基準策定等の経過】省略

3.従来の規制基準
 原子炉等規制法においては、原子炉の設置許可時の安全面の基準について、「災害の防止上支障がないものであること」と規定されていた。しかし、同法の政省令において、これを具体化した規定は定められず、ダブルチェックを実施する際の指針として、原子力安全委員会が内規として定める安全審査指針類が、規制基準としての役割を果たしてきた。一方、運転開始後の維持基準については、詳細設計以降は原子炉等規制法ではなく電気事業法が適用されている中で、安全審査指針類の内容と調和を取る形で電気事業法の省令が規制基準となってきた。
 安全審査指針類は、1964 年5月 27 日に「原子炉立地審査指針及びその適用に関する判断のめやすについて」(立地指針)が定められたのが最初であり、以後、原子力委員会(1978年の原子力安全委員会分離独立後は原子力安全委員会が策定)では、安全審査指針を順次制定していくが、原子炉の設置許可に際して特に重要な指針は、1970 年4月 23 日に定められた「軽水炉についての安全設計に関する審査指針について」(以下「安全設計審査指針」という。)である。この安全設計審査指針は、「安全性確保の観点から設計の妥当性について判断する際の基礎を示すことを目的として定めたもの」であり、今般の法改正により、原発設置時の規制基準として原子力規制委員会規則で定められることとなった。
 また、安全審査の規定を補完し、耐震安全性の観点からの要求事項を明確化したものとして、1978 年9月 29 日、「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」(以下「耐震設計審査指針」という。)が策定されており、同様に今回原子力規制委員会規則において定められることとなった(6参照)。なお、福島第一原発事故のようなシビアアクシデント対策については、事業者の自主的な措置(法令要件外)として、整備が進められてきたが、法令上の規制要件化を目指す動きもあった。

4.福島第一原発事故後の諸対策と再稼働への動き
 福島第一原発事故を引き起こした平成 23 年(2011 年)東北地方太平洋沖地震の時点で、稼働中であった原発は、その後順次定期検査入りし、定期検査から再稼働された原発は、大飯原発のみである。政府は、事故により多くの原発が停止したことで、電力の供給力が低下することを懸念し、事故直後から、円滑な再稼働を目指した。その過程で原発に対する規制要求は下記のとおり充実され、それらの対策は、最終的には原子力規制委員会による新規制基準に包含されることとなった。
 九州電力では、玄海原発の2、3号機について、2011 年3月下旬以降、定期検査を終了して、順次再稼働することを予定していたが、3月 24 日、その延期を発表した。また、福島第一原発事故により原発立地自治体に原発の再稼働に慎重な動きが広がっていた。そうした中で、海江田経済産業大臣は、3月 25 日の記者会見で再稼働に向けたガイドラインを近々発表することを明らかにし、3月 30 日には、保安院による「緊急安全対策」として発表された。その主な内容は、原子炉や使用済燃料プールを冷却するための電源車の配備、冷却水を供給するための消防車の配備等である。これらの対策について、5月6日、保安院は対策の実施がなされていることを確認した。
 一方、同日、菅総理は、記者会見を開いて、浜岡原発の全原子炉の運転停止を中部電力に対して要請したことを発表した。この要請は法令に基づくものではないが、同発電所付近が震源の「想定東海地震」で発生する大規模津波への諸対策が講じられるまでは、運転を停止するよう求めたものである。この発表に対しては、原発の安全性を懸念する立場から歓迎する意見もあった一方で、要請が法令に基づくものではないことや、浜岡原発のみを対象とすることについて合理的な説明がないなどとする批判がなされた。

【図表2 福島第一原発事故後の安全対策と新規制基準の関係 】省略

(2)「シビアアクシデント対策」の実施(2011年6月)
 上記(1)の対策によっても立地自治体の安全への不安は解消されなかったため、政府は、2011年6月7日のIAEA報告において、追加的な緊急安全対策を講ずることとした。これに対応して、保安院は、同日付で、6月 14 日までに新たなシビアアクシデント対策について報告するよう事業者に求めた。この対策は、中央制御室の作業環境の確保、構内通信手段の確保、ベント設備の設置を進めること、がれき撤去用の重機の配備等から成るが、体系的なシビアアクシデント対策ではなく、(1)の緊急安全対策の追加的な対策となっている。
 海江田経済産業大臣は、6月 18 日、上記対策について、着実に実施されていることを確認したとし、原子力の安全性について、国が責任を持って、地元に説明していきたい旨の「原発安全宣言」を行った。そして、大臣自ら玄海原発の立地自治体の首長を説得し、7月4日には玄海町長が再稼働を了承することを表明し、玄海原発は再稼働される方向となった。

(3)「ストレステスト」の指示(2011年7月)
 上記(1)、(2)のとおり、一定の対策がとられたのを受けて、経済産業省では、夏の電力不足を回避するため、再稼働を進める予定であった。しかし、菅総理は、2011 年7月6日の衆議院予算委員会において、玄海原発の再稼働の可否について、EU諸国では、福島第一原発事故後に域内全ての原発を対象としてストレステストを実施していることを挙げ、国内の原発についても、ストレステストを実施するなどして、改めて国民が納得できるルールの下で検証していくことが必要であり、直ちに再稼働することに反対との発言を行った。
 その後、政府内部で調整の結果、7月 11 日、関係三大臣(枝野内閣官房長官、海江田経済産業大臣、細野内閣府特命担当大臣)の連名による見解が発表された。この中では、現行法令にのっとった安全性の確認が行われたとしても、保安院の安全確認には疑問の声もあり、改めてストレステストを実施することが再稼働には必要であるとされた。進め方としては、定期検査中の再稼働の判断のため、安全裕度をチェックする1次評価と、全原発を対象とした2次評価とに分けて実施することとされた。これにより、ストレステストに要する期間を考えると、2011 年の夏の間に新たに原発を再稼働することは不可能となった。

(4)ストレステストの実施
 ストレステストのうち、1次評価の報告書が最初に提出された原発は、関西電力大飯原発3号機(後から提出された4号機も一括審査対象となった)であった。このため、保安院は、大飯原発3、4号機から審査を進め、2012 年2月 13 日に了承、原子力安全委員会は、3月 23 日に了承している。なお、ストレステスト1次評価において、原子力規制委員会が設置された 2012 年9月までに、保安院による了承を得た原発は、ほかに数基あるが、原子力安全委員会の審査まで終了したのは、大飯原発のみである。
 なお、このストレステストの審査は、2012 年9月の原子力規制委員会設置以降は、進められていないが、原子炉等規制法の改正により、2013 年 12 月にはストレステストの制度化とも言える「安全性の向上のための評価制度」(第 43 条の3の 29)が導入されることとなっており、5年ごとに評価を義務付ける方向で検討が進んでいる。

(5)「30項目の対策」の取りまとめ(2012年3月)
 保安院では、政府事故調による事故の調査が進められている中、規制行政庁として、事実関係及び経緯を再整理し、技術的課題を体系的にまとめることを目指して、「東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の技術的知見に係る意見聴取会」を設置し、2011 年 10月 24 日から検討を開始した。その検討結果を踏まえ、シビアアクシデントの回避策とシビアアクシデントに至った際の対策について、今後の規制に反映すべきと考えられる対策を、2012 年2月 16 日に 30項目に整理した中間取りまとめを公表した。その後のパブリックコメントを経て、3月 28 日に「東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の技術的知見について」として取りまとめた。この取りまとめは、後に策定される新規制基準の中核的な内容となっており、事故後初めての総合的な安全対策となっている。

(6)大飯原発の再稼働決定(2012年6月)
 政府は、2012 年4月3日、ストレステストの1次評価の実施と、「30 項目の対策」の取りまとめを踏まえて、原発の再稼働を推進していくため、「原子力発電所に関する四大臣会合」(野田総理、藤村内閣官房長官、枝野経済産業大臣、細野原発事故担当大臣)を設置して、再稼働のための基準を作成することとした。検討の結果、4月6日に「30 項目の対策」をベースとした判断基準が取りまとめられ、既にストレステストの1次評価の審査が終了している大飯原発3、4号機について、基準に合致しているかどうか検討を行い、野田総理は、6月8日、再稼働を表明した。その後、7月1日、事故後初めて停止していた原発が再稼働された。9月 19 日に発足した原子力規制委員会では、原発の再稼働については新基準策定後としたため、大飯原発以降、新たに再稼働した原発はない。

5.新規制基準の策定
(1)原子力安全委員会指針見直し取りまとめ(2012年3月)
 規制行政庁である保安院によって、上記の対策が順次実施されていくのと並行して、ダブルチェック機関である原子力安全委員会においても、2011 年6月以降、安全審査指針類の見直しの議論が開始された。具体的な検討は、これまで指針類の検討を随時行ってきた「原子力安全基準・指針専門部会」の下に「安全設計審査指針等検討小委員会」を設置して行うこととなった。事故原因が究明されていない段階での指針見直しについて疑義を呈する意見もあったが、班目委員長は、事故の完全な原因究明を待っての見直しでは遅いとして、可能な部分での意見集約を要請した。また、検討の期限は、当初の原子力規制機関の再編の目標時期が 2012 年4月であったことを踏まえて同年3月中が目途とされた(原子力安全委員会への報告は期限どおり3月 22 日になされた)。
 小委員会では、主に事故の大きな原因であることが確実な全交流電源喪失及び最終ヒートシンク(UHS)喪失の対策について検討がなされた。その結果、全交流電源喪失については、旧指針で「長期間にわたる全交流動力電源喪失は考慮する必要がない」(安全設計審査指針 27)と記載している点について、非常用電源とは独立した代替電源の設置を求める改定案を示した。また、最終ヒートシンク喪失対策については、改定案までは示されず、UHSの頑健性、代替UHSの機能等について論点整理が行われた。なお、シビアアクシデント対策の規制要件化の方法については、今後の検討課題とし、結論を出すことはなかった。

(2)原子力規制委員会における新規制基準の策定
 2012 年9月 19日に発足した原子力規制委員会では、2.(2)のとおり、シビアアクシデント対策が義務化されることに備え、シビアアクシデント対策を含む新規制基準を策定する必要があった。そこで、2012 年 10 月 10 日の原子力規制委員会において、新たに「発電用軽水型原子炉の新安全基準に関する検討チーム」を設置して、検討を行うこととした。なお、同チームの外部有識者は、4.(5)の保安院の意見聴取会や5.(1)の原子力安全委員会の小委員会の委員と重複している者もおり、実質的には継続した議論が行われている。
 以上の議論を経て、原子力規制委員会は、2013 年6月 19 日、原子力規制委員会規則や関連内規として新規制基準を決定した(施行は7月8日)。新たな要求事項として、竜巻や火山の影響の考慮、内部溢水対策、シビアアクシデント対策などを加えている。旧基準と比較した概要は図表3のとおりである。

【図表3 新旧の原発規制基準の比較】省略

6.地震・津波に関する基準
(1)耐震設計審査指針の改定(2006年) 耐震性に関する基準については、上記のとおり、1987年に耐震設計審査指針が定められ、安全設計審査指針を補完する形で、耐震基準として用いられてきた。原子力安全委員会では、1995 年1月 17 日に発生した兵庫県南部地震を契機に「平成7年兵庫県南部地震を踏まえた原子力施設耐震安全検討会」を設置して検討を行い、その改定を検討したが、同年9月、指針類の妥当性が損なわれるものではないと結論付け、地震直後には改定を見送っていた。

(2)耐震・津波の評価
ア 保安院による耐震バックチェック
 原子力安全委員会では、新耐震設計審査指針の内容を踏まえた耐震安全性の確認を実施することが、原子力施設の安全性の一層の向上に資するものであるとの認識の下、原子力安全・保安院に対して各事業者に新指針を踏まえた既設原子力発電所の耐震安全性の評価(耐震バックチェック)を要請した。これを受け、原子力安全・保安院は、事業者に対し、各原発におけるバックチェックを要請した。このため、各事業者において、改めて活断層についての評価が実施されることとなった。特に敷地内の破砕帯と周辺の活断層の連動性について評価が実施されてきたが、福島第一原発事故の発生により一時作業が中断した。
 2011 年 10 月、バックチェックが再開されたが、検討を行うための場は、メンバーを代えて新たに設置された。この検討の結果、2012 年9月、敷地内破砕帯の活動性について、@調査が必要(敦賀、東通、志賀、美浜、もんじゅ)、A念のため調査が必要(大飯)、Bデータ拡充に努める(柏崎刈羽、浜岡、六ヶ所、高浜)、Cその他(泊、女川、福島第一、福島第二、川内、玄海、伊方、島根、東海第二)の4つの区分に整理された。
イ 原子力規制委員会による耐震評価
 原子力規制委員会では、この整理をそのまま引き継ぎ、上記@、Aの6つの施設について、順次それぞれの施設ごとに有識者会合を設置して検討を進めるとしている。この調査により敷地内破砕帯が耐震設計上考慮すべき活断層であるとされれば、廃炉に追い込まれる可能性も出てくる。
 2013 年5月 15 日の敦賀原発に係る有識者会合において、敦賀原発2号機原子炉建屋直下を通る破砕帯が「耐震設計上考慮する活断層」との評価を取りまとめ、5月 22 日の原子力規制委員会で了承された。また、東通原発については、有識者会合が同様な判断をしているが、委員会としての結論は出されていない。一方、大飯原発については、活断層ではないとの意見が有識者会議内で多数であったが結論を得るに至っておらず、高速増殖炉もんじゅについては、調査が 2013 年7月 17 日に始まったところである。志賀原発、美浜原発については有識者会合が設置されていない。

(3)地震・津波に関する新規制基準の策定
 原子力安全委員会では、今般の福島第一原発事故の契機が地震・津波であったことから、耐震設計審査指針の改定を検討した。また、原子力規制委員会も発足以降、地震・津波に関する規制基準の強化を検討した。これらの検討は、耐震設計審査指針が、設備や機器を主な対象とする安全設計審査指針とは、別に定められており、関連する有識者も別であることから、5.(1)、(2)の検討とは、同時並行でそれぞれ別の場が設定された。
ア 原子力安全委員会による検討経過
 原子力安全委員会では、2011 年 10 月に再開した耐震バックチェックの審査と並行して、耐震設計審査指針の見直しの検討のため、5.(1)の「安全設計審査指針等検討小委員会」に相当する組織として、「地震・津波関連指針等小委員会」を設置した。小委員会では、検討の結果を耐震設計審査指針とその手引きの改訂案という形にまとめ、@「基準地震」と同様に「基準津波」を新たに設定、A考慮対象として明示する地震の類型の追加、B地震による地殻変動を考慮の対象として明記すること等を提案した。原子力安全委員会への報告は5.(1)と同様に 2012 年3月 22 日になされた。
イ 原子力規制委員会による検討経過
 今回の原子炉等規制法の改正により、直接的に地震・津波関連の基準の見直しを求める規定はない。しかし、原子力規制委員会では、「発電用軽水型原子炉施設の地震・津波に関わる新安全設計基準に関する検討チーム」を設置して、基準見直しに向けて検討を行った。5.(2)と同様な経過により定められた地震・津波に関する新規制基準には、アの提案に、@Sクラス(耐震設計上の重要度が最上位)の建物は、活断層等の露頭がない地盤に設置することを要求すること、A活断層の認定基準として従来の 12〜13万年前に加え、地層が存在しない場合には、40 万年前まで遡ること、B詳細な地下構造調査を行うこと等が追加されている。(図表3参照)

7.新規制基準に基づく原発適合性審査
 2013 年3月 19 日、原子力規制委員会は、関連規定の7月施行を前に新規制基準の適用に関する方針を決定した。主な点は、@新たな規制導入時には、基準への適合を求めるまでに一定の期間を置くのを基本とするが、施行までが短期間の場合は、次に施設の運転を開始するまでに行う、A今般の新規制施行の際には、今後の運転再開時に設計基準事故対策及びシビアアクシデント対策として必要な機能を全て備えていることを求めるが、バックアップ対策は5年間猶予する、B運転中のプラントについては、新基準をどのくらい満たしているのか把握するための確認作業を、新基準の内容が固まった段階で速やかに行い、安全上重大な問題があると認める場合には停止を求めることである。なお、Bに該当するのは、大飯原発3、4号機のみであった。

(1)大飯原発の現状評価
 上記の方針に基づき、原子力規制委員会は、「大飯発電所3・4号機の現状に関する評価会合」を設置して、新規制基準は確定していない中で骨子に基づいて 2013 年4月 19 日から審査を行った。検討の過程では、原子力規制委員会から、周辺にある活断層の連動を一層考慮する必要性等について指摘があったが、最終的には、7月3日、直ちに安全上重大な問題が生じるものではないと判断して運転の継続を容認した。

(2)各原発からの申請
 新規制基準の施行後、運転中の大飯原発3、4号機を含む 12 の原子炉(大飯のほかに、泊原発1〜3号機、高浜原発3、4号機、伊方原発3号機、川内原発1、2号機、玄海原発1、2号機)について、新規制基準への適合性確認の申請が行われた。原子力規制委員会による審査は、「原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合」の下、プラント関係については、3チームにより、耐震関係については、横断的な1チームにより、約 80 名体制により審査が進められている。(図表4参照)

8.今後の課題
 最後に新規制基準をめぐるいくつかの課題を挙げたい。

(1)規制基準の最新性の維持
 旧規制基準である原子力安全委員会の安全審査指針類等は、2006 年の耐震設計審査指針の改定までに長期間を要したことに見られるように、最新知見の反映が十分になされてこなかった。今般制定された新規制基準が「世界一厳しい基準」であったとしても、それを国際基準に照らし、どのように継続的かつ制度的に維持していくのか、明確に示していく必要がある。

(2)新規制基準に関わる今後の検討
 新規制基準を策定する過程では、多数基立地の制限など、議論が深まらなかった論点がある。また、原子力規制委員会として、新規制基準制定後も検討が必要な事項として、規制基準において安全上の重要度を測る指針である「重要度分類指針」の見直し等の課題を挙げている。これらの点については、今後のスケジュールを含む検討の見通しを示すことが必要であろう。

(3)適合性審査の見通しと再稼働の動向
 福島第一原発事故以降、大飯原発以外の再稼働が実現しなかった背景には、様々な経緯があるものの、根本的には原子力規制行政に対する信頼が得られていないことが背景にある。新規制基準の適合性審査には6か月程度かかるとされるが、審査の過程において原子力規制委員会は、事業者に対して指摘を行うだけでなく、安全上の課題や、事業者が取り組むべき点について、国民に対し何が議論の焦点となっているのか分かりやすく説明することも求められる。また、「日本再興戦略−JAPAN is BACK−」(2013 年6月 14日閣議決定)では、安全性の確認された原発の活用が盛り込まれたが、原子力規制委員会により安全が確認された原発の再稼働の判断を国としてどのような手続で進めていくのかが注目される。

(4)原発立地自治体や事業者から批判への対応
 原発立地自治体からは、原子力規制委員会に対し、新規制基準について十分な説明を求める意見がある。原子力規制委員会が再稼働の必要性を説得する必要がないのは当然としても、自ら定めた基準について、幅広い意見を求め、批判を取り入れていくことは必要なのではないか。また、事業者からは、原子力規制委員会に設置される有識者会議の人選が特定の分野に偏っている等の批判が見られる。原子力規制委員会として、提示された批判や疑問に対し真摯に受け止めて自らの見解を誠実に説明していくべきであろう。

(5)原子力規制委員会による情報収集等
 米国の原子力発電運転協会(INPO)は、スリーマイル原発事故を契機に設立された業界団体であり、原発の運転状況の相互チェックや、訓練計画の共同開発等により、事業者による原発の安全性向上に寄与しているとされる。我が国も、福島第一原発事故の反省に立って、既存の日本原子力技術協会を改組して、原子力安全推進協会が発足した。経済産業省には、総合資源エネルギー調査会の下に「原子力の自主的安全性向上に関するワーキンググループ」を設置して事業者の自主的取組を支援することとしている。原子力規制委員会としても、原子力安全に関する情報を収集・評価し、適時に規制に反映させることを目的として「技術情報検討会」を設置したが、今後、事業者や有識者の最新知見を確実に吸収し、いかしていく仕組みの構築が求められる。

(6)原子力規制委員会とJNESの統合
 原子力規制委員会設置法附則第6条第4項では、独立行政法人原子力安全基盤機構(JNES)を廃止し、原子力規制委員会に統合するための法制上の措置を速やかに講ずることとされているが、同法が施行されてから1年が経過した現在でも実現していない。60歳を超えるJENES職員を公務員としてどう扱うか等が課題とされるが、審査体制の充実・強化を図る観点から、早急な検討が求められている。

9.おわりに
 原発の設置等に係る新規制基準は、東京電力福島第一原発事故で発生したシビアアクシデントから2年以上経過した2013年7月8日に施行された。現在、原子力規制委員会では、再稼働を目指す原発について、新規制基準に関する適合性審査を実施している。その際には、組織理念(2013年1月9日、原子力規制委員会決定)にあるように、「何ものにもとらわれず、科学的・技術的な見地から、独立して意思決定を行う」とともに、「国内外の多様な意見に耳を傾け、孤立と独善を戒める」との考え方の下、新規制基準が確実に適合性審査へ反映されるよう求めたい。(おおしま たけし)

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