【記事88770】結審まで37回 強気の3人、いらだち見せ反論も…東電旧経営陣裁判(産経新聞2019年9月20日)
 
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結審まで37回 強気の3人、いらだち見せ反論も…東電旧経営陣裁判

 東京電力福島第1原発事故をめぐる刑事裁判は結審まで計37回に及び、旧経営陣3被告への被告人質問のほか部下や専門家ら計21人への証人尋問が行われた。「巨大津波が襲来する」との試算の評価が焦点だったが、3被告と証人らの説明には食い違いもあった。被告らは時折、いらだちをあらわにしながら、部下らの証言を否定していく強気の姿勢を見せていた。
 検察官役の指定弁護士は、地震予測「長期評価」を根拠に算出された「最大15・7メートルの津波が襲来する」との試算を基に対策すれば事故は防げた、と主張してきた。
 これに対し元会長の勝俣恒久被告(79)は「そんなものをベースに企業行動をとることは、あり得ない」と語気を強めた。勝俣被告は、長期評価の信頼性は絶対的ではなかったとして直ちに対策に乗り出さなかったことの正当性を強調。試算を伝えた当時の担当部長、吉田昌(まさ)郎(お)氏(事故時の第1原発所長)の口ぶりも「懐疑的だった」ことなどから担当部署に精査を任せていたと説明した。
 元副社長の武藤栄被告(69)は、平成20年7月に長期評価の妥当性の検討を外部に委ねるよう指示。これが対策の「先送り」に当たると主張する指定弁護士の指摘については「大変心外」といらだちを見せた。元副社長の武黒一郎被告(73)も試算は「切迫性を感じさせるものではなかった」と振り返った。
 一方、試算を被告らに報告した社員らは、長期評価を「対策に取り入れざるを得ないと思っていた」と証言。うち1人は、武藤被告の指示を「対策の保留」と受け止め、「予想外の結論だった」と語っていた。
 また、地震対策部門トップだった元幹部の調書からは、3被告が出席した20年2月の会議で「長期評価を対策に取り入れる方針がいったんは了承されていた」と元幹部が認識していたことが判明。会議資料にも津波対策の記載があったが、3被告とも「説明を受けた記憶がない」と否定した。
 結局、ただちに長期評価が取り入れられなかったのは「対策工事には時間も費用もかかり、工事が終わるまで運転停止を求められる可能性があったから」との見解を述べていた元幹部。
 武藤被告は「原発は安全第一で、合理的で必要なら当然支出する」と述べ、費用と対策の保留は無関係との考えを示した。公判ではこうした認識のずれを埋めきれなかった感も否めない。元幹部は体調不良などのため出廷はかなわず、吉田氏は亡くなっている。裁判所が直接、証言を聞くことはできなかった。
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