【記事66701】「国に責任」判決相次ぐ「津波予見できた」(毎日新聞2018年3月16日)
 
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「国に責任」判決相次ぐ「津波予見できた」

 全国で約30件が争われている原発避難者の集団訴訟で、16日の東京地裁判決は改めて国の責任を厳しく問う内容となった。国が被告に含まれる訴訟で出された5件の判決のうち、4件が国を免責しなかったことになる。賠償額については東京電力のみを相手取った1件を加えた6件全てで、東電の既払い額からの上積みが認められた。原告らは東電と国の責任に関する法的議論は決着がついたとして、救済策拡充を求める動きを本格化させるが、国は控訴するとみられ、全面解決への道筋は見通せない。
 原告側は各地の訴訟で「国は福島第1原発への巨大津波を予見できたのに、東電に津波対策を命じるなどの規制権限を行使せず事故を招いた」と主張。国側は(1)東電に対して津波対策を命じる規制権限はなかった(2)巨大津波襲来は予見できなかった(3)仮に東電に津波対策を命じても事故は防げなかった−と反論する。
 (1)については、国の賠償責任を唯一否定した昨年9月の千葉地裁を含む5地裁の判決が全て「規制権限があった」と認定。
 (2)についても、5地裁の判決は全て、政府機関が福島沖に巨大津波が起きうると予測した2002年の「長期評価」を引き合いに「襲来は予見できた」と結論付けた。規制権限の不行使が違法となる時期について、16日の判決は、原発の新耐震基準が策定された06年の年末以降と認定。前日(15日)の京都地裁判決とほぼ同じ判断となった。
 (3)については、昨年3月の前橋地裁判決は「電源の高所配置」、同10月の福島地裁判決は「建屋の水密化」、東京地裁判決は、より簡易な「全電源喪失を想定したバッテリー設置とマニュアル策定」を行っていれば、被害を防止か軽減できたとした。
 原発事故に詳しい海渡雄一弁護士は「16日の判決は先行判決を参照しつつ、集大成的な判断をしようとしたことがうかがえる。司法判断は、国の責任を認める方向に集約されつつある」と分析している。

 ◇見えぬ政治解決
 東京地裁判決は前日の京都地裁判決に続き、自主避難者への賠償額を東電の既払い額から大幅に上積みした。1人当たりの上積み額の平均は約130万円に上り、京都地裁判決の約100万円を上回った。ただし、政府が原発を「冷温停止状態」とした11年12月の翌月以降は「危険を感じさせるほど放射性物質が拡散する恐れは低くなった」として、原則として賠償は不要と結論付けた。
 東京訴訟の中川素充(もとみつ)弁護士は「従来の訴訟の中では、高い水準の慰謝料が認められた。避難の合理性の(期限に関する)判断など問題点もあるが、一歩ずつ前進している」と受け止める。
 約30件の避難者集団訴訟の原告は計約1万2000人に上る。長期化しがちな裁判に並行し、補償や被ばく防止対策の拡充などの点で政治的な解決の必要性を訴えている。原発被害者訴訟原告団全国連絡会で事務局長を務める佐藤三男さん(73)=福島県いわき市=は「事故から7年たち、支援を打ち切られて困窮する避難者も多い。国は裁判を理由に対策を先延ばしするのではなく、避難者の声に応えてほしい」と強調する。
 原告・弁護団は今後、国や東電、国会などへの支援拡充の呼びかけを本格化させる意向だが、国と東電はこれまで控訴を繰り返しており、ただちに政治的解決のテーブルに着く可能性は高いとは言えない。

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