【記事66709】福島第1原発事故 原発避難者訴訟 判決要旨(毎日新聞2018年3月16日)
 
参照元
福島第1原発事故 原発避難者訴訟 判決要旨

 東京電力福島第1原発事故避難者の集団訴訟で国と東電の賠償責任を認めた15日の京都地裁判決の要旨は次の通り。

予見可能性

 原発を管理する東電や、監督権限がある経済産業相は常に最新の知見に注意を払い、現在の原発の安全性について、万が一にも事故が発生しないといえる程度かどうか常に再検討することが求められている。
 2002年7月に国の地震調査研究推進本部が公表した「長期評価」では三陸沖北部から房総沖の付近で地震発生の可能性が指摘されていた。国と東電はこの知見に当てはめて津波評価を算出していれば、02年末ごろまでには福島第1原発1〜4号機付近で、敷地の高さから10メートルを超える津波到来の危険をある程度具体的に予見することは十分可能だった。

東電と国の責任

 東電は08年4月の試算で10メートルを超える津波到来を予見したのに対応を怠った。事故を回避する措置を取らなかったことは許されない。
 国は津波到来の危険が間近に迫っている状況ではなかったとはいえ、遅くとも06年末には東電に対する規制権限を行使すべきで、そうすれば事故を回避できた可能性は高い。東電に対して長期評価の見解に基づく津波の高さの試算をさせるとともに、津波への対応を命じなかったのは著しく合理性を欠き、職務上の法的義務に反し違法だったと認められる。

責任の割合

 福島1〜4号機の安全管理は、1次的に事業者の東電が責任を負い、国の責任には2次的な側面がある。だが、国が規制権限を行使していれば事故は防げたのだから、東電と国のいずれもが原告の損害全額に関わったと認められる。
低線量被ばく
 低線量被ばくに関する科学的知見は未解明の部分が多く、空間線量が年間1ミリシーベルトを超える地域からの避難や避難継続が全て相当だという原告側の主張は採用できない。一方、政府の避難指示の基準が年間の追加被ばくを20ミリシーベルトとする点は一応の合理性があるが、絶対的な指針ではなく、そのまま避難の相当性を判断する基準にもなり得ない。

避難の相当性

 避難指示による避難は当然、事故との因果関係がある。そうでない避難でも、個々人の属性や置かれた状況によっては各自がリスクを考慮した上で避難を決断したとしても、社会通念上相当な場合があるというべきだ。
 事故当時、自主的避難等対象区域外に居住していても、(1)福島第1原発からの距離(2)避難指示区域との近接性(3)政府や自治体が公表した放射線量の情報(4)自治体で自主的避難者が多いか少ないかなどの状況(5)避難した時期(6)自主的避難等対象区域との近接性(7)子どもや放射線の影響を特に懸念しなければならない家族がいるかどうか−−などさまざまな要素を考慮して避難の相当性を判断する。

個別の検討と結論

 原告174人のうち149人に避難の相当性が認められる。15人は認められず、残る10人は避難していないか、当時は胎児だった。自主的避難の場合、避難から2年経過するまでに生じた損害を事故と因果関係があると認める。
 東電への直接請求や裁判外紛争解決手続き(ADR)で損害と認められた額なども考慮して損害を個別に検討し、支払われた額を差し引いた結果、請求が認められる原告は110人で認容額は約1億1000万円となる。

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