[2020_02_05_03]岩波「科学」2月号の小野論文 北海道電力の主張をくつがえした1枚のCT写真 泊原発・敷地内の活断層の決定的証拠 「最後の賭け」に出た北海道電力の主張は完全に崩壊 小野有五(行動する市民科学者の会・北海道;通称「ハカセの会」)(たんぽぽ舎2020年2月5日)
 
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岩波「科学」2月号の小野論文 北海道電力の主張をくつがえした1枚のCT写真 泊原発・敷地内の活断層の決定的証拠 「最後の賭け」に出た北海道電力の主張は完全に崩壊 小野有五(行動する市民科学者の会・北海道;通称「ハカセの会」)

◎ 泊原発の再稼働を目指す北海道電力に対し原子力規制委は、2019年2月22日の審査会合で、私たち「ハカセの会」などの主張(その後、「活断層研究」51号に査読付き論文として受理、掲載されました)を認め、泊原発敷地内のF−1断層は新規制規準にいう「活断層」であることを否定できないと初めて公式に述べました。
 F−1断層上方の小断層群は、古い地層で頭を切られておらず、33万年前の砂層中で上端がせん滅しているので、12.5万年前以降の活動を否定できないとする渡辺・小野論文(2018)をも援用した科学的な認定でした。
 しかし、あくまで再稼働に固執する北海道電力は、F−1断層とその上方に伸びる小断層群との連続性が一部で途切れていることから、「両者は別物」と頑強に主張、それを証明する追加調査をすると言って審議の引き延ばしを図ったのです。

◎ その調査結果を公表した2019年11月7日の審査会合で、北海道電力は、2月にあれほど主張した「F−1断層と小断層群は別物」説を自ら否定、両者は連続すると主張を一転させました。まさに「最後の賭け」に出たのです。
 そして、小断層のうち3本が33万年前の地層に切られていることを調査で発見したので、「F−1断層は活断層ではない」と主張したのです。
 これを受けて11月15日、吹雪のなかで強行された原子力規制委の現地視察では、雪のためにまともな観察もできないなか、いくつかの課題は出されたものの、規制委は、北電の主張をほぼ認めてしまいました。

◎ 北海道電力が新たに掘削した地層断面には川底で堆積した砂利の層が出ているのですが、北電は小断層のうち2本は、その「砂利層との境界でぴたっと止まっている」とし、砂利層を33万年前としたので、「小断層に連続するF−1断層も33万年前より古くなるから活断層ではない」と主張したわけです。
 一見、理路整然としていますが、そこには意図的ともいえる大きな見落としが隠されていました。
 砂利層は、単に川底にたまっただけではなく、堆積後、「周氷河作用」による大きな擾乱を受けていることが写真からも明らかだからです。
 「周氷河作用」というのは、寒冷気候のもとで土壌が凍結・融解を繰り返したり、一年中、凍ったままの永久凍土ができたりすることで生じる擾乱や移動のことです。
 砂利層の基底部は、大きな擾乱を受けて一部は斜めに滑るなど、複雑な形態を示しています。
 もし、砂利層の境界まで延びるような小断層がそれ以前にできていたとしたら、この擾乱により、小断層は境界付近で変形を受けるはずです。
 しかし、境界面でも小断層はまったく乱れていないのです。この事実だけでも、「小断層は、砂利層の堆積とその後の擾乱の後にできた」ことは明らかなのですが、これまで「周氷河作用」を全く認めてこなかった北電ですから、そんな擾乱はなかったと北電が強弁すれば、規制委も押し切られてしまう危険がありました。

◎ しかし、小断層は、決して「砂利層との境界面でピタリと止まって」はいなかったのです。その動かぬ証拠が、なんと北電が審査会合で提示していた境界面付近のCT画像から見つかりました。病院で撮られるCT写真と同じものです。
 11月の審査会合でネット上に公開された北電の資料を徹底的にチェック、この1枚の画像だけでも数十回、拡大したり縮小したりして見ているうちに、ある日、突然、気づいたのです。なんだ、小断層は境界を突き抜けて、砂利層のなかまで入っているじゃないか!

◎ 主観的な判断にならないよう、断層の専門家やCT画像を見慣れている地質学者数名にも送って見てもらいました。すべての方が、まちがいなく突き抜けていると言われました。
 皆さまにもご自分の目で見ていただきたいです。
 北電の主張は、自らが提出していたCT画像によって自ら崩れたのです。
 もう1本の小断層を止めていると北電が主張したのは、「33万年前の斜面堆積物」と北電が判断した地層でした。
 しかし実際には、それは最終氷期、おそらく2から3万年前に、やはり強い周氷河作用を受けて移動・堆積した斜面堆積物でした。

◎ 論文には間に合いませんでしたが、その後、地元で原発の建設前から泊をウオッチされてきた斉藤武一さんから、建設前に敷地周辺を空から撮った写真をいただくことができ、
「科学」2月号のウエブサイト
  https://www.iwanami.co.jp/kagaku/KaMo202002.html
  に掲載されましたので、ごらんください。

 敷地内には何段かの海成段丘面があります。本来、段丘面と段丘面は、雛壇のように、切り立った段丘崖で区分されるのが普通ですが、北海道では、「周氷河作用」によって崖は崩れ、なだらかな周氷河性斜面に変わってしまいます。それがよくわかる写真です。
 1号機建設時にそこを5m以上も掘った場所(開削箇所南側)で、わずかに切り残された周氷河性斜面堆積物の基底部が小断層を切っていたにすぎません。
 今回のCT画像と、このような周氷河性斜面の認定で、北電の主張はことごとく破れ去りました。
 規制委が、それらをきちんと評価し、科学的な判断を下してくれるのを願っています。

「科学」2月号は1月24日より発売中

小野有五(2020)「泊原発の活断層審査で周氷河作用を無視する北海道電力」、科学、90、(2)、102-113.

渡辺満久・小野有五(2018)「泊原子力発電所敷地内の断層活動時期に関する問題」、科学、88、(11)、1086-1090.

小野有五・斉藤海三郎(2019)「北海道西部、岩内平野の地形発達史―泊原発の敷地内断層と関連して―」、活断層研究、51、27-52.
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