【記事37125】スマトラ沖大地震:インド南部の原発 津波で世界初の被災(毎日新聞2014年12月24日)
 
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スマトラ沖大地震:インド南部の原発 津波で世界初の被災

◇「サイクロンに備えあったが、津波は考慮していなかった」
 2004年12月26日のスマトラ沖大地震で、インド南部カルパッカムのマドラス原子力発電所は大津波で被災した。原子炉の冷却に使う海水をくみ上げるポンプ室が浸水して緊急停止。放射能漏れはなかったが、敷地の一部は冠水した。安全設計に関わったインドの専門家、L・V・クリシュナン氏(78)によると、津波で被災した原発はこれが世界初で「当時サイクロンに対する備えはあったが、津波は考慮していなかった」と言う。東日本大震災と東京電力福島第1原発事故が起きるのは、それから6年3カ月後のことだった。
 マドラス原発には1980年代に商業運転を開始した加圧重水型原子炉2基などがある。
 インディラ・ガンジー原子力研究所(カルパッカム)元幹部のクリシュナン氏によると、その日マドラス原発で異常が判明したのは、ポンプ室が浸水したためだったという。当時、インドに津波警報システムはなかった。
 稼働していた2号機は緊急停止したが、津波で原子炉建屋手前のタービン建屋付近まで冠水。地元メディアは、敷地内にある高速増殖原型炉の建設作業員が少なくとも1人死亡したと伝えた。
 インド原子力発電公社の資料によると、マドラス原発の敷地は海抜約6メートルで、津波の高さは最大10.5メートルだった。ただ、原子炉建屋など主要な建物は10.66メートル以上の高さにある。クリシュナン氏は「翌日現場を訪ねたが、電源を喪失したわけではなく、全く不安はなかった」と語る。
 インドは07年から津波警報システムを導入。各原発では防潮堤を建設したり、非常用ディーゼル発電機を高所に配置したりするなど津波対策を強化。福島原発事故後は安全性を検証した。
 クリシュナン氏は「福島で(炉心の冷却に失敗して)水素爆発が起こるなんて信じられなかった」と言う一方「今は状況が違う。原発を守る多くの対策が施された」と強調する。
 だが、一歩離れると違う事情が見えてくる。住民によると、マドラス原発から約2キロ離れた職員の住宅地では、津波で関係者を含む60人以上が死亡。交通も寸断された。職員が有事に対応できないリスクが浮上した格好だ。

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