[2016_08_20_06]福島原発の凍土壁/「効果なし」なら次善の策を(河北新報2016年8月20日)
 
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福島原発の凍土壁/「効果なし」なら次善の策を

 東京電力福島第1原発の放射性汚染水対策として建設された「凍土遮水壁」に対し、国の原子力規制委員会が「効果なし」という否定的な評価を突き付けた。
 地下水の流入によって増え続ける汚染水の対策は、当面の最重要課題。その切り札と目された凍土壁が役に立たないとしたら、対策は振り出しに戻るしかない。
 流入する前に地下水をくみ上げておくといったこれまでの対策を強化しながら、代替策がないかどうか早急に検討する必要に迫られている。
 メルトダウン(炉心溶融)を引き起こした福島第1原発は、事故後ずっと地下水の流入に悩まされてきた。
 3年前の国の試算では、1〜4号機の原子炉建屋周辺で1日に約1000トンもの地下水が流れ、そのうち400トンが建屋の地下に流入して放射性物質に汚染されていると見積もられている。
 さらに300トンが建屋の地下とつながっているトレンチ(地下道)の中の汚染水と混じり合って、海に流れていると推定された。
 井戸を掘って地下水をくみ上げる対策によって流入量は150トン程度に減ったとみられるが、汚染水が増え続けることに変わりはない。
 抜本的な対策として考え出されたのが凍土遮水壁。1500本の凍結管を地中に打ち込んで長さ1.5キロ、深さ30メートルの凍土壁をつくり、1〜4号機への地下水流入を食い止めようとした。凍結作業は今年3月末に始まった。
 ところが7月の流入量は1日170トンに達し、凍結前より20トンしか減らなかった。凍土壁で遮ることができず、地下水が通過しているらしい。
 約50トンまで流入量を減らすという当初の見通しに遠く及ばず、18日の規制委の会合で「効果が見られない」「(遮水効果が高いという)東電の主張は破綻している」と批判されてしまった。
 東電は追加工事で遮水効果を高められると期待しているが、それでも好転しなければ失敗という結末になり、350億円もの国費を投入して建設した凍土壁が無用の長物と化すかもしれない。
 ただ、凍土壁の計画は経済産業省が東電に「指示」して動き出したことを考えれば、仮に失敗に終わったとしても東電だけを責めるわけにはいかないだろう。
 地下水の流入を完全に食い止めるのは極めて難しい作業であり、凍土壁の効果を疑う意見は当初からあった。規制委も有効性や安全性に疑問を呈していた。
 国の組織の中でも意見の食い違いがあったわけで、結果に対する責任は東電と共に負わなければならない。
 規制委が指摘したように凍土壁の効果がないとしても、それに代わる抜本的な地下水対策はおいそれと見いだせないだろう。
 結局はくみ上げて保管するか、または浄化してどこかに放流するかしか手はない。
 いずれにせよ早く凍土壁の効果を見極め、必要なら次善の策の検討に乗り出さなければならない。でないと対策は後手後手に回り、汚染水問題が深刻化するだけだ。

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