[2020_10_20_04]【検証 トリチウム水】東電への不信感根強く 福島第一原発処理水処分 国民理解進まず(福島民報社2020年10月20日)
 
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【検証 トリチウム水】東電への不信感根強く 福島第一原発処理水処分 国民理解進まず

 東京電力福島第一原発で増え続ける放射性物質トリチウムを含んだ処理水の処分を巡り、国民の理解が広がらない要因の一つとして、東電の情報発信への不信感を挙げる声が出ている。東電は当初、多核種除去設備(ALPS)による処理でトリチウム以外の放射性物質は除去できるとしていたが、複数の放射性物質が残っているとの事実を積極的に公表しなかった。国や東電の説明不足も重なり、処理水、トリチウムそのものへの理解は深まっていないのが現状だ。
 福島第一原発では原子炉建屋に残る熔融核燃料(デブリ)を冷やすため水を常時注入しており、その水がデブリに触れて汚染水が発生する。原子炉建屋に流入した地下水や雨水が汚染水に混ざることで総量が増え続けている。汚染水は吸着装置で放射性セシウムとストロンチウムの大部分を除去された上で、ALPSを通してトリチウム以外の放射性物質が取り除かれる。
 東電は二〇一三(平成二十五)年にALPSを導入したが、当初はトリチウム以外の六十二種類の放射性物質を除去していると強調してきた。しかし、二〇一八年八月、処理水の扱いを議論する政府小委員会主催の公聴会が開かれる直前に、ヨウ素129やルテニウム106など複数の放射性物質も排水の法令基準値を超えて残存することが明らかになった。公聴会に参加した国民からは「公聴会の前提が崩れた」との発言があり、東電の情報発信に対する国民の不信感がより強まった。こうした中、東電は同年十二月に処理水や保管タンクの状況などを分かりやすく整理したポータルサイトをインターネット上に開設した。
 二〇〇二年には東電のトラブル隠しが発覚した。福島第一原発、第二原発などの自主点検で、ひび割れなどのトラブルを見つけながら放置したり、修理記録を改ざんしたりしていた。県民の脳裏には苦い記憶として焼き付いている。
 国に対する不信感も根強い。原発事故以前は、国は原発の安全性を強調して原子力政策を推し進めてきたが、震災の大津波により水泡に帰した。
 政府小委は処分方針決定後も「国民理解の醸成に向けて、透明性のある情報発信や双方向のコミュニケーションに長期的に取り組むべき」と報告書に記した。浜通りで鮮魚店を営む男性(82)は「国による安全神話が崩れ、東電もトラブル隠しをしていた。国民は国や東電が発する情報を簡単には信じないだろう」と漏らした。

■風評は最重要問題 知事「影響与えないように」

 東京電力福島第一原発で増え続ける放射性物質トリチウムを含む処理水の処分を巡り、内堀雅雄知事は十九日、定例記者会見で風評が最も重要な問題との認識を示した。国に対し「県内の農林水産業や観光業に影響を与えることがないよう慎重に対応を検討してもらいたい」と強調した。
 内堀知事は東日本大震災と原発事故の発生後、「風評は県内全域で重くのしかかってきた問題」と指摘した。県産米の全量全袋検査実施など風評払拭(ふっしょく)に向けた取り組みに触れ、「関係者が一年一年努力を重ねる中でいい方向に向かっている現実がある」と述べた。
 今後について「風評払拭に特効薬はない。地道な取り組みを継続することに尽きる」と訴えた。

■県の対応注目 処分方針決定後

 内堀雅雄知事は十九日の定例記者会見で放射性物質トリチウムを含む処理水について、政府が処分方針を決定した後、県の意見を示す考えを明らかにした。政府の処分方針に対する県の対応が注目される。内堀知事は「(政府から)何らかの対応方針が示されれば、県の意見は申し上げていく」と述べた。
 政府は月内にも処理水の海洋放出を軸に基本方針を決定する見通しだが、内堀知事は処理水の海洋放出などに対する賛否を明らかにしなかった。
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