[2016_06_04_03]福島第一「凍土壁」は、遮水効果に疑問がある 東電、鳴り物入りの汚染水対策が難航 岡田 広行 :東洋経済 記者(東洋経済オンライン2016年6月4日)
 
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福島第一「凍土壁」は、遮水効果に疑問がある 東電、鳴り物入りの汚染水対策が難航 岡田 広行 :東洋経済 記者

 東京電力ホールディングス・福島第一原子力発電所の汚染水抑制対策が思うような効果を発揮していない問題で、同社は6月2日、新たな工法を導入することを決めた。
 この日、原子力規制委員会の検討会合で、東電は「凍土工法」を用いても凍らなかった土壌の凍結対策として、セメント系の材料を新たに注入すると説明。規制委から「やむを得ない」として了承を得た。6月6日から工事を開始し、今月中に完了させる。
 これにより、目の粗い石が多いために地下水の通り道になっていると見られる地中箇所の凍結を確実にしたい考えだ。新たな工事は凍土壁工事の一環として行われ、総額345億円が用意された国の研究開発予算の一部を用いる。

凍結後も地下水流入量に変化なし

 東電が福島第一原発の原子炉建屋の周囲約1.5キロメートルにわたって構築した「陸側遮水壁」は通称、「凍土壁」と呼ばれる。地下約30メートルの深さまで埋設した約1500本の配管に零下30度の冷却材を流し込むことで、周辺の土を凍らせる。これによって、建屋内への地下水の流入を抑制し、溶け落ちた燃料に接触することによって発生する放射能汚染水の抜本的な削減を見込んでいる。
 だが、凍土壁は3月31日に原子炉建屋の海側全面および山側の一部が稼働して2カ月が経過したにもかかわらず、「現在のところ、地下水流入量を減らす効果が出ているとはいえない」(川村信一・福島第一原発広報担当)状態だ。このところ降雨量が多いこともあり、地下水の流入は1日当たり200立法メートル程度の高水準が続いており、「凍結開始後も大きな変化はない」(東電)という。
 建屋内への流入量を減らすことを目的として設置した「地下水ドレン」と呼ばれる井戸からくみ上げた水を、放射性物質の濃度が高いために海に放出することができず、東電ではやむなく建屋内に戻している。凍土壁の稼働で、こうした本来の目的と異なるオペレーションの是正が期待されたが、現在のところ目立った成果は現われていない。
 こうした中で、東電は規制委の了承を得て、遮水壁の凍結範囲を拡大する。これまで先行凍結させてきた海側に続き、山側部分についても大部分を凍結させることを決めた。
 凍結作業は数日内に開始する見込みで、新たに490本の凍結管に冷却材を流し込む。もっともその効果は未知数で、原子炉建屋を凍土壁で完全に囲い込むメドは立っていない。

規制委は凍土壁の効果を疑問視

 そもそも凍土壁は、汚染水問題の重層的な対策の一環として導入された。だが、工事金額の大きさやマンパワーのかけ方で注目度が大きかった反面、規制委は「根本的な解決策にはならない」(田中俊一委員長)とみなしてきた。のみならず規制委は、凍土壁で原子炉建屋を囲い込んだ結果、建屋内の汚染水の水位が遮水壁の外側の地下水位よりも高くなってしまうことで汚染水が流出するリスクを懸念してきた。今回、そうしたリスクが当面高くないとして規制委は山側の大部分の凍結を了承したが、そうかといって所期の効果がどこまで現われるかも定かでない。
 2日の規制委の検討会合でも、「最も期待した(地下水ドレンなどの)くみ上げ量減少が実現していない。本当に(凍土の)壁が形成されているのか。このままではいつまでたっても(効果を)判断できない恐れがある」と規制委の更田豊志委員長代理は東電に苦言を呈した。
 地下水位に有意な変動があることなどを理由に、東電は凍土壁の形成によって遮水効果は見え始めていると説明したが、規制委のメンバーは納得しなかった。
 凍土壁には前述のように、多額の国の予算が研究開発名目で投じられている。一方、稼働後のランニングコストは東電が負担する。電気代を含む総額は年間に十数億円になり、2016年度の電気の使用量は4400万キロワット時にも上る見通しだ。1万2000世帯以上が1年間に消費する電力量に相当する。
今後も期待したほどの効果が発揮できない場合、凍土壁の周囲にセメントを大量注入するなどの抜本策も必要との声も検討会合に参加した専門家から上がっている。汚染水対策の出口は見えず、試行錯誤が続いている。

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