[2019_01_07_02]社説:エネルギー 日本は周回遅れの自覚必要(京都新聞2019年1月7日)
 
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社説:エネルギー 日本は周回遅れの自覚必要

 旅行代理店に務める坂田伸子さん(52)=京都市下京区=は昨年9月、北海道旅行の添乗中、大地震に遭遇した。札幌市内に滞在中で、参加者は無事だったが、停電が3日間続いた。
 「携帯は電池切れ、電子マネーやクレジットカードも停止。一時はホテルもなく、高齢のお客様もいて本当に困った」と話す。
 北海道地震では一時、道内全域約295万戸が停電した。日本の電力会社では初の事態だった。
 道内の電力需要の約半分を供給する苫東厚真火力発電所が地震で破損して緊急停止し、他の発電所も停止した。

 ■電源の分散化が急務

 電力は発電量と使用量が均衡する必要がある。大規模な苫東厚真が停止して道内の電気の需給バランスが崩れ、他の発電所も設備を守るため自動的に停止した。
 緊急時に本州から電気を供給する仕組みがぜい弱だったという特有の問題があったとはいえ、大型発電所に広い地域が依存する仕組みは日本全体に共通する。現状でいいのか、という問いを北海道の経験はわれわれに突きつけた。エネルギー供給体制の見直しが急務だ。
 政府が「2030年度に22〜24%」と掲げる再生可能エネルギーの普及も、電源の分散と供給のネットワーク化が不可欠になる。鍵を握るのは「地域」だろう。
 この点で注目を集めているのが湖南市で市民と地元企業、行政が協力して進める「エネルギーの地産地消」だ。
 一口10万円で出資を募り、市の施設や事業所の屋根などに太陽光パネルを設置。売電利益の配当などは地域商品券で支払われる。さらに、市と民間企業が電力小売業者を設立。発電した電気を市の施設や企業へ販売している。
 こうした地域発のエネルギー供給は、欧米では既に一般的になっている。巨大な火力や原子力発電から脱却する動きにもつながっていることに改めて注目したい。
 史上最悪レベルともいわれる東京電力福島第1原発事故から間もなく8年になる。だが、安倍晋三政権は昨年取りまとめた新しいエネルギー基本計画で原発を全電源の20〜22%を占める「ベースロード電源」と位置づけ、再稼働をさらに進めようとしている。
 20〜22%に達するためには30基の原発を動かす必要があると指摘される。現在、稼働しているのは8基(昨年12月末)である。原発の寿命や定期点検、原発の新設が困難な現実を勘案すれば、30基の稼働は難しい。脱原発こそがやはり現実的な選択肢である。

 ■原発輸出は不可能に

 安倍政権が「成長戦略」の柱に掲げる原発輸出事業も昨年末、破綻が明確になった。
 日立製作所が英国で計画していた原発新設が事実上頓挫した。三菱重工業などがトルコで進めていた原発建設計画も暗礁に乗り上げている。いずれも原因は膨れあがった事業費だ。
 安倍政権には、福島原発の事故で国内の原発新設が難しい中、輸出で原子力事業を維持する狙いがあった。
 しかし福島の事故は原発に対する世界的な潮流も変えていた。再生可能エネルギーの研究が飛躍的に進み、コストも急速に低下した。原発は安くもなく、安全でもないことはもはや明白だ。
 世界エネルギー機関(IEA)は昨年の「世界エネルギー見通し」で40年に世界の再生エネルギー発電量が全体の40%に高まる一方、原子力は11%から10%に低下する見通しを示している。
 再生エネルギー推進の立場ではないIEAですら、原発比率の低下は確実と見通している。安倍政権と経産省は世界のトレンドを完全に見誤っている。政策を考え直すべきではないか。
 昨年末にポーランドで開催された気候変動枠組み条約第24回締約国会議(COP24)でパリ協定の実施指針が決まった。

 石炭で孤立する日本

 会議場では国際交渉と同時に、再生可能エネルギーへの投資を呼びかける事業セミナーが頻繁に開かれた。同時に目立ったのが、石炭火力発電など化石燃料を使う事業からの投資引き上げを呼びかける会合だった。
 標的は、35もの石炭火力発電計画を持つ日本だ。大量の温室効果ガスを排出する石炭火力発電からは、欧米の年金基金など大口のファンドが既に投資撤退を始めている。日本の周回遅れは際立っている。
 パリ協定は、地球の気温上昇を産業革命以前から1・5〜2度未満に抑えることが目標だ。実施指針の決定で1997年に採択された京都議定書は空白なく引き継がれる。
 今年5月には科学者でつくる「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の定期総会が京都市で開かれる。IPCCはさらなる取り組みの必要性を示すだろう。
 地球環境とエネルギーの将来のために、京都からの前向きなメッセージの発信が期待される。

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