[2018_05_28_01]<日立>英の原発計画を継続 電力買い取り価格なお隔たり(毎日新聞2018年5月28日)
 
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<日立>英の原発計画を継続 電力買い取り価格なお隔たり

 ◇取締役会で承認

 日立製作所は28日、取締役会を開き、英国中部で計画する原子力発電所の新設事業について、当面は計画を推進し、英政府との交渉を継続する方針を確認した。英政府の支援の意思を示すメイ英首相からの書簡を受け、即時撤退の必要はないと判断した。近く、英政府と計画の継続を確認する覚書を交わす。ただ、日立と英政府間では、稼働後の電力買い取り価格や事業会社への出資比率を巡ってなお隔たりがあり、2019年度中に予定される最終合意が実現するかは不透明だ。
 日立が原発新設計画を進めるのは、英中部アングルシー島のウィルファ原発で、20年代半ばの稼働を目指している。
 日立は利益を十分確保できる価格での電力買い取りを英政府に求めると同時に、事故などの不測の事態に備えて出資比率を極力抑えたい意向だ。一方の英政府は、買い取り価格が高いと電力料金が上がり、国民の反発を招くため、買い取り価格を低く抑えたい事情がある。
 計画では、当初、総額約3兆円の事業費のうち、約2兆円の融資枠に三菱UFJ銀行など3メガバンクなどが参加し、政府全額出資の日本貿易保険が債務保証する案が検討されていた。しかし、コスト増を懸念する日立側から支援強化の要請を受け、英国側が債務保証する案を提示。約2兆円の融資枠を英政府が債務保証し、残る約1兆円の出資枠を日英それぞれの政府・企業が3分の1ずつ、日立が残りの3分の1を負担する案などが検討されている。日立の中西宏明会長は今月3日、メイ首相とロンドンで会談。計画撤退の可能性にも言及しながら英政府の支援を求めたが、買い取り価格を巡る交渉は難航しているとみられる。
 28日の取締役会では、メイ首相の支援の意思を伝える書簡を提示することで、計画推進と交渉継続の方針を確認した。だが、英側との調整が遅れ、当初目指した英側の提示した新たな支援策を盛り込んだ覚書の承認には至らなかった。
 日立は、当面撤退しないことを決めたが、融資・出資の詳細な条件はまとまっておらず、「買い取り価格や詳細な費用が決まらないうちは、出資の判断はできない」(政府関係者)と出資に参加する日本企業のめども立っていない。
 日立とともに原発輸出を推進した東芝は、06年の米原子力会社買収をきっかけに、巨額の赤字を抱えて事業から撤退しており、トルコで原発建設計画を進める三菱重工業も、計画の見直しを検討している。
 メイ首相の書簡や、今後交わす予定の英政府との覚書には拘束力がない。日立は巨大なリスクを抱える原発建設計画を、英政府の具体的支援が不明のまま、リスク回避の確証もなく継続する形となる。そのため、「英は交渉上手で、具体的支援を確約しないまま計画推進を既成事実化していく。日立や日本政府は後戻りを困難にさせられているのではないか」(原発計画関係者)と懸念する声も出ている。【藤渕志保、土屋渓】

 2012年に独企業から買収した英原発会社「ホライズン・ニュークリア・パワー」を通じ、英中部ウェールズ地方アングルシー島に130万キロワット級の改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)2基を建設する計画。総事業費は安全対策などで3兆円規模に膨らんでいる。稼働後に英政府が電力買い取り価格を保証する計画で、現在、日立と英政府などで、買い取り価格や融資・出資の負担などを協議している。稼働後の原発運営や保守などでは、米電力大手エクセロンや日本原子力発電が協力する。
 日立は19年度中に着工の可否を判断し、20年代半ばの運転開始を目指す。日立は工事の準備などに、既に約2000億円を投じている。

 ◇日立の英原発新設計画を巡る経緯
2012年 3月 英中部などで原発建設を予定していたホライズン社の株主が売却を表明
     11月 日立が約890億円でホライズンを買収
  16年12月 日英両政府が原子力分野で協力する覚書を締結
  17年12月 日立が英国での原子炉設計審査が完了したと発表
  18年 5月 日立の中西会長が英国のメイ首相と会談
  19年度   日立が計画継続か撤退かの最終結論
  20年代半ば 運転開始予定

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