[2006_03_24_02]志賀原発差し止め判決理由(要旨)(毎日新聞2006年3月24日)
 
 北陸電力の志賀原発2号機の運転差し止めを命じた金沢地裁判決の理由の要旨は次の通り。

 【判断の前提となる一般論】

 ●差し止め請求の根拠

 個人の生命、身体及び健康が現に侵害されている場合、または侵害される具体的な危険がある場合、個人は侵害を排除し、または侵害を予防するために、人格権に基づいて侵害行為の差し止めを求めることができる。

 ●立証責任など

 原告らは本件原子炉の運転により、規制値を超える放射線を被爆(ひばく)する具体的危険があることを主張立証すべきである。
 原告らが具体的可能性があることを相当程度立証した場合において、被告が、具体的危険が存在しないことについて、具体的根拠を示し、必要な資料を提出して反証を尽くさないときは、具体的危険の存在を推認すべきだ。
 原子力安全委員会の安全審査を経ているからといって、原子炉施設の妥当性に欠ける点がないと即断すべきものではなく、問題点ごとにどこまでの事項が審査されたかを個別具体的に検討して判断すべきだ。

 【危険性の主張について】

 改良型沸騰水型炉(ABWR)固有の危険性については、事故が発生する具体的可能性についての立証が不十分である。
 被告は本件原子炉施設でプルサーマルを実施するか否かをまだ決めていないから、プルサーマルが原因で原告らの人格権が侵害される具体的危険があるということはできない。

 【地震・耐震設計の不備】

 ●耐震性の判断方法

 本件原子炉施設の耐震設計が妥当であるといえるためには、施設の運転期間中に大規模な活動をして敷地に影響を及ばし得る震源断層に対応する地表地震断層をもれなく把握していること、直下地震の想定が妥当なものであること、松田式、金井式及び大崎スペクトルを主要な理論的支柱とする基準地震動の想定手法(「大崎の方法」)が妥当性を有することが前提となる。.
 大規模な陸のプレート内地震であっても、地震発生前にはその震央付近に相当する活断層の存在が指摘されていなかったと言われている例や、これに相当する地表地震断層が確認されなかったと言われている例が、00年の鳥取県西部地震のほか、相当数存在している。
 被告がした綿密な調査によっても活断層が見つからなかったからといって、本件原子炉の直下にマグニチュード6・5を超える地震の活断層が存在しないと断ずる合理的な根拠があるとは認めがたい。
 地震の規模の限定なく、地表地震断層の長さから松田式を用いて地震の規模を想定するのは、想定される地震の規模を小さく予測してしまう危険がある。
 マグニチュードと震源距離から岩盤上での地震動を想定する金井式は、その元となったデータの特性と類似する一定範囲の地震動については妥当な結論が得られる可能性が高いと思われるが、その適用の限界は慎重に見定めるべきだ。現実には線状である地震の発生源を点としてとらえる点においても適用の限界がある。
 解放基盤表面における速度応答スペクトルを表した大崎スペクトルは、当該地震動において大崎スペクトルを超える応答速度が生しないというものではないし、データが限られていることによる限界もあり得る。
 結局、「大崎の方法」の妥当性いかんは「大崎の方法」により得られた結果と実際の観測結果との整合性いかんにかかっている。

 ●過去の地震との整合性

 95年1月17日の阪神淡路大震災の観測結果は、「大崎の方法」によって導き出される基準地震動が現実の地震動よりも過小なのではないかとの疑問を生じさせた。
 05年8月16日の宮城県沖地震(M7・2)の際、女川原発の敷地で観測された加速度は、震源が同原発により近かった1897年の仙台沖地震(M7・4、女川原発の設計用最強地震の一つである)が同原発の敷地に与えた地震動を「大崎の方法」で想定した結果を上回った。また、同原発で観測された上記加速度は、同原発の基準地震動S2の最大加速度に達していなかつたのに、基準地震動S2による設計用応答スペクトルの値を上回った部分がある。
 そうすると「大崎の方法」は実際の観測抵果と整合しておらず、その妥当性を首肯し難い。
 「大崎の方法」の妥当性を認めがたい上に、その前提となる、考慮すべき地震の選定にも疑問が残るから、本件原子炉敷地に、被告が想定した基準地震動Sl、S2を超える揺れを生じさせる地震が発生する具体的可能性があると言うベきだ。そのような地震が発生した場合、被告が構築した多重防護が有効に機能するとは考えられない。

 ●具体的な危険

 原告らは地震によって周辺住民が許容限度を超える放射線を浴びる具体的可能性があることを相当程度立証した。これに対する被告の反証は成功していないから、地震によって、周辺住民が許容限度を超える放射線を浴びる具体的危険があることを予測すべきである。本件原子炉の増設にっいての原子力安全委員会の安全審査の結果は、その後生じた重要な地震(00年の鳥取県西部地車、05年の宮城県沖地震など)を前提としていないからこの判断を左石しない。 本件原子炉の運転が差し止められても、少なくとも短期的には被告の電力供給にとって特段の支障になるとは認めがたく、他方で被告の想定を超える地震による事故に場合、周辺住民の生命、身体、健康に与える悪影響はきわめて深刻であるから、周辺住民の人格権侵害の具体的危険は限度を超えているというべきである。
 本件原子炉において地震が原因で最悪の事故が生じたと想定した場合は、原告らのうち最も遠方の熊本県に住む者についても許容限度である年間1ミリシーベルトをはるかに超える被曝の恐れがあるから、すべての原告らにおいて上記具体的危険が認められる。.

 【結論】

 原告らの各請求をいずれも認容するべきである。
KEY_WORD:金沢地裁_運転差し止め判決_:HANSHIN_:MIYAGI0816_:ONAGAWA_:SIKA_:TOTTORI_: