[2015_05_25_01]福島第1 大津波 実効的対策怠る IAEA報告書 安全評価も不十分 甘い認識を痛烈批判 事故再発に強い危機感(茨城新聞2015年5月25日)
 【ウィーン共同=宇田川謙】国際原子力機関(IAEA)が東京電力福島第1原発事故を総括し、加盟国に配布した最終報告書の全容が24日、判明した。東電や日本政府の規制当局は大津波が第1原発を襲う危険を認識していたにもかかわらず実効的な対策を怠り、IAEAの勧告に基づいた安全評価も不十分だったと厳しく批判した。

 報告書は42カ国の専門家約180人が参加して作成。要約版約240ページが6月のIAEA定例理事会で審議された後、9月の年次総会に詳細な技術報告書と共に提出される予定で、国際的な事故検証は大きな節目を迎える。事故の教訓を生かした提言も含まれており、今後、各国の原発安全対策に活用される。
 再稼働へ向けた動きを進める電力各社に対し、安全対策の徹底を求める声も強まりそうだ。
 報告書では、東電が原発事故の数年前、福島県沖でマグニチュード(M)8・3の地震が起きれば、第1原発を襲う津波の高さが最大約15メートルに及ぶと試算していたが、対策を怠ったと批判。原子力安全・保安院も迅速な対応を求めなかったと指摘した。
 背景には原発は安全との思い込みがあり、IAEAが各国に勧告する安全評価方法を十分実施せず、非常用ディーゼル発電機などの浸水対策を欠いていたとした。
 原発で働く電力社員らは過酷事故に対する適切な訓棟を受けておらず、津波による電源や冷却機能の喪失への備えも不足。原発事故と自然災害の同時発生に対応するための組織的な調整もなかったとした。
 IAEAは提言として、世界の原発で設計時の敵定を替える自然災害への対策や、新たな知見に基づいた安全対策の強化を要請。第1原発で増え続ける汚染水の対策としては、浄化設備でも除去できないトリチウムを含む水の海洋放出を検討することを求めた。
甘い認識を痛烈批判

 【ウィーン共同】「勧告した安全評価を十分実施しなかった」「国際的な慣行に従わなかった」。国際原子力機関(IAEA)がまとめた東京電力福島第1原発事故の最終報告書は、東電や規制当局の認識の甘さを痛烈に批判している。
 事故当時、東電や日本政府からは「想定外」との弁明が相次いだ。しかし、IAEAは日本が何十年にもわたり原発の安全性を過信、発生の確率が低い災害などに十分備えてこなかったと一蹴した。
 IAEAは福島の事故前から、加盟国に対し原発の安全性を評価する際(機器の故障などが大事故に至るすべての可能性を把握する確率論的安全評価(PSA)の適用を勧告。2007年の専門家による訪日調査では「日本には設計基準を超える事故について検討する法的規制がない」と指摘し、過酷事故に十分備えるよう求めていた。
 しかしIAEAの勧告や助言を受けた抜本的な対策は取られず、報告書によると、第1原発ではPSAを十分適用せず、非常用ディーゼル発電機などの浸水対策が不足。10年ごとの定期安全レビューでも地震・津波予測の再評価が義務付けられておらず、過酷事故への対応や安全文化の見直しも含めて「国際的な慣行」に十分従っていなかった。
 IAEAの天野之弥事務局長は安全対策の現状に満足せず「心を開いて経験から学ぶことが原発の安全文化向上の鍵」と訴えている。

lAEA提言のポイント

 自然災害の規模は十分に余裕家持たせて想定し、同時発生も考慮する。原発の安全対策を定期的に見直す。
 従来の事故想定を疑い、安全意識を向上する。
 電力事業者、国や地元の当局の間で緊急時の役割と責任を明確化する。
 被ばくによる健康被害について、分かりやすい情報を適切に提供する
 汚染水や放射性廃棄物の管理を含む国家戦略を策定する
 政策決定について被災地住民の信頼と関与が不可欠

事故再発に強い危機感

解説

【ウィーン共同=宇田川謙】国際原子力機関(IAEA)が東京電力福島第1原発事故を総括する報告書で、日本の安全対策不足を厳しく批判した背景には、日本で原発再稼働への動きが進み、世界でも原発建設が増える見通しの中、再び過酷事故が起きかねないことへの強い危機感がある。

 福島の事故前にも1979年にスリーマイルアイランド(米国)、86年にチェルノブイリ(旧ソ連)で原発の大事故が起きたにもかかわらず、日本では「よそごと」として原発の安全神話にあぐらをかき、電力会社と政府の規制当局は真摯(しんし)な対策を怠ってきた。
 原子力技術の優等生″だった日本での事故により国際的に原発への信頼は大きく揺らぎ、ドイツが2022年末までの全商用原子炉の稼働停止を決定、スイスやベルギーなど先進国を中心に脱原発へかじを切る国が続いている。
 しかし日本では安倍政権が「原発回帰」を推進している。今夏にも九州電力川内原発が再稼働する見通しで、トルコなど海外への原発輸出も進めている。
 世界全体を見渡しても、電力需要が急増する新興国を中心に原発は増える見通しで、日本を含め世界各国で原発の安全意識を徹底できるかが問われている。
 近い将来、いずれかの国で再び過酷事故が起きれば、国際的な原子力平和利用への信用が崩壊しかねない。IAEAの天野之弥事務局長も報告書で「第1原発事故が人間に与えた大きな影瞥を忘れてはいけない。安全が最も大切だ」と強調し、教訓を生かした事故防止に努めるよう訴えている。
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