[2018_08_29_01]<トリチウム水>海洋放出 福島の漁業者、危機感強く(東京新聞2018年8月29日)
 
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トリチウム水>海洋放出 福島の漁業者、危機感強く

 東京電力福島第1原発で増え続ける放射性トリチウムを含んだ処理水の処分方法をめぐり、経済産業省の有識者小委員会は30、31の両日、福島県と東京都で市民を対象にした初の公聴会を開く。同省や東電は「保管が限界に近づいている」と処理水の海洋放出を念頭に年内に決着したい意向だが、試験操業を重ねてきた福島の漁業者らは「築いた安全への信頼が崩れかねない」とかつてない危機感を強めている。
 「科学者は『海に流せばいい』と簡単に言うが、国民はそれでも今と同じように福島の魚を買ってくれるのですか」。津波で壊れた船を再建し、試験操業に参加する同県相馬市の漁師、高橋通さん(63)が問う。現在の技術で除去できないトリチウムを含む処理水の海洋放出について、経産省が最も処理期間が短く低コストだとし、原子力規制委員会も容認していることに、漁業者への視点が欠けていると思うからだ。
 2011年3月の原発事故で超高濃度の放射性物質が海洋に流出した影響で、福島の沿岸漁業は全面停止に追い込まれた。県漁業協同組合連合会は12年から試験操業などで安全性を確認しながら魚種や海域を広げ、15年4月以降、モニタリング検査で国の基準(1キロ当たり100ベクレル)を超えた魚はゼロに。水揚げは事故前の1割強にとどまるが、主力魚種の漁も復活し、今年の検査では99%以上で検出限界値未満が続く。
 それだけに、海洋放出に危機感を抱く。県漁連の野崎哲会長は「科学的見地から異議を唱えるつもりはないが、国民の理解がないのが問題だ。福島の漁業に大きな打撃になる」と語り、30日に同県富岡町で開かれる公聴会で反対する考えだ。
 汚染水は、溶融核燃料(燃料デブリ)の冷却水や地下水で1日約220トン発生し、今後も年間約5.5万トン増えるという。現在、第1原発敷地内のタンクは880基で、東電は21年以降の増設計画を示していない。
 規制委によると、仮に基準上限のトリチウムを含む水を毎日2リットル飲んだ場合、年間の追加被ばく量は約1ミリシーベルトで、国際放射線防護委員会による平常時の追加被ばく線量の限度と同じになるという。公聴会では科学的知見やコストなどを説明し、会場からの意見を集約した後、政府が東電と協議して処分方法を年内にも最終決定する。【乾達、岩間理紀】

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