[2020_07_13_01]福島第一原発 トリチウム含む水の海への放出に反対 若者がデモ(NHK2020年7月13日)
 
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福島第一原発 トリチウム含む水の海への放出に反対 若者がデモ

 東京電力福島第一原子力発電所にたまるトリチウムなどを含む水の処分方法について国の検討が進む中、福島県の若者らが「国民の理解が進んでいない」として、海などへの放出に反対するデモ行進を行いました。
 福島第一原発にたまり続ける放射性物質のトリチウムなどを含む水の処分について国の小委員会はことし2月「基準以下に薄めるなどして海か大気中に放出する案が現実的」とする報告書をまとめ、国は最終決定を前に自治体や関係団体などから意見をきく作業を進めています。
 こうした中、12日、福島県内に住む20代や30代の若者で作るグループが「国民の理解が進んでいない」として、海などへの放出反対を訴えて福島県郡山市の中心街でデモ行進を行いました。
 県内の漁業者なども参加しおよそ50人が横断幕などを手に、それぞれの思いや考えを訴えました。
 このグループは、日頃、若者が積極的に社会問題に関わろうと呼びかける活動をしていて、水の処分をめぐっては風評被害など福島の将来に影響するにもかかわらず、若い世代を含めて、関心が高まっていないことに危機感を抱き、行進を企画したということです。
 グループの代表の佐藤大河さんは「実施したアンケートでも処分問題を知らない人が多く、議論が深まっていない。若者から発信することで、同世代も含めて関心を持ってもらえれば」と話していました。
 参加した高校生は「処分を決めようとしていること自体知りませんでした。今後この問題を考えていきたいと思います」と話していました。

汚染水の現状と福島県内の対応

 福島第一原子力発電所では溶け落ちた核燃料を水を注入して冷やしているため、現在も毎日、170トン前後の汚染水が発生しています。
 回収して放射性物質を取り除く処理をしていますが、除去が難しいトリチウムなどの一部の放射性物質が残ってしまうため、現在およそ1000基のタンクにおよそ120万トンが保管されています。
 東京電力は、現状の計画では2年後の夏ごろにはすべてのタンクが満杯になるとしています。
 このトリチウムなど含んだ水の処分方法について、国の小委員会はことし2月、「基準以下に薄めるなどして海か大気中に放出する案が現実的」だとしたうえで「海のほうがより確実に実施できる」とする報告書をまとめています。
 政府は処分方法の決定に向けて、関係者から「意見を聞く会」を福島県内や東京でこれまでに4回開き、今月17日にも福島市で5回目を開く予定です。
 また、一般の人からも意見を募集していて、当初5月までとしていた期限は3度延長され、現在、今月末までとなっています。
 しかし政府は、こうした取り組みで寄せられた意見を処分方法の決定にどう反映するのかについては明らかにしていません。
 こうした中、福島県内では、これまでに20の市町村議会で意見書や決議が可決されていて、このうち13の市町村議会は、海や大気への放出に反対し、そのほかの議会も慎重な判断を求めています。
 また福島県議会でも、県民の意見を最大限に尊重して慎重に決定することなどを求める意見書が可決されています。
若者たちの活動と思い
 12日デモを行った「DAPPE」は、福島県内に住む20代から30代のおよそ50人で作るグループで、社会問題に若者が積極的に関わろうと呼びかける活動をしています。
 トリチウムを含む水の処分は、結論によっては風評被害を助長しかねないなど、将来にわたって多くの人に影響する問題でありながら、若い世代の意見が届かないまま決まってしまうのではないかと危機感を抱き、先月からほぼ毎日、福島市などの街頭でチラシを配り幅広い議論を訴えてきました。
 しかし、グループが、12日までの4日間、JR郡山駅前で若者を対象に行ったアンケートでは、回答した75人のうちおよそ8割が、トリチウムを含む水の処分が検討されていることについて「知らない」と回答しました。

若い世代に関心を持ってもらうにはどうすればよいのか。

 メンバーたちは、週に数回、オンライン会議を行って、議論しています。
 先週の会議では、SNSや動画配信サイトなどインターネットを使った呼びかけに、力を入れていくことが確認されました。
 そのうえでメンバーからは「福島だけの問題でもないし、日本だけの問題でもないということを訴えていくことで、皆さんに当事者意識を持っていただいて、自分自身ももっと高めていかなければいけない」とか「自分たちの次の世代は、いま意思決定しようとしていることに反対できないので、声をあげられない世代のためにも声をあげる必要がある」といった意見が出されました。
 グループの代表を務める佐藤大河さん(34)は「積極的に自分から声をあげようとか、そこまでは気持ちが向かないという人はかなり多いのではないか。自分たちが声を上げることで、いろんな人を勇気づけ、多くの人に意見表明してもらいたい。遠回りかもしれないが、福島県内での世論を高めることで、福島県の人はこう考えているということを、全国の人に知ってもらうのが大事だと思う」と話していました。

専門家「改めて国民的議論する機会に」

 漁業や農業の風評被害に詳しく、国の小委員会の委員も務めた福島大学の小山良太教授は政府の議論の進め方について「どのくらいの期間でどのように議論していくのかが全く分からないのが問題だ」としたうえで「多くの国民の関心や理解が進んでいない中で、処分方法を決めてしまうのは、さらなる風評被害につながる可能性が高い」と指摘しています。
 そのうえで「原発事故からおよそ10年がたっても、こういう問題を抱えているということを、改めて国民的に議論する機会にするべきで、トリチウムを含む水の処分についてどういう反応があるのか、福島と県外でずれがあるのかなどを調べて、時間をかけてでも丁寧に進めるべきだ」と話しています。
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