【記事14956】原子力発電所の津波評価技術(2002)PDF版(土木学会_原子力土木委員会_津波評価小委員会2002年2月1日)
 
 

巻頭言他         215KB
本編            2398KB
附属編-1(資料編)   16313KB
附属編-2(レビュー編) 12606KB

英語版:「原子力発電所の津波評価技術:本編(体系化原案)」 平成18年5月
`Tsunami Assessment Method for Nuclear Power Plants in Japan' PDF(571KB)

・委員会報告 [土木学会論文集B Vol. 63 (2007) , No. 2 pp.168-177]
津波評価手法の高精度化研究 −津波水位の確率論的評価法ならびに分散性と砕波を考慮した数値モデルの検討− / [PDF (2688K)]

※引用者注:以下は参照元の巻頭言及び本編のまえがき部をテキスト化したものである。

●巻頭言

原子力発電所の津波評価技術
平成14年2月
土木学会原子力土木委員会
津波評価部会

巻頭言
 わが国にとって原子力発電は,将来にわたる電力の安定供給や地球温暖化問題等に資するとの観点から,エネルギー政策上重要な位置づけにある。
 (社)土木学会原子力土木委員会は,設立以来,原子力発電所の安全かつ合理的な立地・建設に係わる種々の課題に取組み,以下の成果を挙げてきた。
 まず,原子力発電所の在来立地技術の標準化・基準化に取組み,その成果として,1985年には報告書「原子力発電所地質・地盤の調査・試験法および地盤の耐震安定性の評価手法」を,1992年には報告書「原子力発電所屋外重要構造物の耐震設計に関する安全性照査マニュアル」を刊行した。
 次に,新規立地点確保難や発電所と電力大需要地の遠隔化による送電コストの増大等の状況に鑑み,立地の制約条件を技術面から緩和するための検討を行った。その成果として,1996年には,第四紀地盤立地,地下立地,人工島式海上立地に関する現状技術の体系化を達成し,報告書「原子力発電所の立地多様化技術」を刊行した。引き続き“人工島式海上立地技術の高度化”,“断層活動性評価技術”,“立地支援技術”の検討を進め,1999年「原子力発電所の立地多様化技術(追補版)」を刊行した。
 さらに,1993年の北海道南西沖地震津波ならびに1995年の兵庫県南部地震を契機として,各方面で防災性向上の気運が高まり,原子力土木委員会においても,原子力発電所の一層の安全性向上に向けて「新立地部会−断層活動性分科会」,「耐震性能部会」,「津波評価部会」が活動を行っており,また2001年度下期より「地盤安定性評価部会」が設置される予定である。それぞれの部会においては,最近の大地震に関する最新の知見等に基づき評価技術の高度化や標準化を図りつつある。
 本報告書「原子力発電所の津波評価技術」は,津波評価部会の1年半にわたる活動の成果をとりまとめたものである。すなわち,これまでに培ってきた津波の波源や数値計算に関する知見を集大成して,原子力発電所の設計津波水位の標準的な設定方法を提案したものである。提案された手法の特長は,津波予測の過程で介在する種々の不確定性を設計の中に反映できることである。
 本成果が,原子力発電所の耐津波設計はもとより,国,電力,社会の各方面で活用され,安全性向上と安心感の醸成に貢献できることを念ずる次第である。
 最後に,津波評価部会の活動に取組んで短期間のうちに意義のある成果にまとめられた首藤伸夫部会主査をはじめとする委員・幹事のご努力に深く感謝の意を表します。

平成14年2月
(社)土木学会原子力土木委員会委員長 加藤正進

部会主査挨拶
 津波は稀にしか発生しない自然外力である。その実態,それによる被害の種類や規模には,未だ不明の点が多々残されている。発電所関連では,火力発電所が小さな津波の影響を受けたことが1例あるに止まる。巨大津波が来襲した場合,沿岸の原子力発電所で何が起るかは,勿論前例がない。前例がなくとも,対策はなされてきたのであるが,これを見直し体系化する条件が最近整ってきた。
 津波に関する学問には,1970年代後半に発展の兆しが現われ,それ以降現在も,急速に発展しつつある。必要な折々には,こうした発展の成果が津波危険度評価に取り入れられてはいたが,一度各方面から精査して,現状で最も妥当と思われる評価技術として取りまとめようとしたのが,今回の作業である。
 津波発生の原因である地震,津波数値計算技術や水理実験,海岸防災,津波防災,発電技術の研究と現場といった様々な専門家が集まり,入念な検討を行った。平成11年11月の第1回部会に始まり,現地調査をも含んで平成13年3月まで,計8回の部会を行ったのである。
 津波数値計算結果を実用設計に用いる場合,次の三点について理解しておくことが重要であると考える。
 第一は,地球物理学的問題として,津波初期波形をどの位の精度で推定できるかという問題である。地震,そして地盤変形即ち津波初期波形という推定の流れはまとまってきてはいるが,悩みはこれでは不十分な例がいくつか見られることである。どのような補正を必要とするか,どの位の不確定性を考慮せねばならないかを知っておかねばならない。
 第二は,津波数値計算技術の精度である。どのような式を用いるか,どのような差分で計算するかなどの実用的な規準はかなり判明してきたが,まだ,局所的な津波の挙動全体を解明するとはどういうことか,それに足るだけの地形情報が整っているか,等の問題を抱えている。
 第三は,計画論である。一体,どのような地震,どのような津波を計画対象に選ぶべきなのか,それを上記のような問題を有する計算結果を使わなくてはならないという条件下で,考えなくてはならないのである。
 こうした問題について,豊富な例題を通じて,検討し,判断し,その結果をまとめたのが本報告書である。
 本報告書は3部から成り立っている。第1部は本編で,津波数値計算をする実務に携わる人々のためのマニュアルである。この作成に当たっては,第2部付属編に含まれている資料を基に,全委員の検討と討議が行われた。その結果として,現時点で確立しており実用として使用するのに疑点のないものが取りまとめられている。
 前述した通り,津波学は正に日進月歩の発展をしつつある。討議の中で,実用間近なもの,近い将来解決すべきものなどが話題となり,これらへ注意を向け,いずれ評価技術の中に繰り込む必要性のあることが認識された。これを幹事会(幹事長:田中寛好)が取りまとめたのが,第3部となっているレビュー編で,将来の課題が例示されているものである。
 ここにまとめられた結果は,国の関連7省庁(国土庁,農林水産省構造改善局,農林水産省水産庁,運輸省,気象庁,建設省,消防庁)が平成9年3月に取りまとめた「地域防災計画における津波対策強化の手引き」を補完するものであり,原子力施設のみならず,他の沿岸の津波防災に利用すべき内容となっている。広く使用されることを期待する。

平成14年2月
(社)土木学会原子力土木委員会
津波評価部会主査 首藤伸夫(岩手県立大学教授)

土木学会
原子力土木委員会
構成
(敬称略50音順,平成13年9月現在)
顧問 千秋信一 電力中央研究所
委員長 加藤正進 電力中央研究所
委員 井澤一 電源開発
   石原研而 東京理科大学
   井上頼輝 福井工業大学
   衣非安章 九州電力
   岡村甫 高知工科大学
   垣見俊弘 原子力発電技術機構
   川本眺万 名古屋大学
   岸清 東京電力
   小池一之 駒沢大学
   合田良実 エコー
   小島圭二 地圏空間研究所
   近藤茂 関西電力
   坂巻昌工 核燃料サイクル開発機構
   佐藤哲明 東北電力
   首藤伸夫 岩手県立大学
   武山正人 四国電力
   田中源之助 北海道電力
   土岐憲三 京都大学
   徳山明 富士常葉大学
   中井卓 北陸電力
   永倉正 電力中央研究所
   西村進 京都自然史研究所
   林正夫 電力中央研究所
   藤原茂範 中国電力
   吉井幸雄 日本原子力発電

委員兼幹事長 西好一 電力中央研究所
委員兼幹事 鈴木義和 東京電力
      仲村治朗 中部電力
幹事 大友敬三 電力中央研究所
   金谷賢生 関西電力
   河井正  電力中央研究所
   木方建造 電力中央研究所
   幡谷竜太 電力中央研究所
   松山昌史 電力中央研究所

土木学会 原子力土木委員会
津波評価部会 構成
(敬称略50音順,平成13年3月現在)

主査 首藤伸夫 岩手県立大学
委員 阿部勝征 東京大学
   磯部雅彦 東京大学
   今村文彦 東北大学
   遠藤正昭 東北電力
   岡田義光 文部科学省防災科学研究所
   梶田卓嗣 九州電力
   金谷賢生 関西電力
   河田惠昭 京都大学
   後藤智明 東海大学
   佐伯武俊 四国電力
   酒井俊朗 東京電力
   坂本容  北海道電力
   佐竹健治 経済産業省工業技術院地質調査所
   柴田俊治 北陸電力
   富樫勝男 日本原子力発電
   鳥居謙一 国土交通省土木研究所
   仲村治朗 中部電力
   野口雅之 中国電力
   伴一彦 電源開発
委員兼幹事長 田中寛好 電力中央研究所
委員兼幹事 安達欣也 三菱総合研究所
      安中正 東電設計
      池野正明 電力中央研究所
      木場正信 三菱総合研究所
      曽良岡宏 東京電力
      高尾誠 東京電力
      長谷川賢一 ユニック
      松山昌史 電力中央研究所
      山木滋 シーマス
元委員   神谷誠一郎 九州電力
      小林修二 四国電力
      平岡順次 中国電力
      松本恭明 関西電力
      百瀬洋一 中部電力

●本編のまえがき部

第1章 まえがき
 わが国は,世界でも有数の地震多発帯であるが,人々の居住・活動の場の大部分が海抜の低い所であるため,特に海洋性地震の場合は,地震そのものによる被害以上に地震に伴って発生する津波が,人命,公共諸施設,産業財産,家屋等に大きな被害を与えてきた。そのため,津波に備えることは,かねてより重要な問題と認識されていた。
 津波は,通常海岸で見られる風波とは異なって発生頻度の小さい現象であり,しかも1983年の日本海中部地震津波のような昼間発生する津波のみとは限らないため,実際の現象を目の当たりにすることはほとんどない。そのため,津波の実態解明は容易でなく,様々な海岸を大津波が襲う度に新たな現象が認識され,それを契機として津波研究が進展してきている。例えば,1983年に日本海中部地震津波を経験するまでは,津波はリアス式海岸の湾奥部において大きく増幅されるというのが常識であったが,平坦な海岸線のところでも条件によっては遡上高が大きくなるほか,ソリトン分裂,大和堆のレンズ効果,日本海という閉鎖性水域での多重反射等がこの津波から認識させられた。1993年には再び日本海で最大遡上高が10年前の津波を上回る北海道南西沖地震津波が発生し,島による津波の捕捉現象や複雑地形での遡上高の局所的変化等も改めて認識させられた。
 今までの原子力施設を対象とした安全性評価においては,原子力安全委員会決定の「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針」を踏まえ,個別地点毎に,既往最大の歴史津波および活断層から想定される最も影響の大きい津波を数値計算等により求めて設計津波水位を設定し,これをもとに安全設計が行われてきた。また,水位設定に至る過程では種々の安全側の配慮がなされていること,常に設定時点における最新の知見を反映した検討がなされていることから,今後直ちに問題が発生するとは思われない。
 しかしながら,設計津波の設定技術については,先に述べたように最近の発生事象を契機として発展しつつある分野であるため,これらの事象から新たに得られてくる種々の知見等を柔軟に取り込んでいきながら,発電所の安全性,信頼性をより一層高めていくことが重要であると考えられる。
 以上のような観点から,本報告書は,原子力施設の設計津波の設定について,これまでに培ってきた知見や技術進歩の成果を集大成して,標準的な方法をとりまとめたものである。
 なお,次章以降本報告書においては,「津波評価」という表現を「設計津波の設定」という意味合いで用いている。

【参考文献】原子力安全委員会(1990):発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針

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